第114話、エアル魔法学校の図書館
エアル魔法学校の教官魔術師シートスのおかげで、ソウヤは学校内図書館に入ることができた。
何人かの生徒が自主学習をしているようだが、ソウヤは教官と一緒だったために注目はされたが声をかけられることはなかった。
ソウヤが、図書館で調べた件は以下のものとなる。
・魔法文字
・呪いの魔術関係
・石化解除の魔法、ないし魔法薬
・治癒の聖石、エリクサーほか復活薬
関係書物を引っ張り出す際、シートスは問うた。
「魔法文字は何故です?」
「魔力をカード化したものに、後から魔法を付け加えたりすることができないか考えていまして――」
魔道具には、魔法発動のために魔法文字が刻まれているものがある。それを応用すれば、魔法カードの魔法バリエーションが増える。
「なるほど、魔術師でカスタマイズができるわけですね!」
「シートス教官は魔道具担当でしたね。そっちは専門そうだ」
「いやあ、ワクワクしますねこれは!」
大変乗り気のシートス教官である。しかし次の項目で、彼の額にしわが寄った。
「――呪いの魔術ですか」
「友人に、呪いをかけられてしまった者がいまして。その解除方法を探しているんですよ」
「それはお気の毒に。……どのような呪いなのですか?」
「ひとつは獣人化の呪いという魔族の魔法です」
「魔族の!?」
興奮気味なその声が図書館に響き、周囲の視線を集めてしまう。ソウヤはシートスに抑えるようにとジェスチャーをした後、続けた。
「もうひとつは、魔法が制御できない呪いです」
「魔法が制御できない呪い……?」
「魔力は豊富なのに、その呪いのせいで魔法が使えない子がいるんですよ。本当なら、この学校の生徒としても充分にやっていける才能はあると思います」
「それは、何とも……」
シートスは少し考える。
「その子、ここに連れてこられますか? 学校の魔術師で、もしかしたらその呪いに対処できる教官がいるかもしれません」
「おお、それはありがたい!」
ソフィア本人に確認が必要だが、彼女としても呪いが解きたいと思っているのは間違いない。案外、聞いてみるものである。
「――それで、魔族の魔法についてですが」
彼の興味は魔族の獣人化の呪いのほうへと流れていった。魔族の魔法は、ここでは教えていないし、教える者がいないので関心が強いのだ。
そもそも魔術師という人種は、自分の奥義は秘密なのに、他人の奥義は知りたがるという性分の持ち主ばかりである。
次、石化解除の魔法や薬。
「飲むタイプはありますが、それ以外だと難しいですね……」
シートスは関係する本をめくりながら言った。
「毒もそうですが、犠牲者が死ぬ前に投与しないと意味がないわけで、完全に石化してしまった者だと、たとえバジリスクの血から作った石化解除薬でも意味がないでしょう」
「石化解除の魔法はどうです?」
「確かなことは言えないですが、学校の教官を蹴るような伝説の魔術師とかが秘術として持っている可能性はありますね。僕ら魔術師の間では、そういう秘匿された魔法を扱う魔術師がいるという噂がまことしやかに流れていますから」
「そういうものですか……」
ソウヤは腕を組む。魔法学校といっても、魔術の全てがあるわけではない。魔術師は秘密主義であり、学校や国に迎合しない者もいるのだ。
「誰か知っていそうな人に心当たりは?」
「うーん……。昔、存在していたという伝説の錬金術師レベルの魔術師ですよね」
シートスも腕を組んで考え込んでしまう。何気に伝説の錬金術師というワードが気になるソウヤ。
「その錬金術師とは?」
「錬金王とか言われていた、数百年前の人物ですよ。発明やら貴重な魔法薬などを作り出したと言われていて……そうそう、エリクサーも作り出せたそうですよ」
飲めば不老不死になるとかいう霊薬、それがエリクサーだ。万能薬としても知られていて、もし市場に出れば天文学的値がつくだろう。
「場所はわかりませんが、錬金王の宮殿には、エリクサーをはじめ、様々な魔道具や財宝が眠っているという伝説があるくらいです。もっとも、今のところ手掛かりもありませんし、宮殿探しに時間とお金を使って身を滅ぼすのがオチみたいですけど」
夢を追いかけ、破産か、あるいは命が尽きる……。ロマンを求めた探索者たちよ――ソウヤは静かに瞑目した。」
最後に、復活系の魔法やアイテムについて――
「さすがに魔法カードに応用は難しいですけどね。行商として、依頼が来たとき、探せるヒントが欲しいんですよ」
「銀の翼商会さんは、頼めばそれを手に入れてくれるのですか?」
「一応、冒険者も兼業していますから、ダンジョンにも潜りますし」
「それなら、僕のほうで注文を出せば、探してくれるんですか?」
「モノによりますがね。あまりに希少だと、さすがに時間制限つけられると無理かもしれませんが」
ただ――とソウヤは不敵な笑みを浮かべた。
「もし居場所がわかるモンスターとかだったら、討伐して希望の部位を持ってこれますよ」
「ヒュドラ殺し!」
またも大きな声を出したシートスに、周囲から咳払いが聞こえた。
「……まあ、そんなわけです。もしご希望でしたら、ヒュドラとかベヒーモスの素材をお売りしますよ」
「ヒュドラにベヒーモス! あ……もしあるなら、魔道具や武具の素材に欲しいところですね」
声を落としてシートスは、そこでニッコリと微笑んだ。
「いやあ、ここでソウヤさんに出会えたのは神の思し召しですね。僕からしたら、あなたは宝の山だ」
「いえいえ……」
――そんな誉めないでくれ。照れるから。
何だかんだで調べ物をしている間に、あっという間に夕方となった。
調べ物も途中なので、続きはまた後日ということになる。浮遊バイクをじっくり見せる時間がなかったから、シートスは『また必ず来てくださいね』と別れを惜しんだ。
魔法カードについては軽く説明した上でサンプルを置いていった。ソウヤが次に来る時までに試してレポートにすると、彼は言った。
「で、これは僕の名前での面会状となります。門番に見せれば、僕が呼ばれることになるので、それでお迎えに上がります」
シートスは、カード型の面会状をソウヤに手渡した。
「僕のほうで学校側から、正式な通行証を発行するように手配しておくので、たぶん次くらいしか使わないと思いますが」
「ありがとうございます」
「こちらこそ。銀の翼商会さんを指定の業者にしておくので、また何か面白い素材とか魔道具ありましたら、いつでもどうぞ」
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