第82話、盗賊スイープ
兵士崩れといった戦士たち。その格好からすれば十中八九、盗賊の類いだろう。なら、遠慮はいらない。
ソウヤは口元を引き締めた。
声を張り上げながら突撃は、その者の恐怖心を抑える。だが見ているほうは、狂戦士のように感じてしまう。
威圧による自身と味方の士気高揚と、敵の士気低下効果。戦場では、案外馬鹿にならないそれだが、相手が悪かったとしか言いようがない。
すっと、息を吸ったミストが、森に轟く咆哮の声をあげた。見た目、美少女から発せられた竜の怒号は、向かってきた者たちの声をかき消し、その戦意まで根こそぎ吹き飛ばした。
「声で威圧するなら、これくらいはしないと」
まったく悪びれる様子もなく、さらりと言ってのけるミスト。盗賊たちが青ざめ、足が鈍りかけたところに、ソウヤとミストが突っ込んだ。
斬鉄と竜爪の槍が薙ぎ払われ、盗賊たちの体が分断された。飛び散る鮮血。
――武器を持って攻めてこなければ命は助けてやってもよかったが、向かってくる以上はね……!
どうせ捕まえても、近くの町に引き渡せば、死刑か重犯罪奴隷として売買だ。
「降伏するなら聞いてやるが……」
そのつもりはないようだ。残っている盗賊たちが、リーダーらしき男にけしかけられている。
「殺せ! 奴らを殺せぇー!」
――じゃあ、お前も……。
ソウヤが言いかけるより早く、ミストが跳躍した。瞬きの間に、リーダーとの距離を詰めると、彼の眼前で彼女は微笑んだ。
「あなたも死ぬ覚悟があるわけね……!」
ミストの言葉に対する返答は、リーダーらしき男の吐血だった。腹を槍に貫かれ、盗賊たちの頭は死んだ。
しかし、あまりの早さに手下たちは気づかず、ソウヤに集団で挑み……まとめてミンチになった。
・ ・ ・
強い……!
ソフィアは、浮遊バイクに繋がる荷台の上にいた。身を隠すように膝をついて、手すりから見ていたが、ソウヤとミストが、数の差をものともせず、盗賊たちを一掃してしまった。
「……これなら助かりそう」
もし、盗賊と混戦になって、バイクのもとまで敵がきたら――そう思うと、ソフィアは背筋が凍る。非力な自分には、襲われたら対抗手段が、持っている杖くらいしかない。一応、武器にはなると思うが、これで人を本気で殴ったことは一度もない。
その時、背後で音がした。
あのセイジという少年だろうか? 彼は先ほどからバイクの周りで、中央を迂回していた盗賊を相手にしていたが……。
「女ァ!」
「ひっ!?」
盗賊の仲間が、荷台に手をかけ登ってきた。ソフィアはその場でへたり込んでしまった。――なんで、敵がここにいるのよっ?
「こうなりゃ、てめぇを人質に!」
「いやっ、こないで!」
手を伸ばす盗賊。無精ひげを生やした、見るからに不潔な男だ。触られるのも嫌なそれが迫り――ふと、その姿勢が後ろへ傾いた。
引き倒されたのだ。盗賊の服の襟首を引っ張り、倒れる男の側頭部をナイフが貫き、えぐった。
声も出せずに、痙攣しつつ絶命する盗賊を手にかけたのはセイジだった。
「怪我はないですか、ソフィアさん?」
初めて会ったときのように、自然な口調で聞いてくるセイジ。
「すみません。ちょっと、周りの敵を片付けるのに手間取っちゃって」
死体を床にそっと置き、他に敵がいないか周囲を見渡す。
――ああ、貧相なんて言葉は取り消すわ。彼も強いじゃない……!
「……何です?」
セイジが、ソフィアを見つめる。果たして自分はどんな顔をしているのだろうか、と熱を感じながら、ソフィアは首を横に振った。
「な、何でもないわ! ……その…………あり、がとう……」
「え、何です?」
お礼を言ったが、小さくなった声の分、聞き取れなかったらしい。これはいよいよ赤面するソフィア。
「何でもないったら!」
「そうですか」
困ったような顔になるセイジ。そうじゃない、とソフィアは、心の中で自分の愚かさを呪いたくなる。
「セイジー!」
ソウヤの声がした。
「そっちは無事か?」
「クリアです!」
「よくやった!」
「何人、やった?」
ミストが問うたが、セイジは眉をひそめる。
「僕、死体の数を数える趣味はないですよ……」
「セイジ、死体数カウント!」
しかしソウヤが死体の数をチェックしていると言うと、すぐに「三人です!」と返した。
ソフィアは怪訝な顔になる。
「死体の数を数えるの?」
「ソウヤさんは、全部埋葬するつもりなんです」
セイジは荷台から飛び降りた。
「死体は放置すると、悪い病気の元になるんです。街道は、人が使うからそういう危険なものを処理をしておかないと、伝染病とかの原因にもなるかもしれない……」
そうなんだ、とソフィアは呟く。
だが、ソウヤとミストが倒した盗賊の死体、真っ二つとかバラバラとかえげつないことになっているのだが……。
横転している馬車を調べていた二人が、とある死体を丁重に扱っているのを見て、盗賊以外の死体だろうと見当をつける。
ソフィアの本音を言えば、盗賊が出たような森からさっさと立ち去りたかった。だがソウヤたちが作業を終えるまで、じっと待った。
放っておけば、森の獣とかが死体を処理してくれるのではないか、とも思ったが、伝染病の原因になる、ということを聞いた以上、大事なことだと納得する自分がいた。……ソフィアは、かつて流行病で友人を亡くしていたのだ。
すべての遺体を埋葬した後、銀の翼商会はその場を後にした。
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