第52話、ダンジョン調査隊
夜遅く、ソウヤたちは冒険者ギルドを後にした。
ヒュドラ解体はギルドに任せて、宿へ。あれだけ騒がしかったお祭り騒ぎも、終息の方向へ向かっていて、ひとしきり飲んだらしいミストはすっかり出来上がっていた。
セイジは、疲労困憊といった様子。彼は戦闘こそしていないものの、ダンジョンでは冒険者の手当や、ソウヤの食料配りの手伝い、その他雑用で走り回っていた。また帰還後の騒ぎで、色々絡まれたのだろう。
アイテムボックス内のボックスハウス。部外者のいない空間に、ソウヤとミスト、そしてセイジは帰ると、ひとまず寝た。
ソウヤもまた、死闘に商談にと、肉体と精神双方で疲労しており、あっさり眠ることができた。
翌朝、全員が起床して朝食。ソウヤは「まずは、お疲れ」と皆を労い、ヒュドラ解体と銀の翼商会の今後を話したのち、ダンジョンの魔族調査の件を伝えた。
「そういえば、魔族がコソコソしていたわね」
ミストが不機嫌な顔になる。彼女が住んでいた霧の谷で魔族集団に襲われたことがあって、かなり嫌悪感がたまっているようだ。
「魔族って人間より、強いんですよね……」
不安そうにセイジは言った。
「魔王の軍勢の話は聞いたことしかないですけど、昨日、ダンジョンで冒険者がいっぱい怪我をしていて、魔族ってやっぱり怖いんだって思いました」
「強いっていっても、ピンからキリだぞ?」
「そりゃ、ソウヤさんにとっては、大抵の魔族って敵じゃないでしょうけど」
苦笑するセイジである。魔王を倒した勇者からみれば、一般的な魔族は雑魚だろう。
「冒険者ギルドは、魔族がダンジョン内で何をやっているかを確かめるために、調査隊を派遣する。そこでオレたち銀の翼商会は、その後方支援をすることになった」
「後方支援?」
「メシを用意したり、ポーションを用意したり、武器を貸したり、ダンジョンで拾った物を回収したり、まあ、そんなとこ」
ソウヤの答えに、セイジはホッとしたが、ミストは眉をひそめた。
「戦わないの?」
「一応、助っ人として呼ばれたら戦うし、調査隊をすり抜けて、こっちへきた敵がいれば応戦はする」
「……」
もっと積極的に戦いたい、と彼女の顔には書いてあった。
「オレとしては、戦わずに済むならいいと思っているが、たぶん無理だろうな」
ミスト曰く、昨日のヒュドラは召喚獣かもしれない。そう頻繁にあのクラスの魔物が召喚できるとは思えないが、厄介なのが出てこないとも言い切れなかった。
魔王討伐の旅で、とかく魔族の刺客には油断しないというのが、ソウヤには染みついていた。
「ギルド長としては、オレたちはいざという時の切り札なんだろうよ」
「まあ、そういうことにしておくわ」
ミストは手をヒラヒラと振った。細かいことは任せる、というジェスチャーだ。
ソウヤは頷くと、セイジへと視線を向けた。
「というわけで、オレは料理のほうをやるから、セイジはポーションの補充を頼むわ。正直、どれくらい必要になるかわからないから、多めに作ってもいい」
「わかりました」
バックアップをするからには、準備は万端に整える。
はてさて、魔族の連中が何をしているのか――その目的が気になるソウヤだった。
・ ・ ・
ダンジョンの調査隊は、冒険者二十人で構成された。
リーダーをドレイクが務め、クリストフら孤立組からの参加者とギルドなどにいた連中の混成だ。
なおこの他に、複数の冒険者パーティーがダンジョンに潜り、魔族が出てない場所の見回りを兼ねて行動することになっている。
ソウヤたちは、調査隊の支援役として参加だが、調査隊とは別行動だった。
そして今回、冒険者ギルドから、白銀の翼こと銀の翼商会に一名、連絡員が派遣された。前回のヒュドラ退治の際、ギルド長ガルモーニと一緒についてきた冒険者のカエデである。
彼女は、調査隊を含めて非常事態となった際、ギルドへ情報を持ち帰る役割を課せられている。
ただ、ソウヤは、彼女の配置は、銀の翼商会の監視も兼ねていると思った。本当に不正行為をしていないか、とか、あるいはダンジョン内商売の実態を把握しておきたいのかもしれない。
調査隊が先行する中、ソウヤたちもダンジョンを進む。小柄でポニーテールのシノビ少女は、職業柄か表情に乏しかった。
「あの、カエデさん、その荷物、持ちましょうか?」
ポーターでもあるセイジが気をつかえば、カエデはすっと手を出して。
「お構いなく」
淡々と返された。何やら楽器ケースのようなものを肩にかけている。
――中身はなんだ? 武器かな?
「ねえ、おチビさん」
ミストが槍を肩に担いだまま、カエデを一瞥した。
「おチビ……」
無表情ながら、少々カチンときたような反応をしたのがわかった。だがミストは構わず言った。
「そのケースの中身はなに?」
単刀直入である。内心、気になっていたソウヤも興味津々。
「あ、お構いなく」
――いや、そうじゃなくて。
「なに? 人にはいえないイヤラシイものでも入っているのかしらぁ?」
小馬鹿にしたような調子のミスト。表情に乏しいながら、目に力が入っているカエデ。明らかに睨んでいる。
「イヤラシイものって何ですか?」
「イヤラシイものはイヤラシイものよ」
――オレも気になるな。ドラゴンのいうイヤラシイものって何ぞ?
「それで、質問しているのはワタシのほうなんだけど?」
「……」
黙り込んでいるカエデ。沈黙が重苦しいが、彼女は答える気がないようだった。ふん、とミストは正面に向き直った。
「ま、何でもいいけど、変なモノつけたら、キルするからね」
――なになに、ひょっとしてミストさん、ケースの中身に見当ついている感じ?
ソウヤはさっぱりだが、ミストがカエデを牽制したらしいのはわかった。
――おいおい、いったい何だってんだ。
厄介なものじゃないといいのだが。ソウヤは同じく訳のわからないという顔をしているセイジを見やり、肩をすくめた。
そうしてダンジョンを進むことしばし。地下七階で、適度な広さのある場所で調査隊が休憩していた。
「よう着いたな、待ってたぞ。銀の翼商会」
リーダーのドレイクが手を上げた。
アイテムボックスから浮遊バイクを出す余裕は充分にある。荷台付きのコメット号を出して、運んできた補給物資から、水と食料を出す。
すでに銀の翼商会の野外メシの話は調査隊全員に共有されていたようで、温かいスープと串焼き肉を美味そうに頬張っていた。
その間、ソウヤはドレイクと打ち合わせをする。
「この辺りが、最初に魔族連中と遭遇した場所らしい。いま、斥候に奥を探らせている」
「奴ら、奥にいますかね?」
「それも問題だな。いなかったら、調査も本格的かつ大規模でやらざるを得なくなる」
「いるわよ」
すっと、ミストが話に加わる。ドレイクは片方の眉を吊り上げた。
「何故わかる?」
「臭うもの。あの腐れ魔族どもの臭いがね……」
ミストの瞳孔が鋭くなる。さながら獲物を見つけた肉食獣のように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます