第51話、ランクアップと、次の仕事
レンタル武器については要検討となったものの、それ以外については、銀の翼商会はエイブルの町冒険者ギルドから認められる形となった。
「荷を運べるなら、余所への輸送もやってもらえるか?」
ガルモーニは提案した。アイテムボックスの容量を考えれば問題ない。
「きちんと運賃もらえるなら、お安いご用ですよ」
「ありがとう。用があればギルドから銀の翼商会に依頼する。それと、もしそちらが希望するなら、ギルドが冒険者たちから買い取っているモンスター素材を購入する業者に君らを加えよう」
冒険者ギルドは、冒険者からモンスターを倒した戦利品を買い取り、出入りの商人に売っている。これは個々に取引ルートを持たない冒険者たちの代わりにやっている業務である。
冒険者たちは、ギルドに戦利品を買い取ってもらえることで、依頼に集中できるのだ。
依頼の仲介、戦利品の買い取りなどをギルドが行うことで、冒険者たちが円滑に仕事ができる環境を整える――それが冒険者ギルドである。
「だがそうなるとだ……。銀の翼商会で売る相手がいるなら、ヒュドラ素材をギルドが買い取ることも実はなかったりするんだ」
ガルモーニは苦笑した。
「ギルドとしてもヒュドラ素材は、売れれば儲けになるから積極的に欲しいが、銀の翼商会はそもそも商人だからな。わざわざギルドが買い取らなくても、やりようによっては大儲けできるわけだ」
要するに、ヒュドラを討伐したのはソウヤたちなのだから、ギルドの手を借りないほうが、もっと稼げる可能性が高いのだ。
「まあ、そうなんですけど、一応、オレらも冒険者であるわけで」
ソウヤは首を振った。
「ギルドにはお世話になってますから。そちらが希望する物を優先的に売りましょう」
「いいのか? こちらとしてはありがたいが」
「儲けを独り占めするってのも、あんまり好きじゃないんですよね……。それで周囲の恨みを買いたくないですし」
むしろ、ヒュドラを独占したせいで狙われるなんてこともありそうだ。危険は分散するに限る。冒険者ギルドも儲けが出るなら悪い話ではないはずだ。
「はははっ」
ドレイクが笑った。
「儲けは大事だが、周囲との関係性を優先するか。いやいや、気に入った。ソウヤ、君はいい商人になれるぞ」
「それはどうも」
「ドレイクさん、ソウヤはすでに銀の翼商会の商人だよ」
ガルモーニが皮肉った。
「それはともかく、銀の翼商会がギルドにも好意的である以上、こちらもそれに応えないといけない。ダンジョン絡みの件で何かあれば、ドンドン相談してくれ。可能な限り、融通を利かせる」
こういうのも信用だろうな――ソウヤは首肯した。自分が得をするのはもちろんだが、相手も得をしなければならない、とは商人の言葉だったか。
「それと、話は変わるがソウヤ。それとミストもだが、冒険者ランクを上げる」
ガルモーニは告げた。
ヒュドラを、ほぼ二人で倒してしまったから、少なくとも今のDランクではいられないということだろう。
「わかりました。Cランクですか」
「いや、Aランクだ」
「はい……!?」
大ベテラン冒険者のドレイクが同席している場で、それを言うのか。ソウヤは彼を見た。Bランク冒険者だと聞いていたが――
「ヒュドラを討伐したんだ。妥当だろう」
驚いたのはわずかの間で、ドレイクはそう言った。しかしソウヤ自身はそうはいかない。
「しかし、いきなりAランクというのもどうかと……」
「いいか、ソウヤ。冒険者ランクというのは、『どのレベルの依頼を果たせるか』という指針だ。ヒュドラやベヒーモスを倒せる実力者を、わざと低いランクにしておくことはできん」
「本人が希望しなくても?」
「お前が、ここの冒険者ギルドだけで、冒険者稼業をするというのなら、俺が特例で認めてやることはできる。だが他の冒険者ギルドで仕事をする時に、『こいつはどれくらいの仕事ができるのか』という目安として正しいランクが必要になる」
ガルモーニは真剣だった。
「ランクに応じて依頼を分けているんだ。それは依頼であるからには、必ず果たしてもらいたいからだ。内容によっては難しいし、失敗もあるが、ギルドとしてはその失敗を限りなくゼロにしたい。基準に満たない者に困難な依頼をあてることがないようにするためにも、正しい評価、それに伴うランクは必要なんだ」
それに――とガルモーニは急に冗談っぽく言った。
「実力に見合わないランクだと、そのギルド長は、冒険者を正しく査定していない云々と、問題視されるからな」
会社員みたいなことを言われた。他のギルドは知らないが、少なくとも冒険者ギルドの全体の雰囲気としては真面目な組織に思える。
危険と隣り合わせの職業だから、殺伐とした、アウトローな印象も少なからずあったのだが。
「上級ランクには、それ相応の特典もある。指名依頼も増えるから、仕事が向こうから来るようになるが……ソウヤたちは商人でもあるからな。そっちのほうはあまり旨みがないかもしれん」
「いや、案外、意外な繋がりができるかもしれんぞ」
そう言ったのは、ドレイク。
「指名依頼を出す者は、大抵、金や力を持っている。コネ作りには最適かもしれん」
「なるほど」
そう考えると悪い話ではない、とソウヤは思い始める。
すっかり夜も更けてきた。ソウヤと白銀の翼/銀の翼商会の件で概ね話が終わると、ガルモーニは、またも真剣な表情を浮かべた。
「で、ここから別案件なんだが、上位冒険者ランカーである二人に聞いてもらいたいことがある」
「何だ、俺はそろそろ寝たいんだがな」
ドレイクが、わざとらしく大あくびをし、ソウヤもまた横になりたくなってきた。ヒュドラ戦で、ほどほどに疲れていたのだ。
「明日にしたほうがいいかな、と思ったが、とりあえず軽く聞いてくれ。エイブルの町のダンジョンだが、魔族が現れただろう?」
魔族――そのワードに、ソウヤもドレイクも目が覚めた。
人間と敵対し、魔王と闇の神を信仰する魔の者やその種族。それが魔族である。モンスターはあくまで野生の動物の延長だが、魔族は明確な思想や主義を持つ、言ってみれば敵国の組織、人間みたいなものだ。
その究極は、かつて勇者が倒した魔王とその勢力なのだから、事は重大である。
「ダンジョンの奥で何をしていたのか、そして何をしようとしているのか、調査する必要がある」
魔王はいなくとも、人類に攻撃を仕掛けようとしているかもしれない。人間と魔族の対立の歴史は根深い。
「ダンジョンの奥だけに、スタンピードを人工的に起こそうとしているとかだったら、目も当てられん。先のヒュドラ出現も、奴らの仕業の可能性も高い」
「調査隊の編成だな」
ドレイクが言えば、得たりとガルモーニが口元を緩めた。
「そういうことだ。あなたにも出てもらうぞ、ドレイク。そしてソウヤ、銀の翼商会には調査隊のバックアップを依頼したい。……いざという時は、調査隊を援護してほしい」
「ああ、ヒュドラ級の化け物が現れたら手伝ってくれ、ソウヤ。頼りにしている」
「そういうことなら……」
ソウヤも頷いた。これは明日からも忙しくなりそうだった。
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