第39話、トリス村を訪問
街道を行く旅人に声をかけて進むソウヤの銀の翼商会。
浮遊バイクを警戒される例もそれなりにあったが、やはりグループだと話を聞いてくれるパターンが多かった。
水や食料、たまにポーションが売れたが、特に大きな商売はなし。むしろ情報を仕入れて、小さな集落の存在やその場所などを得た。
こういう一般流通ルートから外れた場所こそ、行商が足を運ぶべき場所だ。徒歩旅なら一日とか数日かかる行程も、浮遊バイクなら数時間単位で行ける。
そんなわけで、集落弾丸ツアーと洒落込む。
まず最初に訪れたのは、森の中にあるというトリス村。主要街道からは外れているが、細いながらも道があって、コメット号でもスムーズに進めた。
――第一村人発見!
向こうもこちらに気づいて、目を丸くしている。浮遊バイクなんて見たことがないだろうから仕方がない。だがこれまでのパターンを考えると、逃げられたりすることもあるから、まずは先制。
「こんにちはー! 銀の翼商会の行商でーす!」
「……ぎょ、行商?」
逃げかけた村人の足が止まる間に、浮遊バイクで接近、その手前で静かに静止する。斧を持った成人男性。しっかりした体つきは、木こりだろうか。
「こんにちは! 行商なんですけど、トリス村ってこの先ですか?」
「あ、ああ……」
「村長さん、居ますよね?」
「ああ」
あまり外の人間に慣れていないのか。コクコクと頷いている。見た目は強そうなのだが、性格は素朴なのかもしれない。
「これから訪問するんですが……一緒に村に行きます?」
できれば道案内がてら、敵じゃないアピールに村人に同行してもらいたいというのが本音。しかし男は首を横に振った。
「わし、これから木を切りにいくところなんだ」
「そうですか。お仕事の邪魔をしてすみません」
ソウヤは礼を言って、さっさと村を目指すことにした。無理強いするつもりはないのだ。
それからコメット号で数分としないうちに、森の中に家が数軒建っている集落へ到着した。
「村だ」
「こういうのを田舎っていうのよね」
ミストが言えば、セイジは興味深そうに集落の様子を見ていた。都会に初めてきた田舎者――いや、この場合は逆か。
王都の時もそうだったが、もしかして。
「セイジは、ひょっとしてエイブル町から出たことなかったか?」
「はい!」
見るものすべてが珍しいような感じだろうな、とソウヤは頷いた。
そうは思っても、ソウヤとて勇者時代は、ゆっくり観光している余裕はなかったから、物知りというわけではない。
村人たちの反応は――皆、一様に驚いている。
「商人です! 村長さんの家はどこですかー!?」
ソウヤは呼びかけながら、バイクを進めていく。ミストが苦笑した。
「村人たち、困ってるわよ。まるで竜が頭上を通過して、どうしたらいいかわからずに右往左往しているみたい」
「具体的過ぎて、笑えない」
少し進むと、さらに奥に数軒、家が建っているのが見えて、まだこの村の全容が見えていなかったことに気づく。
「村長の家ってどれ?」
「たぶん、村で一番大きな家だと思うが……。あー、すいません、行商で来たんですけど、村長さんの家は――」
通りかかった家から出てきた中年女性に声をかける。女性はビックリしていたが「あそこだよ」と指さして教えてくれた。
「どうも!」
さてさて、それではご挨拶と行くか――ソウヤは、村で一番立派な作りの家の前へとコメット号を導いた。
・ ・ ・
「トリス村へようこそ。村長のヘクトンです」
髪の毛の薄い老人――ヘクトン村長とソウヤは挨拶を交わした。最初は怪訝そうな村長だったが、行商と聞いて家に招いた。
「ソウヤさん、でしたか……。失礼、初めてなのにどこかで聞いたことがあるような」
「十年前の魔王を討伐した勇者と同じ名前なので、それじゃないですかね?」
「あー、勇者! 勇者ソウヤ! そうだそうじゃった! なるほど」
あっはっは、と合点がいったらしくヘクトンは笑った。少し肩の力が抜けたようだ。
村外の客を迎えることが多いだろう村長の家。応接室で、お茶を振る舞われながら、ソウヤはここに来た要件と、行商として商売したい旨を伝えた。
「いいですねぇ、ここは近くの町へ行くことはあっても、外から人が来ることはほとんどないですから」
――でも応接室はあるんだよな。
視線だけ、部屋をさっと見回すソウヤ。割と綺麗だが、物はあまりない。あまり使われないから逆に綺麗なのか。掃除も楽そうだ。
「銀の翼商会さんは、どのような物を取り扱っているのですか?」
「肉を中心とした食料、ポーション類、武器、魔物素材が主ですね。……ああ、そうそう王都のプトーコス雑貨店と提携していまして、雑貨なども少々取り扱ってます」
「ほぅ、色々扱ってるんですね……」
「アイテムボックスがあるので、見た目より多く持っているんですよ」
「おお、それは便利な!」
ヘクトンは笑顔だった。人が持ち運べる量は限られているので、商品が多い=ひとつあたりの量が少ない、という偏見だったが、アイテムボックスがあれば話は変わってくる。
「それでは食料なども、多く買えたり?」
「必要な分は用意しますよ」
ソウヤは答えた。モンスター肉に偏見がなければ、いくらでもダンジョンで狩ってくることができる。
そこでヘクトンは真顔になった。
「あとは、実際の品と、そのお値段ですな。あまり高いと、手が出ませんから」
「買い取りもしているので、何か売りたい時に利用してくれてもいいですよ。特産品があれば、大きさ問わず買います」
村で持て余しているものも回収できます、と付け加えれば、ヘクトンは目を輝かせて前のめりになる。
「本当ですか! いやあ、アイテムボックスの噂は聞いたことがあるのですが、凄いですな!」
「乗り物があるので、割と短い周期で来れると思います。あとオレたち、冒険者も兼ねているので、便利屋として使ってください。厄介なモンスターとか現れたら退治しますんで」
「至れり尽くせり、ですなぁ! いや、ソウヤさん、冒険者ですか。確かに、その体つき、戦士のようですからな! いやはや頼もしい。改めて、よくこんな田舎に来てくださいました!」
ヘクトン村長には好印象を与えられたようだ。行商として銀の翼商会は、トリス村と商売する許可を得た。
というわけで、さっそく、今あるもので品を見てもらって商売。ここではポーション系が数本売れた。武器は売れなかったが、おやつ代わりに出した串焼き肉を食した村長は、その味付けにつかったタレに関心を寄せて、それが一本売れた。
本格的に、調味料を扱ってもいいな、とソウヤは思った。
あとは集まった村人に商売した。同時に、次に来た時のために、村人が何を欲しがっているのか聞くのを忘れなかった。
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