第40話、周回の手応えと見えてきたこと
トリス村を出て、ソウヤたちは次の集落への開拓に向かう。
街道に一度戻り、近くにあるという町を確認。ウルフトというその町は城壁に囲まれていて、街道通行者にとっては補給拠点となっている。
情報収集を兼ねて、町へ入る。生鮮市場や雑貨、武具などさまざまな店がひと通り揃っていて、宿も一般用から高級宿まで、お好きなランクを選んで泊まることができるようだった。
まずは周辺集落の情報を収集。その後、昼飯をウルフトで済ませると、集落開拓を再開。町で聞いた集落の情報を元に、浮遊バイクでぶっ飛ばす。
そして片っ端から訪問である。のどかな農村だったり、山の中の集落だったり……。途中で遭遇したモンスターは退治して商品になった。
いざ集落に到着すると、やはりというべきかコメット号を初見で驚かれ、警戒される事案が複数発生した。
ただ村へ不審者が来る、という通報より早く、先にソウヤたちが着いてしまうので、武器をとっての睨み合いや待ち伏せは起きなかった。
びっくりされながら、まず「行商」だと名乗り、安全をアピール。村長の家の場所を聞いて、一番偉い人と面会して自己紹介。
始めは怪訝な顔をされるが、商人だとわかれば、その警戒の度合いは下がった。
初回は顔見せのご挨拶である。集落で何を求めているのかリサーチをかける。服が欲しい、農具が欲しい、王都の話が聞きたい、冒険者の話が聞きたい――外の情報があまりない田舎ゆえか、質問が多かった印象。
いくつか村を巡ったが、中には意外な依頼があった。
「エンヴリって村に行く? じゃあさ、悪いけど乗っけてってくれないかな? 頼まれた木材があるんだけど、いまちょっと人手が足りないし、道中、魔物が出るかもで困っていたんだ」
「いいよ、案内してくれ。オレたちは冒険者だから、護衛も兼ねてあんたを運んでやるよ」
「助かる!」
という感じで、輸送と護衛依頼を受けたり。道中のモンスター退治もしたから、行商以外にも冒険者として呼ばれることもあるかもしれない。
そんなこんなで挨拶まわりを兼ねたルート開拓、その第一段階は終了。エイブルの町から王都東部周辺を、五日ほどかけて一回りして、スタート地点であるエイブルへ戻った。
・ ・ ・
肉以外の食材を購入して、串焼き肉とミソスープの量産。
今日も、アイテムボックス内の家のキッチンで、商品を生産。できた料理は冷蔵庫代わりの時間停止ボックスにてストックする。
「おはよう、ソウヤ」
「おはよう、ミスト。ずいぶん、ゆっくり起きたな」
「そう? これでも匂いに釣られて起きたんだけど」
「おかしいな。だったら、もう少し早く起きてきているはずだ」
何せ予定のストック分は全部作り終わったからだ。
「朝ご飯はできてる。ベーコンエッグ」
「もっと、ガッツリお肉が食べたいわ」
「朝から胸焼けしそう」
ソウヤは、準備していた朝食を食卓に並べる。いつ起きてきてもいいように、これまた料理保存用アイテムボックスにしまっておいたものだ。
「さあ、お姫様、朝食をどうぞ」
美少女は椅子に座るだけで、朝食とご対面。言ってはなんだが、お姫様待遇のミストである。
「今日は仕入れだっけ?」
「ああ、ダンジョンに行く」
「いいわね。久しぶりに暴れられそう」
「どうかな? お前の強さには、ダンジョンの序盤階層のモンスターは相手にならない」
「準備運動くらいにはなるんじゃない?」
「本番は何をするつもりなんだ」
ソウヤも食卓につく。輪切りにしてカリッと焼いたパンとベーコンエッグ。そしてルジューというオレンジに似た果実を絞って作ったジュースが本日の朝食。いただきます。
「セイジは?」
「もう食べて、朝のトレーニングだ。あいつは真面目だからな」
「ふうん。……このベーコン、美味しいわ」
「どうも。このベーコンエッグもお手軽メシのレシピに入れておくかな」
「ワタシは串焼き肉がいいけど」
「あれは定番。今回の周回では、お手軽メシの需要がかなり高かった」
だいたいの集落や旅人に振る舞ったが大好評だった。美味しいと評価されたのは、こちらの味付けが珍しかったのもかなりあるとソウヤは思う。
「行商ではなく、いっそ屋台か料理店でも始めたら?」
「そういう道もあったかもな」
ソウヤは考えたが、やはり色々な場所を巡れる商人がいいと自分の中では落ち着いた。
「タレも人気だったわね」
「ああ、最初は商品として考えていなかったけどね。あれだけ人気になると、作らないともったいない」
あれが今のところ、人気上位商品であるのは皮肉かもしれない。
「今回の遠征で、商品の売れ筋などが見えてきたが、再度考えないといけないこともできてきた」
ソウヤは眉間にしわが寄せる。
「料理については、扱っているのが間食程度で、食事処との競合は最低限だ。これはいい。 問題は、武器やポーション、そして薬品類の扱いだ」
武器には武器屋、ポーションなどは薬屋、魔法薬屋があり、町で商売すると、それらの店からライバル出現と敵視される。
「武器は、拾いものを中古として扱っているから、品質は一定じゃない。それに安定供給は不可能だ。つまり、一般の武器屋とまともに勝負すると話にならないので、正直相手にされないかもしれない」
「なら問題ないじゃない?」
「それでも、武器屋のある町では、常連客以外には売らないようにしよう」
「常連客なんているの?」
「今のところはいない」
ソウヤはパンをかじった。サクサク食感はいいが、喉が渇く。
「冒険者が拾いものを同業者に売っている程度で済ませられれば理想だな……」
ミストがジュースを口に運ぶ。量は多めにしたのに、もう食べてしまった。
「だが、ポーションとなると話は変わる」
ミストドラゴンの汗入りというレアポーションをそれなりに供給が可能だ。数ではやはり負けるが、質で上回っているので慎重な取り扱いが必要だろう。
「この世界の薬屋や魔法薬の取り扱いや販売ルールは、場所によってバラバラだ。商業ギルドが幅をきかせている都市ともなると、ギルド認可の者、あるいは店舗でしか販売できないという決まりがあったりする」
「じゃあ、ギルドに入っていないワタシたちには無理ね」
「そうなるな」
地方によっては、森に住む童話の魔女のような魔法使いがポーションを作ったり、自家製ポーションを生産して、都市の薬屋に売りに行ったりしている。
そのあたりを考えれば、自分たちで使う分にはどこでどうしようと勝手だが、売るとなると、ギルドなどがなく、その影響にない場所で、となる。
「町や集落の外や街道、特にダンジョン内に限定したほうがいい。あと、レアポーション系は数に限りがあるように見せて、安定供給が不可能なように振る舞う」
いわゆる危険回避。
「それか、町の薬屋に、掘り出し物と言ってレアポーションを売るのもありかもしれない」
そうなれば、その店にとってもレアポーションを取り扱えるメリットがあり、また数を制限する分、他の仕入れへの影響も限定できるだろう。つまり、恨みを買う率を減らせる。
「結構、面倒なのね」
ミストがへの字に口を曲げる。ソウヤは苦笑した。
「人間社会っていうのは、そういうものだよ」
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