第37話、意外な副産物


 ミストが手を叩き、何もないはずの空間から一振りの剣が出てきた。


 当然、ソウヤもセイジもビックリしてしまう。


「どうしたんだ、この剣!?」


 買ったわけではない。彼女はお金を持っていないからだ。どこかで拾って、収納の魔法でも何でも使ったというなら話は別だが、そうでなければ――


「まさか、盗んだ……?」

「酷いわね。さすがにそういうことをしたらいけないってことくらい、知ってるわよ」


 ふん、と少し拗ねてみせるミスト。出てきた剣――片手で持てるサイズのそれを手にとったセイジがしげしげと観察する。


「これ、ロッシュヴァーグさんの工房のやつじゃ……」

「どうしたんだこれ?」

「作ったのよ」

「作ったァ!?」


 素っ頓狂な声が出た。驚くソウヤをよそに、ミストは自信満々に言った。


「そっ、魔力を集めて、武器の形にしたのよ。ほら、ワタシのドレスや、武器もワタシの魔力で生成しているのよ」


 その場で、ターンしてみせるミスト。黒髪美少女が優雅に舞う姿は妖精のようで――


「いやいや、そうだけども、そうじゃなくて……! お前、あれか? プトーコスさんのとこや、ロッシュのとこで見てたのって、魔力で生成できるようにするためか?」

「じっくり見ないと、上手く作れないでしょう?」

「……これって複製って言うんですかね」


 セイジが、どう反応していいかわからない顔のまま、剣を持っている。


「これ、普通に剣なんですか?」

「ええ、魔力で作ったけど、使われている素材もワタシが忠実に再現したものよ。どう? スゴイでしょう!」

「凄いです。凄いですけど……。あの、ソウヤさん、これっていいんですかね?」

「うん……」

「何か問題が?」


 ミストがキョトンとする。


「問題って言うか……。だってこれ、魔力で複製できるなら、一本手に入れたら、仕入れる必要がなくなって、複製しまくれるってことじゃん?」


 しかもただの武器じゃなくて、たとえば名剣とか複製できたとしたら? 聖剣とか魔剣と聞いたら、高値を出しても買いたいという者は少なくないだろう。それが複製でも、本物と遜色ないレベルなら、売れば大金に化けるだろう。


「物の価値が変わっちゃいますね……」


 セイジは苦笑するしかないようだった。ミストは首をかしげる。


「複製はできるけど、まさかこれを売り物にするつもり?」

「そのつもりで出したんじゃないの?」

「まさか。そんな数日で消えちゃうようなもの売れるなんて思ってないわよ」

「はい……?」


 今、彼女は何と言ったか。数日で消える、だって?


「そうなの?」

「ええ、魔力で作ったものだもの。言ってみれば魔法そのもの。時間が経てば消えてしまうわ」

「……何だ。ずっと形を保っているわけじゃないのか」


 ホッとするソウヤ。思い出してみれば、魔力で武器を生成できると言ったが、それを商売に利用しよう、なんてミストは一言も言わなかった。


「でも固定しようと思えばできるわよ」


 ミストは言った。


「やりようによっては、長時間もたせることもできるわ。ただし、魔力を相応に使うから、ワタシとしてはあまり乱発はしたくないわね。……疲れるから」


 と、現金なことを言うドラゴン娘。


「ふーん、そんなものなのか」


 ソウヤは、セイジから剣を受け取り、振ってみる。


 ――うん、悪くない剣だ。これ、普通に売り物レベルだわ。


 普段から重量武器を振り回しているソウヤからすると、軽すぎるが、武器の重み自体はしっかりと感じることができた。


「ちなみにこいつの威力はどうだ? 本物より性能はいいのか悪いのか」

「ほぼ同じ性能のはずよ。もし及ばないならワタシの観察が足りなかったのね。逆に勝っているなら、ごめんなさい、ワタシの才能よ!」


 ハイハイ、すげぇすげぇ――ソウヤは適当に褒めておく。


「いいね、いざ武器が手元になくても、魔法で作れるなら、急場凌ぎに使える」

「あの工房で色々な武器を見てきたから、必要なら言ってちょうだい。ワタシが作ってあげるわ」


 頼もしいお言葉。斬鉄が手元になかった時とか、必要になったら、ミストに武器をお願いすることにしよう。


「それにしても、観察したらできるとか、お前にこんな特技があるなんてなぁ。ロッシュヴァーグ工房コピーじゃなくて、オリジナルの剣を作ったら、普通に売れるんじゃないか?」


 自分で作る分には魔力生成で武器作りもいいかもしれない。ミストが言った通りなら、魔法を使う要領で武器が量産できるわけで、素材費用や製造コストなどあってないようなもの。丸っと儲けになる。

「でも数日しか保たないんですよね……」


 セイジが眉を下げた。


「ちょっと、もったいないですよね」

「固定化もできるんだっけ?」


 ただ本人は疲れるから、あまり乗り気ではないようだが。


 ソウヤは、魔力生成された剣を、色々な角度から眺めて考える。


 武器は高い。ひとつ売れれば、それでもそこそこのお金になる。無尽蔵とは言わないが、そこそこ数を揃えられたら、武器の在庫を安定して持つことができるのだ。


 ――本当、惜しいな。数日しか保たないなんて。


 これを売ったら、数日で消える。これでは詐欺である。


「ミスト、数日は保つんだよな?」

「ええ、それくらいはね」

「……」

「ソウヤさん?」


 セイジが首をかしげる。ミストはニヤリとした。


「何か思いついたわね。そうでしょ、ソウヤ?」

「詐欺ってのは騙すから、詐欺なんだ」

「はい?」


 セイジはますますわからないという顔になった。ソウヤは口元に笑みを浮かべた。


「最初から数日で消えると承知の上だったら、詐欺じゃないよな?」

「それは……そうですけど、それを言ったら買いますか? 数日でなくなる武器を、お金出して」

「売るんじゃない。レンタルするのさ」


 貸本とか、確か日本じゃ江戸時代にあったような。高価な本を買うより借りて読んだ、という話だ。現代でもCDやDVDレンタルとかあるから、そういうノリでレンタル武器を始めるというのはどうか。


「貸し武器だ。数日のみレンタル! 期間が過ぎたら消えるので返却の必要なし!」


 よくよく考えると、返さなくていいという時点でレンタルとも違う気がするが、気にしない。


「あ、それ、確か冒険者ギルドでも貸し武器ってやってました。本格的な武具を用意できない初心者冒険者に貸与されるやつです」


 セイジが、エイブル町の冒険者ギルドを思い出しながら言った。それを聞いたソウヤは、肩すかしをくらう。


 ――何だ、オレが最初じゃなかったか。いや、すでにやっているところがあるなら、そういう商売も成り立つってことだろう! むしろ好都合!


 ギルドの貸し武器を発展させて、たとえば旅の途中やダンジョン探索中の冒険者などに、現地でやりとりするというのはアリだろう。そういう冒険者は『その時』に武器が欲しいのだから。

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