第32話、プトーコス雑貨店
予定になかった王都へ行くことになったソウヤたち銀の翼商会。プトーコスとそれなりに親しい会話をしながらの移動。
……何やらセイジが元気がないのが少し気になるソウヤ。怪我はしていないはずなのだが。
さて、いざ王都に入る時、ちょっとした騒ぎになった。
前回来訪時は、コメット号をアイテムボックスにしまっていたのだが、今回はそのままで来たために、好奇心旺盛な連中が集まったのだ。
――そうそう、こういう反応を待っていたんだ。
とはいえ、今はプトーコスに同行しているので、あまり商売の話はできなかった。そのプトーコスだが、王都へ入る時に取られる通行税を出してくれた。
大した額ではないのだが、本来予定になかった王都へ来てもらったのだから、と彼は言った。
さて、王都は初めてだったセイジが、完全に田舎者丸出しで都会に圧倒されていた。気持ちはわかる。十年前、自分もそうだったな、とソウヤは生暖かく少年を見守った。
ソウヤたちは、プトーコスの馬車についていくと、ハイソな商店が立ち並ぶ区画へと到着した。
だがまず向かったのは、プトーコスの家。実際は屋敷と呼ぶべきものだった。……大きい。メイドさんもいる! お金持ちだ。
内装も洋風のお屋敷といった雰囲気で、調度品のセンスもいい。ゴテゴテしていなくて好感が持てる。
応接室に通され、ソウヤたちはソファーに座る。召使いがお茶を用意してくれる中、机を挟んで向かいに座るプトーコスは頭を下げた。
「改めて、ソウヤさんたちが通りかからなければ私も命はなかったでしょう。護衛の者への手当も含め、感謝しかありません。本当に、ありがとうございます」
ついてはお礼をしたいとプトーコスは言い、何か必要なものがあれば手配すると言った。
「もちろんお金がよいと言うのであれば、そちらでも構いません。……あぁ、そうだ。手当に使ったポーションの代金もお支払いいたします」
「あ、いや、ポーションはいいです」
ドラゴンのアレ入りポーションなんて、値段をつけたら薬の名に違わない大金となる。そこから特殊なポーションの出所とか探られたら面倒でしかない。
すまし顔のミスト。何も悪いことはしていないし、何か言ったわけではないのに、少々腹が立ったのはソウヤの気のせいか。
お礼の件も含めて、雑談にも花が咲く。ソウヤから見て大先輩に当たる商人の話は興味深く、雑貨商の苦労話も大変参考になった。
「――ソウヤさんは、アイテムボックス持ちなのですね。私も小さいながら持っていますが、あると非常に便利ですよね」
と、プトーコスは笑った。実はあの馬車にアイテムボックスを乗せていたのだそうだ。別の町へ出かける時など、着替えや日用品をまとめてしまえて便利だと言う。
「私は町に店、ソウヤさんは移動式の店を持っている。形態は違いますが、色々と協力できることもあると思います」
「と、言うと?」
「ソウヤさん、うちの雑貨を扱ってみませんか?」
プトーコスは提案した。
「あなたは行商として色々な場所へ赴かれる。そこで我がプトーコス雑貨店の商品を売っていただきたいのです」
「……宣伝ですか」
「まさに! さすが話が早い」
相好を崩すプトーコス。
ソウヤのいた世界と違って、この世界の宣伝力というのは基本的には地元限定。他方にまで轟くのはよほどの商品だ。
――インターネットがない世界だもんな。
どうしても個々の影響力というのは活動地域周辺にしか及ばないものだ。
良品を余所で売る。そこから商品のことを知ってもらう――行商が、そんな普段手の届かない場所に行って商品を扱う。それすなわち一種の宣伝となるのだ。
「行商と言っても、この世界ですから盗賊以外にも魔獣なども通行を妨げることが多々あります」
つい先ほどオークの集団に襲われたプトーコスの言葉には説得力があった。
「ですが、ソウヤさんの実力なら、それらも障害にならないでしょう。商品を託すにはこれほど安心できることもない」
「なるほど。確かに」
元勇者ですから、とは言わない。多少の荒事は、腕ひとつでねじ伏せる自身はある。
「どうでしょうか? すべて、とはいきませんが、ソウヤさんは商品のラインナップを増やせますし、またそれらをこちらが安定して用意できます」
「オレのほうは、商品在庫は持てますが、数を安定して用意できないですからね。こちらにもメリットがあるお話です」
「では――」
「まずは、プトーコスさんのところがどういう商品を扱っているか、ですね。さすがに現物を見ないことには」
「まさにまさに! おっしゃる通りです」
ますます楽しそうな顔をするプトーコス。
それでは店にご案内しましょう――プトーコスが言ったので、ソウヤも二つ返事で応じた。
・ ・ ・
屋敷からさほど離れていない場所に、彼の店があった。
白い壁に赤い屋根のその店はお洒落な雰囲気をまとい、しかも中々大きい。『プトーコス雑貨店』の看板を尻目に、中へと入れば、表よりさらに広く感じた。
魔石灯が使われていて、明るい室内。多数の家具や日用品がお出迎え。木製家具特有の匂いが鼻腔をくすぐる。店員がいて、プトーコスを見て「会長」と頭を下げていく。
「いい雰囲気の店ですね」
「ありがとうございます。見てのとおり、客層は上流階級や中流の人たちを相手にしておりまして、贈り物や普段の生活用品の中、ちょっとした見栄を張りたい、そう言った品が多いですね」
家具や食器なども、木製ながら仕上げが違うためか、綺麗かつお洒落。――この皿、使いたいな。
あまり食器にこだわらない、と思っていたソウヤだが、店にきて目の当たりにしてワクワクしているのを自覚した。こういう店は眺めているだけでも楽しいのだ。
「そういえば、まともな家具、あんまりなかったなぁ」
アイテムボックス内に家を作ったが、内部はというと実に殺風景。箱状の物体を机や椅子として生成できるが、きちんとした家具とは言いがたい。
「セイジ、お前の部屋、ろくに家具がないから、欲しいのあったら選びな。買うから」
「いや、ソウヤさん、でも僕、まだ何もしていないのに、家具なんて――」
「何言ってるんだ? お前はオレの期待したところで、ちゃんと仕事している。そんな同居人に、いつまでも仮の代物で代用させるわけにはいかない」
「オークのことなら、あなたが気に病むことはないわ」
ミストがシックな黒色の丸テーブルを眺めながら、どうでもよさそうな声を出した。
「今のあなたにどうこうできるものでもないし。もしそれが悔しいと感じるなら、次に頑張りなさい」
「……セイジ、お前、ひょっとして落ち込んでたの?」
元気がなく見えたのはそれか、とソウヤは納得した。
「ミストの言うとおり、気にするなよ。一日二日でどうにかなるものでもないしな」
「はい」
気を取り直して、商品を見て回ろう。
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