第31話、オークの集団を蹴散らす元勇者


 コメット号爆走!


 オークの集団に襲われる馬車を救助すべく、ソウヤはバイクを加速させる。


「オレとミストで片付ける! セイジ! もしかしたら一匹くらい、そっちに来るかもしれないから、腹を括れよ! いざとなったら助けてやる」

「は、はい!」


 ソウヤの目にも、はっきりと騒動の場が見えてきた。


 馬車が一台、その周りに護衛らしき戦士が三人。だが周りには十以上のオークがいて、多勢に無勢の雰囲気だ。


「うぉおおおおりゃああああぁーっ!」


 怯むことなく突撃させたコメット号が、オークの一体を跳ね飛ばした。ソウヤはバイクを横滑りさせるように停車。ついでにもう一体が荷台に跳ねられ、ミストが魔槍を手に飛び降りた。


 アイテムボックスから斬鉄を抜き、ソウヤもバイクから降りて一番近くのオークを張り倒した。


「助太刀するぞ!」


 馬車を護衛して戦う戦士たちにソウヤは呼びかけた。あまりの声の大きさに、オークの何体かの注意が逸れた。ソウヤは構わず、肉薄し鉄の塊のような剣の重い一撃を叩き込む。 屈強な体躯のオークですら、ソウヤの豪腕の前ではバットに打ち返されるボールの如し。宙を舞い、血を撒き散らすオークの体は、異様な形に歪み、すでに絶命している。


 ソウヤが勢いのままオークを肉塊へと変えていく中、馬車の反対側に回ったミストが槍でオークを貫き、空中でオークの体を蹴飛ばすことで踏み台にして、次の敵まで加速して肉薄、血祭りにあげていった。


 初めは十程度だと思っていたが、他にも潜んでいたらしく、わらわらとオークが現れた。だがソウヤとミストの前では、ただの雑兵に過ぎず、屍を量産するだけに終わった。


 オークの姿が見えなくなり、さらに敵が残っていないか確認。コメット号の荷台にはセイジがいて無事そうだった。


「セイジ、無事か!?」


 コクコクと運び屋少年は頷き返した。


「無事ならよし! ミスト!?」

「ワタシはここよ」


 何と馬車の上にいた。腰を落として跳躍寸前の構えで、ミストは周囲を見回している。


「オークは全滅したみたい」

「……全滅かぁ」


 恐れをなして逃げたりはしなかったようだ。その余裕がなかったか。


「おたくらは無事?」


 護衛の戦士たちに声をかける。肩に手を当て負傷したと思われる戦士が「ああ」と頷いた。他の二人は……一人が倒れ、もう一人が近くの木に背を預けている。――全員負傷しているじゃないか!


「セイジ! 薬! 非常用救急箱、持って来い!」


 ソウヤは近くの護衛を座らせると、倒れている護衛のもとへ。腹と頭を殴られたようで。このままだと長くなさそうだった。


「ソウヤさん!」


 救急箱を持ってきたセイジ。箱を開けて、中に入っているポーションを取り出す。


「セイジ、あの木にもたれてる奴も具合がやばそうだから、一本飲ませてやれ」


 指示を出しながら、一本のポーションの蓋を開けたソウヤは、横たわる護衛の戦士に飲ませる。


「こいつは特製だ。すぐよくなるぞ……」


 何せ、ドラゴンの汗が混じった残り湯配合のスペシャルポーションだから。ドラゴンの汗や涙、または血というのは、魔力が豊富でそれ自体に力がある。それをポーションなどに混ぜれば、薬効を高めることができる。


 ――いくら効くはいえ、オレだったら飲みたくないけど。


 今あるものの中で一番、効果があると思われるポーションだ。正直、これで必ず助かるわけでもなく、半ばお祈りだが、やれることはやった。


 ――もしこれ以上って、言ったら、もうミストさんに泣いてもらうか、血をもらうくらいしかないな……。


 効き目が出るのを待ちつつ、比較的軽傷だった戦士には普通のポーションをあげて治癒を促す。

 すると、馬車の戸が開いて、中から身なりのよい中年男性が顔を覗かせた。


「……終わったのか?」

「プトーコスさん」


 肩を押さえていた軽傷の戦士が、男性に応じた。


「はい、この方たちが助っ人に駆けつけてくれたので、オークを追い払うことができました」

「そうかそうか、それはよかった。どなたか存じませんが、おかげで助かりました、ありがとう」


 ソウヤと顔が合ったプトーコスという男性が礼をした。しかしすぐに護衛に目を向ける。


「ヤール、お前は怪我をしたようだが……。残りの二人は?」

「それが――」



  ・  ・  ・



 プトーコス氏は、王都在住の商人だった。雑貨商を営んでいる彼は、今回、近くの町の支店に用があって出張、その帰りにオークの集団と遭遇してしまったらしい。


 お互いに自己紹介した後、プトーコスは頭を下げた。


「ソウヤさん、この度は、助けていただき感謝致します」

「まあ、オレらは通りかかっただけです。そういう時は助けるもんです」

「いやしかし、ソウヤ殿はお強いですな。お連れのミスト殿もまた、歴戦の猛者とお見受け致します。……これで冒険者や騎士ではなく、同じ商人とは――」

「荒事には慣れている、新米商人というやつです」


 そうですか、と何か思ったが口には出さないプトーコス。


「まるでかの勇者殿のようですな。その、馬のない乗り物など、まさに」

「浮遊バイクっていう魔道具です。……ええ、これを手に入れるために大枚はたきましたよ。名前が同じだったのが縁で、気づけば勇者マニアですわ」


 ソウヤ、絶賛、嘘設定を披露中。


「ただ、オレ、力だけが取り柄なんで、本物の勇者様のようにスマートに戦えないんですよね」


 鉄の塊武器である斬鉄を指さす。……勇者の聖剣とは似ても似つかぬ武器である。


「ダンジョンに行ったり、魔獣と戦ったりして、腕には自信があります」

「オークの集団を蹴散らしてしまいましたからな。……商人でなければ護衛に雇いたいくらいです」


 ――はは、それ、さっき会った冒険者にも似たようなこと言われたわ……!


「機会があれば、護衛依頼も受けますよ。兼業冒険者なんで」

「それは頼もしい。その節はお世話になるかもしれません。……というより、もしよければ早速、王都まで護衛をお願いしたいのですが」

「うーん、方向が逆ですが……」


 ソウヤは少し考える。ちら、とミストとセイジを見たが、特に問題はないと判断する。


「別に急な用事もありませんし……わかりました。お引き受けしましょう」

「おお、助かります。個人的にお礼もしたいですし、私の屋敷にもご招待したい」


 ――え、いいんですか? それはそれは……。


 案外、大物と出会ったパターンかもしれない。これは、上手くやれば今後の商売にプラスになる出会いになるかもしれない。


 機会は逃すべからず、である。

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