第30話、やっぱり食べ物が好評のようです


 冒険者一行に商品を見せて、あれこれ吟味させている間、ソウヤはリーダーの戦士とお喋り。クリストフという名のその戦士曰く、エイブルの町のダンジョンを稼ぎ場にしようと向かっている途中らしい。


 喉が渇いたので水分補給。魔石水筒の水をカップに注ぐ。クリストフが片眉を吊り上げる。


「それは水袋なのか? ずいぶん小さいな。足りるのか?」

「これは魔道具だよ。中に魔石が仕込んであって、水を作るんだ。……ちなみに中の水は売り物でもある。一杯、5銅貨だ」

「魔道具か、そいつはいいな。……ちゃんと飲める水なのか?」

「でなきゃ売り物にはしないさ。魔法で作る水だから新鮮で危険もない」

「銅貨5枚? 一杯くれ」

「あいよ」


 ソウヤは、カップに魔石水筒からの水を入れ、銅貨と引き換えに渡す。クリストフは一度舐めるように唇を湿らせたあと、大丈夫と見たかゴクゴクと喉を上下させた。


「旨いな! もう一杯くれ!」


 五枚の銅貨。


「その魔道具は売り物か?」

「いや、残念ながら職人作で数がないんでね。……欲しいのかい?」

「まあね。水が出る魔法の水袋なんて便利じゃないか」

「ふむ、てっきり中の魔石目当てで、こういう道具は見向きもされないと思ったが……」


 いささか早計だったかもしれない、とソウヤは思った。


「需要があるなら、調達方法を考えよう」

「おう、手に入れたら売ってくれ。買うから」


 クリストフは首肯すると、話題を変えた。


「銀の翼商会って色々変わってるが、食べ物とか扱っているか? 俺たちのように街道を旅している連中に商売するなら、保存食とか」

「保存食はないが……新鮮な果物とか、簡単な料理なら提供できるぞ」

「新鮮な果物はいいな! ……え? 簡単な料理だって?」

「串焼きとスープだな」


 ソウヤの答えに、クリストフは目を丸くした。


「それは、頼めばこの場で作ってくれるって意味か?」

「作り置きさ。……串焼き一本銅貨20枚、スープ一杯同じく銅貨20枚だが……おひとつどうだ?」


 アイテムボックスに保存している、串焼き肉を出せば、途端にタレと肉の絡んだ匂いが広がった。

 商品を見ていた冒険者たちも、その香りに気づき、視線を寄越した。


「ほれ、どうだ……?」

「これは魔法か? 出来たてに見えるぞ?」

「残念、これも魔道具で保存してあるやつだ。出来たてホヤホヤだ」


 ゴクリとクリストフは喉をならした。


「ひとつもらおうか。ちなみに、スープも温かいやつか?」

「もちろん」

「あー、リーダー、ずるいっ! おれたちも食べたい!」


 毎度ありー。作ったものが早速売れるというのはいいものだ。


 代金と引き換えに、串焼き肉とスープを提供。受け取ったらさっそく、ホクホクと熱のある肉にがっつき、スープの具をスプーンでとって口に運んだ。


「うめぇ!」

「串焼き肉! もう一本くれ!」


 大好評だった。あまりに食事に夢中で、見張りを担当していたミストも呆れ顔だった。だがそこは冒険者。野外であっという間に食べる術を心得ていて、すぐに食事を終えた。


「……おたくら、そこまで腹減ってたの?」

「いや、昨日は野宿だったんだがね、食事が保存食でね」


 クリストフはご機嫌だった。


「何とかスープにして食ったんだが、あんたたちのスープや肉とは雲泥の差ってやつだ。ここ最近で一番のご馳走だったかもしれん」


 元料理人? と聞かれたから、前組んでいたパーティーメンバーから教わったとだけ答えた。元の世界で、あまり長くはないが独り暮らし期間があって自炊した経験が役に立っている程度ではある。


「商人じゃなけりゃ、おたくらパーティーにスカウトしたのにな」


 どこまで本気かわからない調子のクリストフに、どうも、と返しておくソウヤ。


 ともあれ、今回の商売の結果、ショートソード一本、ハンドアックスが一本売れて、串焼き肉、スープなどと合わせて、銀貨104枚を売り上げた。


 ――あー、武器だけで銀貨100枚、料理が銀貨4枚かぁ……。


 さすがに中古とはいえ、武器はお値段が高い。拾いものであることを考えれば丸儲けもいいところだ。


 ただし、正規に購入しているわけではないので、安定して手に入らないのがネックと言える。



  ・  ・  ・



 クリストフら冒険者一行と別れて、ソウヤたちのコメット号は王都方面へ移動する。


 もっとも、今は王都に行くつもりはないので、道を逸れて東へ進路を向けた。


 道中、一人を追い抜き、また進行方向から一人とすれ違った。やはり警戒されてしまった。


「最初から上手くはいかんもんだ」


 そう自分に言い聞かせれば、ミストが「さっきは足を止めた集団がいたでしょ」と言った。最初というなら、ちゃんと売れたのだから上々と言える。


「珍しい浮遊バイクで行けば、積極的に絡まれると思ったんだがなぁ」


 転校生を珍しがるクラスメイトよろしく、向こうが放っておかないと思っていたが、少々見込みはずれだった。


 東へ伸びる街道に沿ってバイクを走らせる。左手方向に森が見え、街道が近づいていく中、前方で何やら騒ぎのような――


「ミスト!」


 ソウヤが呼べば、ミストは荷台から前方を凝視した。


「……馬車と、周りにオークの集団。戦闘中のようね」


 ミストの目が魔力を帯びて、視界が拡大される。ドラゴンの目は千里眼だとかいう言い伝えがあるらしいが、彼女もまた視力を強化できる。


 オークの集団が馬車を襲っている――豚のような顔を持つ人型亜人種族。程度の低いほとんどのオークは、魔獣と同レベルと見られている。


 案外にして凶暴で、大抵出くわしたら敵なのだが……。ソウヤは眉間にしわを寄せた。


「こいつは、どっちに加勢すべきかな?」

「え? 襲われている人を助けるのでは?」


 セイジが疑問符を浮かべた。ソウヤを口を開いた。


「いやね、普通に考えたらオークが敵なんだろうけど、もしかしたら馬車側が滅茶苦茶悪い奴で、オークたちは何か大事なものを取り戻すとか、理由があって戦っているとかさ――」


 自分でそう口にしてみて、何を言っているんだ、と思った。


「んなわけねえか。……オークだもんな」

「ええ、普通に略奪のようね。たぶん発情期でしょうよ」


 美少女の口から、発情期とかいう言葉が出ると、少々もやっとするソウヤである。


「なら、とっとと襲われている方を助けるぞ!」

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