第26話、少しずつ形になってきた


 翌日から、エイブルの町を離れ、近隣の町や集落を回る。行商としての販売ルートの確立である。


 この世界の都市間移動は、基本、歩きである。乗り物といえば馬車。それ以外の方法となると、転送魔法とか飛空船などになるが、それらは非常に限定されていて、一般人が使えるものではない。


 だが、ソウヤたちには、それらとは違う乗り物を所有している。


 コメット号――浮遊バイクである。


 まーた、セイジには驚かれるだろうなぁ――ある程度、覚悟しながら、ソウヤはアイテムボックスから取り出す。


 勇者時代に使っていた乗り物と説明すれば、予想通りセイジは呆気に取られていた。


 街の外を移動する時は、このコメット号がソウヤたちの足となるが、この浮遊バイクは最大二人までしか乗れない。


 運転はソウヤしかできないから、必然的にミストかセイジのどちらかということになる。が、ソウヤとしては野郎と相乗りする気などさらさらない。


 そこで用意したのは、車輪付きの荷台だ。これは勇者時代に、緊急を要する移動で何人か乗せられるように製作した代物だ。


 小回りは利かなくなるが速度は出せるので、重宝した。荷物も載せられるが、今はアイテムボックスがあるから、後ろにはミストとセイジに乗ってもらうつもりだ。


「で、今回、色々な場所を渡るわけだが、街道などでも旅人や通行人にも行商業をするつもりだ。そこで荷台には商品を置こうと思う」

「何を売るんですか?」

「水とか果物。移動しながら食べたり飲んだりできるものかな」


 繰り返すが、街や集落の間の移動は徒歩。近場でも半日や一日はかかる道中だ。荷物が限られている中、食料関係は余裕をみて用意するものだが、途中で補給できるとなれば精神的にも楽になる者もいるだろう。


 まだ先は長いのに水を切らしたら、飲める水を探して彷徨うなんてことは、割とある。元の世界の日本のように、蛇口を捻れば水が出るなんて便利なものはないのだ。


「本当は、何か料理も用意できたらいいんだけどね」


 アイテムボックスなら出来たてを保存できるから、野営する旅人が調理の手間もなく、温かい食事が取れるとなれば人気も出るだろう。


「オレが作るってのも、結構準備とか大変なんだよなぁ。簡単な料理でもいいとは思うんだが……。まさか街道のど真ん中で作るってのもなぁ」


 それでは完全に屋台だ。だが、エイブルの町のダンジョンでも冒険者相手に企図せずにやったら好評だったから、いずれは商品展開したいと考えている。


 それを聞いたセイジが「それはいいアイデアだと思いますよ!」と同意してくれた。――何か手頃なものがあるかなぁ。


 とりあえず、水は、魔石水筒があるので、これから水を出せば飲料水は確保できる。ダンジョンから魔石を回収したから、もし水筒の魔石の魔力が切れても交換すれば済む。


 なお、この魔石水筒の話をしたら、セイジが「魔石の使い方として、もったいないのでは……」と言い出した。


 この世界の住人たちあるあるなのだが、基本、魔石は武具や魔法の触媒として使われるため、一般生活に魔法道具として応用しようという考えが中々広がらない。武器も魔道具も持たない一般人たちは、魔石は高値で売れるからと手に入れたら、さっさと売り払ってしまうのだ。


 使い方によって水が簡単に手に入ったり、電灯になるのだが、人間、大金に換わるるとなればそちらへと流れてしまうということか。


 魔石が金になるなら回収しようと考える者もいるが、同時に魔物が徘徊している場所でもあるので、一般人には入手はハードルが高い。……このあたり、魔石が高値になる一因でもある。


「ま、オレらは魔石を手に入れるのはわけないがな」

「……」

「お前も、そのうち楽勝で魔石採集できるようになるさ」


 強くなればね。ということで、セイジの装備も整えないといけない。


 ソウヤは、自身のアイテムボックスから、容量制限ありながら、生ものが腐る時間を遅らせる部屋を作る。それを切り取り、アイテムボックス化すると、セイジの三つのバッグにそれぞれ入れた。


「……ちなみにこれを売れば、お前は数年遊んで暮らせるぞ」

「でも、それをやったら、僕自身は何も変わらないですよね?」


 弱いポーターのまま。それは嫌です、と彼は言った。その言葉にソウヤは笑った。


「お前はいい奴だな」

「それを言うなら、ソウヤさんだって」


 ありがとうございます、とセイジ。照れくさくなってソウヤは首を横に振った。


「いや、オレは優しくないぞ」


 アイテムボックスから、これまで回収した武器を取り出す。それをセイジの前に並べる。


「さて、強い冒険者になるための第一歩だ。己を知り、己が思い描く強者になるための武器を取れ」


 ただの荷物持ちで終わりたくない、という言葉通り、セイジにも武器を持たせる。戦える冒険者になるというのが彼の目的でもあるのだから。



  ・  ・  ・



 アイテムボックス内の自宅前の広場スペースで、ソウヤとミストはセイジの戦闘能力の検分を行った。


 本人の言う通り、武器の扱いは素人に毛が生えた程度。見よう見まねで覚えた動きは、きちんと指導を受けていない故に、隙だらけ。


「オレが斬鉄でぶん殴ったら、たぶん一発でミンチだな」

「ワタシでもたぶん一発で倒せると思う」


 現在の評価、どこにでもいる雑兵レベル。


 ただ三年間、荷物運びを続けたおかげか、足腰は強く、スタミナもあった。重い荷物を抱えて走り回ったおかげだろう。


 また、モンスター関係の知識も豊富なのがわかった。これもパーティーに同行する手前、モンスターを知ることが、戦えない自分の身を守ることにも繋がるからだ。


 パーティーの仲間たちにモンスター情報の助言をしたらしいが、最後には煙たがられていたという。


「敵の弱点がわかるなら、そこを狙う戦い方もありだな」

「近接戦は、まずは基本を覚えてからね。でなければ危なくて使えないわ」

「訓練と実戦を繰り返すしかない。頭ではわかっているんだから、あとは体がついてくれば……」


 などと、ソウヤとミストは話し合う。いっそ後ろから飛び道具で支援するってのもありかもしれない。


「弓、クロスボウ……魔法の杖とか」

「あの子、魔法の適性なさそうなのだけれど」


 ドラゴンの目だろうか、ミストは、セイジをそう評した。


 弓を引くのもそれなりに力がいるし、使いこなすには相応の訓練が必要だ。その点、クロスボウなら、比較的扱いやすい。


 が、一方で威力があるクロスボウは矢を撃つ弦を引くのに力が必要なため、射撃速度で弓に劣ってしまう。一長一短ではある。


「いっそ銃とかあったらな」


 ぼんやりと、ソウヤは思った。

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