第15話、冒険者ギルドに行った
小綺麗な建物だった。外国の博物館とか図書館を思わせる建物は、周辺の建物に比べてやや大きい。中々年季を感じさせる壁面の汚れもあるが、不潔さは感じなかった。
それは中も同じで、掲示板、カウンター、休憩所と王都のギルドらしく大きくはあったが、特に目新しさはない。ここにいるのは冒険者たちで、結構な数が大フロアにあったが、広さのおかげか、混雑している印象はなかった。
ウェスタン映画よろしく、入ったら全員から睨まれる、なんてことはなかった。近くにいた何人かは、ぶしつけな視線を向けてきたが。
歴戦のツワモノといった雰囲気の者。女性冒険者に声をかけてる軟派者。入ってくる冒険者を値踏みしているような人相の悪い者。緊張を隠せないルーキーなどなど。色々な冒険者がいた。
「さすが都会だけあって、いちいち新参者を見ている暇はないってか」
「そうかしら? ワタシ、ジロジロ見られてるわ」
ミストがすっと、俺に腕を絡ませてきた。娘が不安だからと父親に身を寄せるのに似ているか。ソウヤは苦笑いを浮かべる。
「さっきも言ったけど、君がチャーミング過ぎるからだろ」
「そう? そのチャーミングなワタシと腕を組めて、いまどんな気分?」
「悪くないかな」
「それだけ?」
「他に何を言えばいいんだ?」
先ほどよりももっと視線が集まっているので、そろそろ勘弁してほしい。場違い感がハンパない。
ソウヤはミストを連れ立って、カウンターへ。
――へえ、ランクでカウンターが違うのか。……あ、あれか登録用カウンターは。
書いてあったので、そちらへ。受付嬢がソウヤとミストを見て、ニコリと笑んだ。
「ようこそ、冒険者ギルドへ」
「冒険者登録をしたい」
それ専用のカウンターではあるが、要件は正しく最初に言っておく。そこから冒険者になるための書類の作成。
ソウヤはともかく、ミストも登録したいと言えば、受付嬢はかすかに驚いた。だがそれもわずかで、すぐに元に戻る。
「ソウヤ、代筆して」
「はいはい」
ミストさんは字が書けない。たぶん、文字も読めないと思う。
ソウヤは自分の分も含めて、ミストの分も書き終わると、別室にて、冒険者についての説明を受けた。
冒険者とは……で始まり、基本的なルール、ランク制度、クエストの受注や魔獣討伐後の証明部位の切り取りや解体などなど――
「冒険者登録料は一人銀貨五枚です」
――へえ、冒険者って誰でもなれる職業だと思っていたけど、意外と金かかるんだ。
危険な魔獣討伐とかやるから、入る敷居は低いとばかり思っていたソウヤは軽く驚きをおぼえた。
「無職から冒険者になるのは案外難しそうだなぁ」
「登録料がない、もしくは足りない場合は、仮ランクとしてFランク冒険者として活動できますよ」
「Fランク?」
ランクの説明は上はSランクで、下はEだと聞いていたが、さらにその下があったとは。
「Fランク中に、クエストを果たして報酬を稼ぎ、登録料を払えれば、そこで正式にEランク冒険者としてスタートできるのです」
仮免許みたいなものか。ソウヤは納得する。その話が本当なら、一応、誰でも申請すれば冒険者になれるようだ。
まあ、こっちは満額即払えるけどね――ソウヤはミストの分も含めて、銀貨十枚を出して登録料を支払う。
そこで銅製のランクプレートを手渡された。Eランク冒険者証だ。紛失したら、再発行でさらに金を取られるという。
なおDランクは鉄、Cランクは銀、Bランクは金、Aランクはミスリルで、Sランクだとオリハルコンらしい。
「これで晴れて冒険者だな!」
「いえ、こちらのギルドで手配したクエストを三つ、こなして頂いてからですね」
係の人に言われた。
「冒険者としての適性を判断するテストですね」
初歩的クエストをこなして、冒険者の仕事の手順や段取りもやっていくお試し期間という。用意されているクエストは、初心者向けに複数あって、その中から冒険者側で選ぶことができる。
戦闘が得意なら討伐系、それが苦手なら探索や採集系を、ということだ。
「じゃあ、この魔獣を複数討伐するってやつにするか」
ソウヤが提案すれば、ミストも頷いた。討伐対象は、狼とかゴブリンとか、町の外や森などで割と出没する魔獣や魔物だ。……元勇者とドラゴンが相手をするには、イージー過ぎる。
というわけで、講習部屋を出て、ギルド1階正面フロアへ。
「さっさと片付けちゃいましょ!」
意気揚々とミストは先を行くが、彼女の前に若い冒険者が立ち塞がった。革の鎧に、武器はショートソードか。ジャラジャラとしたチェーンで鎧を補強しているが、その顔立ちは何ともチャラそうだ。
「よう、お嬢ちゃん。いま冒険者登録したばかりみたいだな。俺が先輩として色々教えてやろうか?」
親切な先輩――には見えないな。見た目で判断して悪いが、美少女だから声をかけたって、ツラをしている。
「あぁ?」
ミストのすぐ後ろにいたソウヤは、そのチャラ男にガンを飛ばした。
「うちのツレに気安く声をかけてんじゃねえよ」
低い声を出したせいか、チャラ男は気圧された。「すいません……」と消えそうな声を出して下がり、道を開けた。
ミストは、初めから何もなかったように歩き、ソウヤはマジマジと若い冒険者を凝視してやった。猛獣に睨まれたように小さくなるチャラ男くん。
「腰抜け」
ミストは唇の端を吊り上げた。騎士に守られたお姫様のような態度だ。
「ソウヤに怖じ気づいていたわね。でもね、ソウヤ。あれくらい、ワタシでも追い払えたわよ?」
「それが恐かったんだ」
ソウヤは肩をすくめる。
「こんなところで竜の威圧なんてぶちかましたら、あいつは漏らしちまったんじゃないか?」
さらにその影響は、フロアの広い範囲におよび、他の冒険者たちも煽りを食らっていただろう。――悪目立ちは御免だ。
「まあ、いいわ」
ミストも肩をすくめる。
「冒険者になったわけだけど、次は何をするの、ソウヤ?」
「まずは試験クエストを果たす。そのついでに商人として必要なことをする」
「商人として?」
「そう、仕入れだ」
売るものがなくては始まらない。クエストを遂行しながら、商品を仕入れ、調達するのだ。
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