第12話 休息

「旅の方、これをどちらで」


 心底驚いた様子でツヅミが尋ねる。


「おじさんがわすれていったの。たいせつなもの」


「……?」


「ああ、えっとですね……」



「そうか……そんなところに暮らしていたとは。てっきり遠い地に行ってしまったとばかり」


「なんだじーさん。知り合いなのか」


「そやつはな、かつて儂と混竜族の族長の座を争っていた男じゃよ」


 昔を懐かしむように遠い目で語る。


「あまり旅の方に聞かせられるような話でもありませんが、まぁ聞いてやってくだされ。いわゆる権力争いが起こって、結果として儂が選ばれた。それだけのお話ということ」


 そしてツヅミは簡単にではあるが彼の人となりについて説明し、特に憎んでいないことも付け加えた。


「ええっと、この石はその話にどういう関わりが?」


 不思議そうにレンが尋ねる。


「その権力闘争の火種というべきか、そんなところじゃな」


 ノツと呼ばれた男がレンの手から石を取り、まじまじと見つめる。


「これ、神事に使う石に似ているな。返すってんなら、もらって良いんだよな?」


「俺たちには必要ないものだからな」


「では届けてくださったお礼に、些細なもてなしを」



 レンたちにはよくわからなかったが、この村では大事な道具の一つだったらしく、それを届けてくれたことに対する感謝を述べられた。


 族長の家で食事と宿を提供され、急ぐ身でもないと施しを受けた。


「マダレにレンか。俺はノツ。混竜族の族長になる男として覚えておくが良い」


 彼は身長も高ければ、態度も大きい。


 どちらかといえば引き締まった体躯だが、その性格が見た目以上の印象を与えるのだろう。



 そしてその夜。


 ふとレンが目を覚ますと、隣で眠っているマダレがうなされていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る