第10話 冒険者

 男の願いを叶えるため、村を目指して歩き続ける。


「……レン?」


「迷った」


 基本的に土地勘があるわけでもなければ、日帰りできない範囲には出かけることもなかったレンにとって、夢の中の景色を頼りに旅するというのは無謀であった。



「気が進まないけど、旅人にでも尋ね――うわっ!」


 風が吹き、顔に何かが飛びつく。


 それは地図だった。


 それも人間による量産型の、ということはそれなりに正確であり、まさにこの周囲の情報が描かれていた。



「へぇ、こいつはツイてるぞ」


 己の地図は縮尺や方角があてにならないが、地図の見方くらいは身についている。


 来た方向と照らし合わせて夢で見た村を探し当てる。


「竜族の集落らしきマークもあるし、ここだろう」



 さらに進むと前方に一人の女性が見える。


 見た目はレンと同じくらいの大人、格好はあまりきれいとは言えない。


「冒険者かな。でもなんだか変なだ。人間でも竜族でもないのか、あるいは……」


「ふーん」


 レンが考えていると、マダレがためらうことなく彼女に向かって歩み寄る。


 そして、クンクンと嗅ぎ回っては振り返り、


「なんにもにおわないよ?」


 と。



「……はぁ?」


 女性が顔を上げる。


 サイドテールを靡かせつつもやや精悍な顔つきで、三白眼気味な瞳が思いっきりマダレを睨んでいる。



「あっあはははっ、いえ、なんでもありませんよ!」


 脇目もふらずにマダレを抱きかかえ、逃げるようにその場を後にする。


 一心不乱に駆けるレンと対照的に、マダレはその状況すら楽しんでいる。



「はぁ……はあ……マダレ、むやみに、誰彼構わず、話しかけないように、な……」


「はーい。たのしかったー」


 特に反省している様子はない。


 これから先が思いやられると不安になる。



 気がつくと、目的の村のすぐ近くまでやってきていた。


 絶壁を背にした麓の村だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る