第7話 特別な存在

 伝書使クーリエという職業がある。


 竜の集落間でやり取りする手紙を運ぶのが主な仕事で、様々な事情により集落で暮らせなくなったの救済でもあった。


 外の世界に興味があったとある兄妹は、たまたま管轄外からやってきたという伝書使クーリエの話す奇想天外な物語の数々に心を奪われた。


 そして閉塞感に耐えられなくなった妹は集落を飛び出していった。



 出ていった妹を探すため、兄は自ら集落の外に出る用事に名乗りを上げていた。


 そして何か手がかりはないかと少しずつ捜索範囲を広げている。


 それは同時に、兄の冒険心を煽ることになっているのだが、自覚があるのかどうかはわからない。


 もし、自覚があっても彼は認めないだろう。



「どうしたの? レン、なんだかしょんぼりしてる」


 マダレの言葉に空元気で応じる気概も残されていない。


「……俺はさ、自分は特別だって思ってたんだ。こんな集落を飛び出して、もっと自由に生きたいって思ってた。それが結局今の生活を捨てられず、こうして戻ってきてる。結局、俺は凡人なんだって思い知らされ――」


「そんなことないよっ!」


 レンの吐露に被せるようにマダレが大声を上げる。


「だって、レンはぼくをよ。それだけで、ぼくにとってはトクベツなんだ」


 屈託のない笑顔で応える。


 先ほどまで悩んでいた自分が馬鹿らしいと苦笑する。


「そっか。そうだな」


 簡単なことだ。


 この子にとっての特別になればいい。



「なあ、君は――」


「ぼくはじゃなくて、マダレだよ」


「すまない。じゃあマダレ、お父さんに会いたいかい?」


「うんっ!」



 マダレの返事を聞き、気合十分と己の頬を叩く。


「よぅし、決めた。木乃伊ミイラで上等だ」

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