第5話 託された願い
マダレは力を使い果たしたのか、その場に倒れ込む。
「なんて力だ……」
レンはその一部始終を呆然と眺めていた。
「その子は、きっと、特別な存在なのでしょう」
村長が再び話しかけてくる。
「この村を襲った者の正体はわかりませんが、目的はこの子の父親です」
「父親?」
「この子もその父親も、この村の出身ではありません。ただ、ある時彼が来て『この子を頼む』と置いていったのです」
「なんでこの村を襲う必要があったんだ?」
「おそらく、彼をおびき出すためでしょう。我々には見えていた、奴らがこの集落を襲うという未来が」
竜には未来を視る能力がある。
竜とは智慧の生物である、と言われていて、未来予知も能力の一種である。
そしてまた、竜は『あるがままを受け入れる』生物でもある。
たとえ予見した未来に滅びの結末が待っていようと、それを受け入れてしまう。
人間の台頭を許したのも、自然の摂理と受け入れているのだ。
「しかし、マダレにはその運命を背負わせたくなかった。この子に罪はない。滅びの定めに加わるには、早すぎる」
つまり、マダレは。
何らかの意図によってあの場所に隔離されていたのだ。
「見ず知らずの人にこのような願いを託すなど、酔狂と思われるかもしれぬ。しかし、ここで出会ったのも何かの縁とその願い、叶えてやってはくれませぬか」
「願い」
「マダレの、父親に会わせてやってほしいのです。彼はきっと、今のこの世界のどこかで旅を続けているはず」
「……」
承諾も否定もできず、ただ黙っていることしか出来なかった。
レンという男は誠実であるがゆえ、答えに迷っていた。
そして静かに村長は息を引き取る。
最期には灰燼となり、骨も残らず風に散った。
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