第4話 悪魔火

「へんなけむり」


「嫌な予感がする。君がいるのは赤竜族の集落だよね」


 赤竜族は火を操る。


 それが黒く燻った煙を上げるなんて、普通じゃない。



「なんだ、これ――」


 戦禍の只中にいるような。


 惨事がただ広がっていた。


 家屋は叩き壊され、火の手が上がり、邪悪な炎がすべてを包み込んでいる。



「あっ、そんちょーさん!」


 マダレが駆け寄った方に一人の老人が倒れている。


 片足は潰れ、血を流しもはや助かる見込みがないことは誰の目にも明らかだ。



「お、おお……マダレか」


 息を切らしながら、必死に声を出す。


「ねぇ、どうしたの? からだ、いたいの?」


「一体何があったんですか!?」


 レンの問いかけに微かにまぶたを動かす。


「あなたは、マダレを方ですね。今すぐ、お逃げください」


 彼の言葉にはなにか引っかかるところがある。


「一体誰がこんなことを」


「なぜ……理由はわかりませんが、目的なら、おそらくわかります」


 村長は口元だけを動かす。


 もはや目も見えていないようだ。


「それって――」


「おっと、まだ生き残りがいたのか」



 振り向くと、そこにいたのは竜でも人間でもない姿をした何かで、不気味な笑みを浮かべて佇んでいた。


 二本足で立ち、全身黒ずくめで前かがみの姿勢、下品に長い舌を伸ばしている。


 実物を見るのは初めてだが、おそらく『悪魔』と呼ばれている存在であろう。



「皆殺しにしろとの命令だ。悪く思うな」


 その『悪魔』は自らの右手を鋭利な刃に変え、躊躇なく二人に襲いかかる。


 とっさのことに、レンは何も出来なかった。


 マダレを庇ってやるべきだったのに。


 そう思った刹那。



 悪魔は


 跡形もなく。


 マダレに手をかけようとした瞬間、とっさに腕を伸ばしたマダレに触れるや否や、業火に包まれ灰と化した。

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