第3話 花に煙

「――あった、これだ」


 レンは目当ての薬草をいくつか摘み取る。


「? おはなじゃないよ」


「だけどこれが必要なんだ」


 マダレの手には小さな花が一つ握られていた。



「ところで君はどうしてこんなところに一人でいるんだ?」


 人目につかない崖の下に小さな子供が一人。


 見つけたのがたまたま彼だから良かったものの、もしも悪意あるに見つかっていたらと思うと恐ろしい。


「んー、わかんない」


 あっけらかんと答える。


「わからないって……」


 どことなく不思議な雰囲気の少年ではあるが、どこにでもいる普通の少年のようにしか見えない。


 そんなものが自然発生的に現れることは――


「きれーなちょうちょがいてね、おいかけてたらおっこちちゃった」


「……近くに君の住んでる集落があるの?」


「あるよー」


 考えすぎだった。


 どこにでもいる普通の少年だった。


 ちょっと抜けているというか、好奇心旺盛というか。


「そういえば、どうやってうえにもどろうかなってこまってたんだった!」


 ……この子、もしも自分がやってこなかったらどうするつもりだったのだろう。


 そんな風に考えていた。



「いいか、しっかり掴まっていろよ」


「はーい」


 マダレをおんぶして、もと来た道に戻る。


 水面に手を入れ、綱を引き寄せるようにぎゅっと拳を握りしめ、その断崖絶壁な滝を登っていく。


 わずか数秒の出来事。


 背中越しにマダレがはしゃいでいるのが伝わってくる。


「すごいすごーい!」


「そりゃどうも」


 滝を登ったり、川を逆走したり、程度の差はあれ青竜族なら大体が可能だ。



「ところで君の村はどこにあるんだ? ついでだし、送っていくよ」


 背中にしょったままでマダレに話しかける。


「わーい」


 キョロキョロと首を動かし、村の位置を探す。



「あった、あそこー」


 マダレが指差した場所。


 目を凝らす。


「……煙?」

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