第4話 また逢う日まで…
「「わーいわーい」」
ユウスケと二人でバンザイしながら喜ぶ。
やっぱチートは大事だよね。
これ王道。
「とはいえ、二人のチートは全く同じものじゃないから注意してね」
神は人差し指を立てて俺たちに注意するように言う。
「タカシ君のチートはいわゆる”成長促進”だね。レベル1から始まるけど、勇者としての適性が素質として備わっているから、人としての限界は軽く超えてくるよ。逆にユウスケ君はスタート時点からいかにもチートなカンスト状態で始まるね。レベルもマックスでパラメータも全てカンスト。だけどあくまでも個体値としてのカンストだから、技術的な、例えば魔法とかは習得出来るから修行頑張って!それとさっきも言ったけどストラテジー要素も含まれるから、二人の楽しみ方は異なってくるね」
ふむふむ、なるほど。
「タカシが王道RPGで俺がストラテジーか。……フッ、おもしろそうじゃん!タカシ!早く俺んとこまでやって来いよ!」
ユウスケがニヤリ、と笑いながら俺に言う。
おい、もうすでに魔王気取りかよ。
覇気出すにはまだはえーぞ!
「タカシ君は魔王を倒す為にモンスターを倒してレベルを上げつつ、装備や仲間を整えて万全の体制で魔王に挑むように頑張る。ユウスケ君は逆に勇者を育てる為に各地のダンジョンなどに適切なモンスターを配備しながらも、魔王領を繁栄させてね。時には心を鬼にして人族に侵攻する時もあるだろうけど、それも含めての勇者育成だと思ってくれればいいよ」
「勇者なんてゲームでいくらでも育てた事ありますから余裕ですよ!」
誇るわけじゃないけど王道RPGは片っ端からクリア済みの俺だぜ。
こんな王道ゲーなんて全然余裕さ!
「勇者はワシが育てる」
やかましいわ。
俺の横ですでに魔王縛りでのストラテジーゲーを想像しているユウスケが馬鹿な事を言っている。
「ふぉっふぉっふぉ。そなた達はほんに面白いのぅ。ワシも久しぶりに楽しめそうで何よりじゃ」
いつの間にか最初の爺さんスタイルに戻っていた神が楽しそうにニコニコとしながら俺たちの様子を見ていた。
十代で死んじゃったけど、まぁ転生して貴重な体験をしながら神様を喜ばせられるならいい経験なのかな?
「あまり種明かしをしすぎても楽しくなくなるじゃろうから、このあたりにしておこうかの。実際に転生してからそなた達自身で楽しみながら色々とやってみるとよい。それと…二人にはこれをやろう」
神がそう言うと、俺たちの前に光の玉が現れた。
徐々に光は薄れ、完全に光が消える頃にはスマホが浮かんでいた。
「立ち向かう者と待ち受ける者。それぞれの役割は理解してくれたじゃろう。しかし、実際に二人が【ベータ】で出会えるまでには長い時間がかかるはずじゃ。それまで全く連絡を取れないのも面白くないじゃろうから、二人にはワシから連絡を取り合えるように通信装置を渡しておこう」
これ、どう見てもア〇フォンですよね?しかも最新機種じゃね?
「ワシが作り出した通信装置、名付けてワシフォンじゃ。」
真正面からパクッてる!しかも語呂が悪いし!
「機能はそなた達の成長とともに拡張されていくように設定されてあるぞ。標準で解放されているのは【ステータスチェック」だけじゃな。本来ならギルドや魔王城の祭壇室など特定の場所でしかチェック出来ない仕組みじゃが、面倒じゃろうから二人には常時チェック可能なようにしてやろう。そして主たる目的の通信連絡については、まずチャット機能が拡張され、その後最終拡張で電話機能が解放されるようになっておる。恐らく電話機能が解放されるのは終盤頃になると思うがね」
ふむ、王道RPGからは少し逸れてしまうけど致し方なしか。確かにたった二人しかいない転生者で連絡が取れないのはつまらないもんな。お互いに連絡取り合いながら進めた方が、いかにもマルチプレイしているみたいで楽しそうだし。
普通のマルチプレイと違って、違う陣営というのも面白いな。
魔王主人公のストラテジーが気になる、ってのもあるけどね。
「ワシフォンについては、呼び出した時に出現するようになっておるから、常に身に付けておくなどの注意は不要じゃ。それと他の者からは見えんからそこも安心してもらって大丈夫じゃよ。ただし、他の者の目には虚空に向けて何やら操作している、といった感じに見えるじゃろうから、あまり人前で出すのはお勧めせんがの」
神が言うように確かに他の人たちには見えないんなら注意が必要だな。何もない空間に向かってポチポチしてるとか完全にヤベー奴だもんね。注意しよう。
「それではワシからの説明はこれで終わりじゃ。不運な事故によって生涯を終えてしまった君たちだが、これも人生と割り切って次の人生を楽しんでもらいたい。まぁワシの娯楽に付き合わせるような形になってしまって申し訳ないが…」
神が申し訳なさそうに俺たちに言う。
心なしか白髭も元気がなさそうだ。
「いえいえ!全然気にしないでください!むしろこんな貴重な体験できるんですから全然オッケーですよ!な、タカシ!」
ユウスケが俺の肩を組んで笑いながら声を掛けてきた。
「ええ、ほんとユウスケの言う通りです。ほんと気にしないでください。まぁ心残りと言えばダブチにありつけなかったまま死んだって事くらいですから」
「お前、この状況でもまだダブチの事言ってんのかよ…」
ユウスケが呆れたように言う。
だって勇者としての人生が終わって、再転生するまで食えねぇんだぞ?
何回でも言うが、俺は一口も食べれてないの!
「すまんのぅ。勇者の次の人生まで我慢しておくれ。きちんと役目をこなしてくれたらもう一度転生させてやれるからの。本来であればこんな事をせずとも転生させてやりたいんじゃが、色々と神にも決まりがあってのぅ…。君たちだけ特別に、というわけにもいかんのじゃ」
「なるほど、輪廻転生の理を簡単に触れないとかって事ですね。神様も大変なんだなぁ」
「まぁ色々あるんじゃ。他の者には言えない決まりなので詳しくは説明できんが、そういう類の物だとだけ、わかってくれてたらよい」
神が苦笑しつつ申し訳なさげに言った。
まぁ決まりなら仕方ない。
どちらにせよ、ぐっちゃぐちゃになってしまっているのなら、もう戻ることは出来ない。気を取り直して神の言うように役目を果たして再転生を目指そう。
「さて、それではこれで本当におしまいじゃ。この後に二人は別々の場所、違う種族に転生するが、お互いに伝えておく事などはないかの?」
神様の言葉に俺たちは顔を見合わせて少し考える。
「おうユウスケよ、すぐに鍛えて最高の仲間と装備で向かうから覚悟して待っとけや」
「おうタカシよ、俺が最高の環境を整えてやるから気張って攻めてこいや」
互いにニヤリと笑いながら言い合う。
もうすでに俺たちは勇者と魔王になったかのようにロールプレイを開始していた。
次に会う時は本当に勇者と魔王だ。
神のあの物言いを額面通りに受け取るのなら、数年で終わるものじゃないのだろう。
もしかすると数十年単位かもしれない。
異世界である【ベータ】がどんな世界なのか、ベタなテンプレ世界だというのは神の言葉からわかっているが、実際に向こうの世界に行ってみないと分からない事も多々あるだろう。
ワシフォンで最短で連絡が取れるチャット機能もいつ頃に開放されるのかも不明だし、色々と手探りで旅をしながら調べよう。
「そなた達の【ベータ】での役割に幸多からんことを!」
神の言葉とともに俺たちの身体が徐々に光り始めた。
異世界【ベータ】への転生が始まったのだろう。
再度、互いに見合う。
「おう、ユウスケ」
「おう、タカシ」
もう互いの顔が光りで見えなくなりつつある。
別々の場所、 別々の種族、別々の立場で始まる新しい人生。
神から役目をもらっているけど、互いにどうせなら最高に楽しめるように過ごすに違いない。
…最後に伝える言葉は決まってるでしょ!
「「・・・じゃあな!」」
その言葉と共に、俺たちは光に包まれ、何も見えなくなると同時に意識を失った。
荘厳な音楽が聞こえる。
まるで俺たちの門出を祝ってくれるような、厳かでありつつ高揚さえてくれる、そんな音楽だ。
そんな音楽を耳にしつつ、意識はすでにないはずなのに、【ベータ】がある星が見えてくる。どうやら俺は俯瞰的に【ベータ】を見ているようだ。
きっと同じ光景をユウスケも見ているのだろう。
光となった俺は自分の意識とは別の見えざる力によって【ベータ】に近づいていく。
俺は【ベータ】を聞いた事も見た事もないのに、なぜか目の前の星が【ベータ】だと理解している。
これも勇者としての役目が成せる業なのだろうか?
【ベータ】が段々と近づいてきた。
流れていた荘厳な音楽もいよいよクライマックスに向かっている。
地球と同じように海や緑が見える。
いくつかの大陸もあり、その中の一つは周囲の空気もどこかどす黒く滲んでいて、大陸全土も赤茶けていた。
あれがユウスケが転生する魔王領なのかもしれないな。
いよいよ外気圏に入るところだろうか。
ふいに、俺のすぐそばから一筋の光が分かれて飛んでいく。
方向は先程見た魔王領らしき場所に向かって飛んでいくようだ。
状況から見て、あの光がユウスケなのかもしれない。
だとすると、これで本当に当分はお別れだな。
きっと、ユウスケも俺に気付いているだろう。
もはや声は出ないが、ユウスケもきっとこう言っているに違いない。
……また、逢う日まで…。
俺とアイツが転生した異世界はベッタベタなテンプレ異世界だった ちょり @mm2222
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