第3話 あるの?ないの?どっちなの!?

「…白い空間からの神様降臨とくれば、それはもう異世界転生しかないでしょうーがぁ!!」

ピカッ!ドーン!


「「……」」


「…白い空間からの神様降臨とくれば、それはもう異世界転生しかないでしょうーがぁ!!」

ピカッ!ドーン!


「「聞こえてるから」」


思わずハモっちまったぜ。

 っていうか毎回雷落とすのやめて。めちゃくちゃ眩しいんですけど。

 都合三回も雷を間近で見たもんだから目がチカチカして仕方ない。

 横目でちらっと隣を見る。

 目をぱしぱしさせんな。


「どう?わかってくれたかな?もう大丈夫?」

「はい、わかりましたんで大丈夫です。何なら最初でわかったんでもう結構です」

 神様が剣を頭上にくいっ、くいっと上げながら聞いてくる。

 なにその「一本いっとく?」みたいなノリ。

 あなたの手の中にあるのは栄養ドリンクじゃなくて神器ですよ。

 二人して両手のひらを前に出して必死に神に『STOP!』と伝える。


「あ、そうなの?じゃあ、まぁいっか。とりあえず君たちに異世界転生の説明をするとしようか」


◆◇◆◇


 神が話す異世界転生は、半ば納得し、半ば困惑?する内容だった。

 俺たちが転生する世界の名前は『ベータ』との事だった。

「『ベータ』という名前はね、ベタから取ったんだよ」

「ベタ…ですか」

「そう、ベタ。君たち二人とも実はベタな物語とかテンプレとか好きでしょ?」


 めちゃくちゃ好きです。

 恋愛ものは幼馴染系が最上。異論は認める。

 王道、テンプレ、予定調和。

 奇抜な物語とか読んでも楽しくない。

 ミステリーはサスペンスなんてもっての外だ。

 常に物語は王道を行くべし、が俺の物語に対する信条だ。

 ちなみにユウスケは義妹ものが最上との事。悪くはないね。


「君たち二人には、そんなベッタベタな世界である『ベータ』に転生してもらうつもりだよ。今、君たちが想像しているような王道を地で行く世界だと思ってくれたらいいかな。なので、思う存分にテンプレを楽しんでほしいね。」

「質問があります」

 俺は右手をさっと挙げて質問する。

「いいよ」

「ありがとうございます。俺たちが死んで、いかにも俺たちが好きなような世界に転生さえてもらえるのは非常に有難いのですが、その理由は何なのですか?神様に特にメリットが無いと思うんですけど」


「メリット、うーんメリットねぇ…。」

 神は俺の言葉に少し悩む。

 真っ白のままだから表情は全く読み取れないけど。

「メリットは無いねぇ。強いて言えば娯楽?基本的に神ってヒマだからさ」

 要するにたまたま面白そうな魂が二つ一緒になって現れたもんだから、どうせならベタな世界に転生させちゃえ!的なノリか?

 まぁでも、変に取り繕われるよりは信用出来るかも…?



「信用されるされないに限らず転生させちゃうけどね」

 神は苦笑しながらそう言った。たぶん苦笑してるんだと思う。顔見えんし。



「すいません、もう一つ質問いいですか?」

「いいよ。でも残り二つね」

 ユウスケが挙手して神に質問する。

 神が急に質問は残り二回だけだと宣言した。何か意図があるのかな?

「二回ですか…。……タケシ、俺が考えてる事質問してもいいか?」

「いいよ」

 俺は即答する。これはユウスケを俺が信頼してるから、とかではない。

 おおよそお互いの思考が似通っているせいで質問の内容はどうせほぼ一緒だろうという考えから来てるものだ。

 恐らくだがユウスケも俺に本気で同意を得る為に聞いたわけではないだろう。

 一応の確認だ。親しき中にもってやつだな。



「その『ベータ』って世界で死んだ場合、俺たちはどうなるんでしょうか?」

「時と場合による。としか言いようがないね」

「……ちょっと内容の意図がわからないんですが」

 ユウスケの言葉に、ふむ、と小さく神が頷く。

「これはサービスで答えるね」

 神がそう言うと、目の前には地球儀をホログラム化させたようなものが現れた。

 地球儀を見ると、どうもそこに映る世界は地球ではないようだ。

 あるべきはずの場所にユーラシア大陸やアメリカ大陸がない。

 勿論、日本だって存在しないみたいだ。


「これが『ベータ』の星だよ。君たちはこれから転生し、勇者と魔王に分かれてもらう。勇者は当然魔王を討伐する為に修行をし、討伐の旅に出る。旅の途中で魔王軍と戦い、町や国を助けつつ旅を続け、最終的には魔王と倒す役割だね」


「魔王は来るべき勇者の到来に備えつつ、各国を侵攻する役目を持っている。…あっ、各地に存在する魔物やダンジョンなんかも魔王の管轄だね。魔王の最終的な役割は勇者に倒される事だよ」


「君たち二人に与えられる使命はそれぞれの役割によって大きく異なるね。倒す側と倒される側。勇者は誰よりも早く魔王を倒さないといけないし、魔王は勇者以外に倒されてはいけない。とはいえ、魔王は実質『ベータ』の世界で最強の生き物だから早々倒される事はないだろうね」


「イメージで言えば、勇者はRPGで魔王はストラテジーゲームをやると思ってくれればいいかな」


「そうして無事、互いが役目を果たせたら、その時は地球に転生させてあげるよ。二人はすでに地球では死んじゃってるから別の人間に生まれ変わる形になるけどね。どうせなら二人でまた出会えるように調整してあげよう。もちろん記憶は持ち越しさせてあげるよ」


 神が一気に話し切ったその内容にしばし俺たちは固まっていたが、ハッとして手を上げた。


「「相談タイム!!」」

「気が済むまでどうぞ」



◆◇◆◇

「どうするよ」と俺。

「どうしようか」とユウスケ。

「どっちも面白そうだよな」と俺。

「うん、どっちも悪くない」とユウスケ。


 俺たちが神に求めた相談タイムは、別に神の言っている事を確認する為の時間ではなかった。

 どっちみち神が言っているように俺たちは転生するのだろう。

 それならば今この時間を建設的に使うべきだ。

 決して長い物に積極的に巻かれに行った結果ではない、と言っておく。

 

「どっちにする?」

「どっちがいいだろうな…どっちも面白そうなんだよな」

「王道勇者をリアルで体験するか、もしくは魔王ストラテジーを体験するか、か」

「どっちもいいんだけどなー、俺は強いて言うなら勇者かな」

 やっぱり男の子なら一度は勇者になってみたいよな!

「お!マジか。それなら俺は魔王にするぜ。勇者が倒しに来るまでの魔王を実体験出来るなんて絶対面白いだろ!お前が来るまでダンジョンや魔王軍を整備してやるぜ!」

 ぐぬぬ…!確かに面白そうだ。

 四天王とか十二神将とか任命するんだろ!?俺なら絶対にするね!

「ワハハハ!よく来たな勇者よ!」

 ユウスケが腰に手を当てながら、不意に大きな声で叫んだ。

 くそっ!めっちゃかっこいいじゃねーかっ!

「なぁ…やっぱ交換とか」

「はいダメー」

 ニヤリと笑うユウスケ。めっちゃ腹立つわ。

 結局そのまま、俺が勇者でユウスケが魔王に決まった。


「やっと相談が終わったかい?まぁまぁ待たされたんだけど」

「「すいませんでしたー!」」

 俺もユウスケも光の速さで神に謝罪する。

 俺たちは神がへそを曲げて反故にされてしまう、という万が一の可能性もきっちりと把握済みだ!

 その為には迅速かつ丁寧な謝罪が必要であることを俺たちはよく知っている。

 大体の局面において、相手の怒りゲージが溜まる前に謝罪する事で鎮静化される事が多々あったからだ。

 火に油を注いだ状態だった時も多々あるけどね。



「とりあえず役割も決まったみたいで良かったよ。…それで?あと一つ質問残ってるけど?」


 俺は神の言葉に大きく頷いた後、右手をぴんっと真上に挙げた。

「はい!最後の質問がありまぁす!」

「はい、タケシくん、質問をどうぞ」


 目を閉じ、大きく息を吸う。

 この質問如何によって俺たちが転生する世界がクソゲーか否かが判明する。

 今までの神とのやり取りを考えると、まず間違いなく問題ないだろうが…。

 とはいえ俺たちは万が一の可能性も考慮するのだ!

 万が一、億が一、俺の質問に神がNOと答えたら……!!


 

 精神を統一し、全力を持って神に問う!

 カッ!と目を見開き、腹の底から溜めた声を張り上げる。

「…チートは……チートはあるんでしょうかぁぁ!?」



 神は、俺の言葉に微動だにしない。

 そのまま何秒経っただろうか。

 横からは、ユウスケのゴクリ、という唾を飲み込む音が聞こえる。

 神は、真っ白いのっぺらぼうの神は、何も言葉を紡がない…。

 無表情のまま、俺たちを見ている。

 …いや、もともと無表情だったわ。


 それでも神は何も言わない。

 汗がタラリ…と流れる。

 …まさか……。

 嫌な予感を感じる。

 チートが…王道ファンタジーなのに、チートは無い…のか…?

 勇者には成長促進というチートが、魔王には無慈悲な強さのチートが…!!



 …神がニヤリ、と笑い低い声で言った。


「あるよ」




 ………ひゃっほーーーい!神ゲー確定じゃーーーい!!

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