第2話 ここまでくればアレでしょうがぁ!

 目が覚めて、気が付いたら白い空間に俺はいた。

 すぐそばには同じようにユウスケもいて、まだ目覚めていないようだった。


「おい、ユウスケ、起きろ。起きろって」

 何度か身体を揺らしていると、「う…うぅん、もう食えねぇ…」などと供述し始めたので頭を思いっきり叩いた。


「お前なぁ…起こす時は優しくしなさいって両親から教わらなかったのか?」

 頭をさすりながら俺をジト目で睨むユウスケ。

「優しく起こそうとしたけどお前がマンガみたいな寝言を言い出したから悪いんだろうが」

「マンガみたいな寝言?」

「もう食えねぇ~とか言ってたぞ」

「マジか!俺そんなん言ってた?」

「言ってた言ってた。表情もいかにもって感じだったぞ」

「それはマジでマンガみたいな寝言だな。……って、あぁ!俺ダブチ食いきれてねぇ!」

「あぁ!俺なんかそもそも一口も食えてねぇ!」


 二人して思わず頭を抱える。

「ユウスケなんかまだいい方じゃねーか。一口も食ってないとか最悪だわ」

「俺だってチマチマ派だからほとんど食ってねーよ!ほぼバンズのみだぞ!」

「まだバンズ食えただけいいだろうが!俺なんかゼロだぞ!?」

「それはお前がさっさと食わなかったからだろ!儀式ってなんだよ!わけわからんわ!」

「バッ…お前!そうだよ!お前が途中で茶々入れるからだろーが!」

「茶々入れたんじゃねーよ!至極まっとうな意見だろ!」


 二人でギャーギャー喚いていると、急に強い光が差した。

 思わず細目で手をかざして見ようとするが、あまりの眩しさに直視が出来ない。

 その光もほんの数秒程で収まった。

 強い光を受けすぎて若干見えにくかったが、ある程度落ち着いたところで光の出どころ付近を見ると、そこには白いローブを着た杖を持ったいかにもな爺さんが立っていた。


「フォッフォッフォッフォ。二人とも元気じゃのぅ。良きかな良きかな」

 ……あ、これ神だわ。

 俺はこの一瞬で目の前に立つ爺さんを神だと判断した。

 恐らくだろうがここは死後の世界。

 いや正しく言うと現世と死後世界の中間に位置する空間みたいなものか?


「ふむ。そなた達が考えている通りでおおよそ間違いないぞ」

 そなた達……神様の言葉に思わず横を見る。

 こっち見んな。

「フォッフォ。そなた達は非常に面白いのぅ。魂の形・質なども非常に似ておるわ」

「魂の形…ですか?」

 横からユウスケが質問する。いや、俺も質よりも形が気になったけども。


「うむ。人それぞれに魂があり、それが赤子の折りから成長と形成を繰り返して大人になるのじゃが、何をどうすればそんなに似るのかという程にそなた達の魂の形は似ておるの」


 確かに、神様の言うように俺とユウスケの感覚はよく似ていたと思う。

 メックの時のように根本部分で食い違う部分があったりはしたが、日頃生活する上での感覚はほぼ一緒だったのではないだろうか。

 テストの時も点数はほぼ一緒。俺が勝ったりユウスケが勝ったりしたが、その点数差は毎回5点以内に収まっており、もし勝ったとしても次回のテストの時はほぼ間違いなく負けていたように思う。逆の場合は確実に勝ちに行ってたけどな。

 笑いのツボも一緒だったし、好きなアイドルや女優もほぼ一緒だった。

 俺が焦ってる時はユウスケも焦ってる時だったし、腹が立つ事があったら大抵の場合はもう片方も腹を立てていた。

 なんとなくだが、自分を写し出す鏡を見てるようで、感情任せになりそうな時でも互いを見れば不思議と冷静になれるのだった。

 なので、神様のその言葉は俺の中で、すとん、と音がしそうな程に納得できるものだった。



◆◇◆◇

「さて、それでは本題に入るとしようかの」

「あ、すいませんその前にちょっといいですか?」

 ユウスケが右手を上げて神様に問う。

「何が聞きたいかはおおよそわかるが構わんぞい」

「ありがとうございます。あの、神様は神様なんですよね?」

 全くもって質問が質問として成り立っていないが、それは俺も気になった。

 なんとなく見た目、空間、あの登場時の光の演出などで神様だと判断したが、今のところまだ神様本人から神様だとは言われていない。


「うむ。確かにワシは…神様ですよ」

 神様は大仰に頷きながら発言しながら…変身した。

 先程までは白いローブに杖、長い白髪にこれまた白い立派な髭、そして白い眉毛で目が見えないところまでテンプレ神様だったが、今度は白いローブはそのままに頭には月桂樹の冠を付け、腰上ほどまであるだろう金髪に碧眼、そして立派な胸囲をお持ちのめちゃくちゃ美人な女神に変身した。

 確かに、これもいかにも、な女神様だわ。


「今、私はあなた達二人のいかにもな神様像を体現させておる。そうする事によって、ウフフッ…、君たちフタリがキャッキャ、神様だと思考ではなく直感で神様だと理解させてるんだよネー?」

 ちょいちょいちょい。ちょいと待ってよゴッドさま。

 喋りながらコロコロ変身していくから混乱するわ。

 女神→筋肉ムキムキゴッド→死神風お色気担当ゴッド→ショタ風双子ゴッド→中肉中背全身白タイツののっぺらぼう。


 今、俺たちの前には真っ白ののっぺらぼうが立っている。

 完全に真〇の扉前です。本当にありがとうございました。


「まぁ、という事で質問の答えで問題ないかな?」

「はい、実演ありがとうございました」

 ユウスケが小さく頭を下げながら礼を言った。

「アハハ、実演ってほどじゃないけどね。その名の通りの神だからね。何物でもあって何物でもないと思ってくれればいいよ」

 真っ白ののっぺらぼうのまま笑うからちょっと不気味です。口の中だけピンクなのになぜか歯は全く見えないというこれまたマンガ仕様なことで。

 白だからいいけど、それで真っ黒だったら完全に犯人扱いされてるからね?



◆◇◆◇

「まず、君たち二人は信号無視でメックに突っ込んできたトラックに撥ねられ即死。ここまではいいね?あ…、ちなみにどうする?今のメックの状況を見せようと思えば見せられるけど?」

 今度は俺が手を上げて質問する。

「ちなみにそれ見る前に聞きたいんですけど、死んだ後の俺たちってどんな感じなんですか?」

「ん?ぐっちゃぐちゃだよ?」

「…は?」

「そのまんまの通りにぐっちゃぐちゃ。トラックが突っ込んできた角度が悪くてね。君たちはトラックとメックの壁にプレスされたような状態だからもう色々と飛び出してきてぐっちゃぐちゃだね」

「ぐっちゃぐちゃ…ですか」

「うん。気持ちいいくらいにぐっちゃぐちゃ♪だって君たち二人の身体がどちらがどちらか判別出来ないくらいだもんね」

 神様はそう言いながらケラケラと笑った。

「…あ、そっすか。じゃあ現場を見るのはいいです。結構です」

 自分たちのミンチとバーガーのミンチが混ざったものを見る趣味はない。

 

「そうなの?ちなみにトラックがあれだけの勢いで突っ込んできて死んだのが君たち二人だけで他にいた人たちは一番ひどいケガでも擦り傷とかちょっとした打ち身くらいなんだから君たちも不幸だよねー」

 神様の言葉に思わず、それ不幸ちゃう理不尽や、と下手な関西弁を言いそうになった。


「そう、君たちの感じているその感情はとても人間として正しい」

 神様は人差し指を天に向けて差し、そう言った。


「この世は理不尽なものだ。不条理でもあり、一貫して不平等だよ。そういう風に創世した僕が言うんだから間違いない」

「そもそもヒトは優劣の中でしか生きれない生き物だからね。これはヒトに限らず一定の知能を持った生物全てに言えるけど」

「資本主義だって突き詰めれば優劣を表す一つの指標だね。カネという目に見えるもので推し量るのはある意味で言えば正しい」


「ヒトは相対的にしか自己を表現出来ない生き物なんだよ。正しく一人では生きていけないってやつだね」

「ちなみに、ヒトは僕を敬い幸福を願うけど、あんなの一ミリも意味ないからね?」

「そもそもだけど、僕にとってヒトの幸不幸なんてものに興味が全くもって無いし、ヒトは神に幸せを祈る為に祀っているわけではないからね。神を通して自分を客観的に見ようとしているだけだもん」


「死にたいなら死ね。生きたいなら生きろ。数十億人がどんな生活を、そして万物がどんな一生を送ったところで僕には全く意味がないからね」

「むかーしむかしだけど、僕も実験した事は何度もあったんだよ?全ての生き物を綺麗に横並びにした状態で楽園に放り込んだ事が」


「何回実験しただろうなぁ…?数えきれないくらいに何度実験しても結果が一緒だったんだよね」

「結果はね、全ての生き物が毎回餓死するの」

「言葉の通り楽園だからまず飢えの心配がない。そして生物としての危機が無いわけで、そうしたら生存本能が極端に弱まるらしくてね?最終的には全ての生き物が死んじゃうんだよね。餓死で」

「その頃は僕もまだまだ未熟だったからさ、楽園で最後まで残ったやつになんで食べないのか?目の前にある食べ物に手を付けないのか?って聞いた事があるんだよ」

「そしたらなんて言ったと思う?【意味がないから】だってさ」

「アハハハ。あれを聞いた時はたぶん存在してから一番笑ったかもしれないね」

「確かに言われてみればその通りで。彼・彼女らにとっては何ら意味がなかったんだよね」


「あれからかなぁ…。すべてに興味が失せたのは」


 神様はそこまで一気に言い切った。

 理解できること、理解できないこと、の両方があったが、神様の言わんとしている事はなんとなく分かった。



「で、たまにこうやって珍しい魂がいた時だけ遊んでるかな」


「はぁ…、なんとなく神様の言いたいことは分かりましたが、それで俺たちは何をすればいいんでしょうか?」

 俺の質問にどこからともなく空間が割れ、そこには一筋の剣が現れた。

 ちょうど一メートルほどはあろうかという抜き身のその剣はオーラのようなものを纏っていて、剣を間近で見たことがない俺でも非凡なものだとわかった。

 ……あれ絶対に神器とかの類だろ。


突如、神様はその剣を両手で掴むと高々と空?天井?に向かって掲げて叫んだ。


「白い空間からの神様降臨とくれば、それはもう異世界転生しかないでしょうーがぁ!!」

 ピカッ!と空?天井?が光ると、ズドーン!と大きい音をさせながら雷が剣に落ちた。



 いやまぁ、最初からそうだとは思ってましたけどね。

 真っ白ののっぺらぼうのまま剣を掲げてるのが……ちょっとね。威厳がね。

 いや神様、ちっさい声で「忘れてた」とか言わないで。

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