プロフェッサー怪奇学のB級オカルト『怪』体新書 ~ぬっぺふほふの嬰児 11年周期の奇祭~
雪車町地蔵@カクヨムコン9特別賞受賞
第一章 祭りと巫女とプロフェッサー怪奇学
第一話 ようこそ怪奇学教室へ
「この
長崎の中心地にそびえる、
怪奇学教室と揶揄されるその一室に、ぼくの声が響き渡った。
「それ即ち、怪異の実在を証明することだ……!」
カンカン帽に丸い黒眼鏡。
上背を覆う白いジャケットに身を包んだぼくは、顔のない赤ん坊の
しかし、聴衆から返ってきたのは呆れたようなため息だった。
「先生。そんなことはどうでもいいので、私の論文を読んでください」
卒論の草稿を持ち込んできた、ぼくの数少ない教え子。
よく日に焼けた肌に、短めの髪。
アンダーリム眼鏡の下の、理知的な
異国情緒溢れる秀麗な顔立ち。
ショートパンツから伸びる太股はカモシカのごとく優美であり、オーバー・ザ・ハイソックスがむっちりと食い込んでいる。
夏が近いこともあって上着は薄く、その豊満な胸を隠す役目を果たしてはいない。
「そんなことって言い様はないだろう、萌花くん。これはぼくの出生にまつわる話で、そして人生を賭けるに値する大事業なんだ。噛み砕いた言い方をすればね、キミ。これがぼくの
「だから学会で長老級のお歴々になめた口を利いて、結果つまはじきにされるんじゃあないですか。なーにが妖怪は実在するです。エビデンスのない論文なんてゴミ以下ですよ」
「ぐ、ぐぬぬ……」
誰の受け売りか知らないが──どうせ
ゼミに入ったばかりのころは可愛げのあった彼女も、いまではすっかり歯に衣着せなくなった。それでも丁寧さが消えないのは、恐らく一種の美徳だろう。
萌花くんは大きく息を吐くと、真っ直ぐにこちらを見つめて言った。
「先生。
「面と向かって言われると弱いが……しかし萌花くん。こうやってオカルティックな
「いいから黙って私の卒論を読め」
憧れという言葉から最も縁遠そうな一喝を受けて、ぼくは渋々ながら机上の書類へと視線を落とした。
あー、えー、なになに?
『
なるほど、じつに怪奇的だ。
「ところで萌花くん」
「はい、なんでしょうかプロフェッサー
……我が教え子は、わざわざ居心地の悪い呼び名を使った。
三十代で教授へ躍進。
学会では誰彼構わずに噛みついて、自分ですら奇っ怪としか言い様のないアレゲな発言によって妖怪の実在を熱弁。
そのくせ結果だけは出してきたぼくは、たいへんなやっかみを受けている。
これはとにかくソフトな言い方で、もしハードな言い様をするのなら、それは直接的で不名誉な綽名として結実するのであった。
曰く、この世の怪異を肯定する男。
曰く、妖怪教授。
即ち──
──プロフェッサー怪奇学と。
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