バレンタインチョコと試験日の妹

 あっという間に2月も入り世間はバレンタインシーズンになっていた。 

 そんな中、明後日。14日が受験という大事な日に梓は玲のアパートに泊まっていていた。

 今日が土曜の休日ということで昼ご飯をご馳走してくれる代わりに勉強を梓に教えていた。

「ん……? これどうやるのお兄ちゃん」

「ここの数式はこうやってこう」

「うぅ? この公式が感じだから、Xが……あーーもう分からないよ!」

 梓が頭を抱え込み床に倒れ込んでしまった。

「うぅ……ダメかもしれない」

「大丈夫だよしっかりと応用しきれてるから」

「……あぁ」

 頬から涙目になっていた。

 この調子だとパニックになりすぎて不安だ。が気持ちはわかる……。

 自分が選んだ志望校がもしもダメかもしれない時期があったから。

「休憩にするか?」

「うん……」

 梓は涙目になりながら頷いていた。

「よいしょ……」

 キッチンの方に立ち上がり麦茶を用意した。

「ありがとね海斗。梓の勉強みてくれて」

「構わないよ。俺も梓には受かって欲しいからな」

「……ありがとね。本当に」

 そう言って玲は微笑んでいた。

「ところで昼飯はなに作っているんだ?」

「ん? ナポリタンだよ」

 料理している所をみるとケチャップで真っ赤になったパスタがフライパンの上で踊っていた。

「よいしょっと……。もうすぐ出来るから机の上にある勉強道具をしまって貰える?」

「了解」

 テーブルに向かう途中で俺は皿を三枚取り出し玲の近くのところに置いておいた。

「皿、ここにあるから気を付けて」

「ありがとう」

 麦茶を注いだコップを二つ持ってテーブルのところに向い梓に呼びかけた。

「昼ごはんが出来るから勉強は一旦片付けて」

「うい、早く昼食べよう……」

 梓は起き上がり勉強道具を自分の脇に置き手伝いをして席に座った。

「「「いただきます」」」

  三人して手を合わせて食べだす。

「うん、うん。流石お姉ちゃんだね」

 梓が頷いでいた。

 どれどれ……海斗も一口頬張る。

 トマトケチャップの酸味、そしてウィンナーの少しついた焦げ目で塩味が他の具材を引き立てている。

「うん。ホントに美味しいよ」

「良かった」

 玲は微笑んでいた。

 あっという間に食べ終わり俺と梓は床に寝っ転がる。

「食べた……。梓、この後の勉強進めるか?」

「あーこの後は用事っていうかやりたいことがあって。ねぇ、お姉ちゃん」

「やりたいこと?」

 玲の方を向いているとなぜか顔が真っ赤になっていて両手を合わせて謝ってきた。

「ごめん海斗。明日は料理作れない」

 まあこうして受験生がいるわけだし。俺が居たら遊んじゃうとかそんなところかな。

「構わないよ」

「ありがとね海斗。梓の勉強はしっかり見るから」

「え!?」

 なぜか梓が驚いていた。

「ねい様。勉強もするんですか……」

「前日だからそこはしっかりとやらないと」

「うえぇぇ……バレンタインだから少し甘くってもいいじゃん」

「だーめ。糖分も補給出来るから大丈夫」

 バレンタインか、なるほど。姉妹揃って作りたいって訳だな……。

「了解。じゃあ俺は帰るから」

 立ち上がって玲と梓に手を振り自分のアパートに帰った。


 月曜日バレンタイン当日。いつも玲が待つ場所に向かうと梓と並んでいた。

「あ、お兄ちゃん。こっちこっち」

 俺の手を握ると玲のところまで引っ張ってきた。

 玲の顔を見ると顔が真っ赤になっていて、梓はなにか容器に入っている袋を手渡してきた。

「はいチョコだよ」

「おお、ありがとう」

 渡し終えた梓が玲にひじで突っついていた。

「ほらお姉ちゃんも」

「ちょっ! 梓、渡すから少し待って!」

 玲は深呼吸していていた。

「スゥー……。ハァ……」

 玲の深呼吸でこっちも緊張してきて顔が赤くなっている。 

 そして梓とは違った形でハートでラッピングしていた箱を渡してきた。

「こ、これを受け取って欲しいの!」

「え……はい」

 玲から受け取ると重い。

「これって本命だよね。いつもは小さい袋で渡すけど」

 毎年バレンタインになると玲は手作りで小さいのを渡して義理チョコな感じを出していた。

「うん……。そのこうゆうの手作りで作っていたけどいつも。あ! でも毎年、本命だよハートの形をしたチョコ。海斗にしか渡してないから!」

「え、そうなの?」

 毎回ハートのが多かったが。そっか……本命チョコを貰ってたんだな……。

 そう思えてくると頬が緩んでしまう。

「それでね梓が少女漫画だったらハート型のチョコを渡した方が喜ぶよって言われたから……」

「あ、ありがとう……」

 ナイスだ梓。

 俺のテレパシーが伝わったのか梓はうんうんと頷いている。

 梓が先頭に歩いて行った。

「ほらは早く!」

 梓がこっちに振り返り手を振っていた。

「じゃあ、行きますか玲お嬢」

「そうね海斗王子」

 二人して梓の背中を見ながら歩いてく。

 玲がコソコソと話してきた。

「まあ勉強の方しっかり出来てたから試験の方は大丈夫だと思うよ」

「そうだな」

 まあ、今はそんなに慌ててないから大丈夫かな……。

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