新年のおしるこからの報告

 海斗がふと目を覚ますといい匂いがしてきた。

「……なんか甘いな」

 台所でなにか煮込んでいた玲がこっちの方を向いた。

「あ、海斗。あけおめ」

「……あぁ。あけおめ玲」

 寝ぼけていたからすっかり新年越してたの忘れていた。

「今から料理出すからちょっと待ってて」

「了解……」

 まだ眠気があり顔を洗おうと脱衣所に向かう途中に鍋の中に黒い汁と小さい粒が見えた。

「なに煮込んでるんだ?」

「ん、おしるこ。海斗好きでしょ?」

「おぉ好き!」

 粒あんとこしあんと言われても両方好きと言うほどあんこは好きだ。

「そういえば玲って粒あんとこしあんどっちが好きなんだっけ?」

「んーー? どちらかと言うと、こしあんかな」

 以外だ。あまりあんこの話しとかしてなかったから新鮮だ。

「それにしても良く知ってたな。おしるこ好きなの」

「何となくだけど。正月の時家でおしるこを食べたとき喜んでいたからそうかなって」 

「あーー……」

 そういえば玲の家っていつもお正月の時おしるこだったな。俺の家だとすぐに辛み大根と絡ませて食べるが。

「おしるこ美味いんだよな」

「それはよかよか。じゃあもうすぐ出来るから」

「了解」

 顔を洗うと食卓におしるこの他にも紅白かまぼことだし巻き。きんぴらごぼうと黒豆が並んでいた。

「少なくてごめんね」

「いやいや。凄いよこんなに作れたんだな」

「まあね。一人で料理作ってたから。それで食べてみて?」

 席に座り手を合わせた。

「いただきます」

 どれから食べよう……。

 きんぴらごぼうを一掴みして食べると人参とごぼうがシャキシャキと言い噛み応え。

「うん美味い」

 それとさっきから気になっていたおしるこ食べてみようっと。

 本当に匂いを嗅いだだけで香りがする。

「どれ……」

 この甘い汁と餅の熱々でもちもちが美味い……。

「あー。なんだろうほっこりする」

 玲がガッツポーズをしていた。

「やった!」

 すると玲の方から電話が鳴り出した。

「誰だろう……。あ、お母さんだ」

 玲は電話を出る。

「もしもしお母さん? 今? 海斗のアパートだよ。……うん。まあ、付き合っています」

 玲が微笑んでいて付き合ってると言われると緊張してしまう。

「え、今から? いや、お母さんそれは急じゃない。電車もそんなにないし。……いや来なくていいよ! あ、ちょっと……」

 スマホを床に置いてため息を吐いていた。

「どうした?」

「ん? お母さんが3日後に迎えに来るって海斗も連れて」

「え、俺も?」

 なんでだ?

「うん。海斗と付き合ったからそのお祝いにお寿司を頼むって言ってた。全くお母さん達たら……」

「まあまあ……」

 すると海斗の方から電話が鳴り出し表示を見てみるとお袋からだった。

「もしもし?」

『海斗? 聞いたわよ。玲ちゃんと付き合っているんだってね!』

 いきなりハイテンションで話しかけられ耳の奥がガンガンとなり響く。

 それにしても情報が早すぎるって……。ウチの親もこう祝い事とか好きなんだよな。

「そうだよ……」

『玲ちゃんに面倒ばかりかけているんじゃないよ?』

「わかっているよ」

『じゃあ。実家いえの方で待っているから。プチッ』

 言うことだけ言って電話を切っていた。

 玲が首を傾げていた。

「さっきの電話おばさん?」

「あぁ……なんか物凄い速さで付き合ってるの分かってた」

「それは……凄いね」

「あぁ……」

 これが主婦の伝達網か……恐ろしい。

 背中が凍りそうでおしるこを何杯もおかわりして心を温めていた。

 

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