2 幽霊少女
幽霊少女
……だめ。絶対に、泣いちゃ、……だめ。
空から地上にダイブする。
今、私は大空を飛ぶ。
……あなたに、もう一度、出会うために。
夢の始まり(あるいは、夢の終わり)
その水色のバスはとても不思議なバスだった。
白い翼の絵が描かれている綺麗なバス。
白い雲の上に止まっている、不思議なバスだ。
気がつくと、中学一年生の深田空は、一人ぽつんと水色のベンチの上に座っていた。
青色の空の中にある、白い雲の上にあるベンチの上に学校の白いワイシャツと紺色の制服姿で座っていて、そこで『バスを待っていた』。(そんなつもりは空にはまったくなかったのだけど、そこはどうやらバス停のようだった。真っ白なバス停の看板がベンチの横にあったので、それが空にはわかった)
それがぼんやりとしながら、ここはどこだろう? とか、そうか。これは私の見ている夢だな、とか考えていると、やがて遠くから空の中を走るようにして、一台のバスがやってきた。
さっきからずっと、空の前でドアを開けて、停車し続けている水色の綺麗な(洗車したてのように、あるいは雨上がりのときのように、ぴかぴかで綺麗だった)バスだった。
空はそのバスに乗るつもりはなかった。……お金もないし。(一応、確認したけど、財布もスマートフォンも、時計も、生徒手帳も、なにも夏夜は持っていなかった。カバンもない。空は手ぶらだった)
……でも水色のバスはその場所に留まり続けていた。(まるで空のために止まってくれているようだった)
……水色のバスの中は、ここからは、よく見えない。でもほかにお客さんが乗っていたら、そのお客さんたちに、ずっとこの場所で、バスを待たせてしまうことになって、迷惑になってしまう。
空は少し考えてから、水色のベンチの上から立ち上がって、水色のバスの中に移動をした。
そして運転手さんに「あの、もしかして私がいるから、ずっとこのバスは止まっているんですか? もしそうなら、私はバスには乗らないので、もう出発してしまってもかないませんよ」と言おうと思ってバスに乗ったのだ。
でも、空がバスの中に「……あのー、すみません」と遠慮がちに言いながら乗ると、急に、いきなり勝手に後ろで水色のバスのドアはしまってしまった。
「え? あ、あれ?」と空が慌てたときにはもう遅かった。
白い翼の絵の描かれている水色のバスは再び、青色の空の中を走り始めた。(まるでエンジン音のような音がしない、とても静かな不思議なバスだった)
空は呆然としていた。
お金もないのに……、誰にも連絡できないのに……、目的地も知らないのに……。
……どうしよう? そう思ったけど、それから少しして、まあこれは夢なのだから、いいか、と思い直して、そのまま(いつものように暴れたり、騒いだりしないで、大人しく)水色のバスに乗ってみることにした。
バスの運転席には敷居のようなものがあって、運転手さんの姿を見ることはできなかった。
お金を入れる装置のようなものもなかった。
バスの中を見渡してみると、お客さんは空以外、誰も乗っていなかった。バスは無人だった。(貸切の状態だった)ずっとバスが発車しなかったのは、やっぱり私がこのバスに乗るのを待っていたのかもしれない、とそんなことをバスの前のほうのにある綺麗なふかふかの白色の椅子に座りながら、空は思った。(すっごく気持ちのいい椅子だった。まるで雲のうえに座っているみたいに)
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