そんな風にして、空がゆっくりと椅子の上でくつろぎながら、バスの窓際の席に座って、窓の外に広がっている一面の青色の空の風景を見ていると(まるでバスではなくて、飛行機にでも乗っているかのようだと思った。まあ、私は飛行機に本当に乗ったことはまだ一度もないのだけど……)空はなんだか、だんだんと自分が本当に目的のない旅をしているような気分になって、すごく楽しくなってきた。


 ……なんだ。最初は驚いたけど、結構いい夢じゃん。そう思って空はにっこりと笑った。(そんな自分のにっこりと笑った笑顔が窓に写っていて、その笑顔を見て、あ、っと思って空はちょっとだけびっくりした)


「さて、このバスはどこに向かっているんだろう?」


 と、気を取り直して、ふふっと笑いながら、小さく(まるで本当の幼い子供のように)足をぶんぶんと椅子のしたで小さく動かしながら、きょろきょろと周囲の様子を観察するようにして空は言った。

 水色のバスは、全面が青色に塗られているとても珍しい内装をしたバスで、真っ白な花の絵がところどころに描かれているところがあって、外側と同じく内側もやっぱりとても綺麗に(ほこり一つ、落ちていなかった)掃除がされていて、冷房もきいていて、とても涼しくて快適だった。(なんだか、気持ちよすぎて、思わず眠ってしまいそうになった。……ここはもう、私の夢の中なのに)


 こんなに涼しいと、今が夏だということを忘れてしまいそうになる。


 ……今は七月。

 これから八月を迎える、夏の真っ盛りの時期だった。……とても、暑い季節だ。


 そんなことを考えながら、空はふと、なんとなく、家族みんなで去年のお盆に行ったお墓参りの風景の記憶を思い出していた。みーん、みーんと蝉がとてもうるさくて、青色が綺麗すぎて、白い入道雲が大きくて、緑色の木々が本当に鮮やかで帰りに突然の強い通り雨に降られて、お父さんとお母さんが一緒にいて、……なんだか、今思うと(当時は面倒臭いな、と思ったりしたけど)ちょっとだけ、楽しかったな。


 ……なんだか、去年の出来事なのに、すごく懐かしいな。


 そんなことを思って、空はまた、一人で、小さく笑った。(……今は私一人だから、こうして素直に笑えるのかな? とそれから思ったりした)


 すると、そんな空の目にふと、ある『二つの文字』が飛び込んできた。


 それは運転席の後ろ側にある敷居の上についていて、それはどうやら真っ白な小さな長方形の形をした看板のようで、それはこの水色のバスの次の目的地を示しているようだった。(目的地、と言う文字も小さな看板の上にあった)


 今まで全然気がつかなかったのだけど、(やっぱり、知らない場所にいて、ちょっとだけ私は緊張していたのかもしれない)そこにはちゃんと、この『水色のバスの次の目的地』が書いていった。


 そこにはこういう二文字が書かれていた。


『天国』。


 ……天国?


 その文字を見て、空は少しだけ首をひねった。


 えっと、このバスは天国行きのバスってこと? ……あれ? でも、……これは私の見ている夢で……、えっと、……あれ?


 空は考える。 

 そしてそれから少しして、はっとした空は、『ようやくすべて思い出すこと』ができた。

 自分が今、どこにいて、どんな状況にいるのか? (そしてこれから自分がなにをすべきなのか)


 それをちゃんと思い出すことができたのだ。


 ……そっか。私、死んじゃったんだっけ。


 幽霊になった深田空は、水色のバスの中で、そんなことを思い出した。


 それからすぐに、はっとして、……あ、これはやばい。このままだと私は本当に天国に行っちゃう。と思った空はすぐに(本当に飛び出すようにして、とても俊敏な動きで)行動を開始した。


 自分が幽霊である、ということを思い出した空がとった最初の行動。


 それはもちろん、『この天国行きのバスから、なんとしても降りる』ことだった。……せっかくの天国行きのバスから降りるなんて、もしかしたら、とても罰当たりな行動なのかもしれないけれど、……でも私は、『まだ生きていたいのだ』。(空は本当にそう思った)『心残りがまだあるのだ』。私はまだ十三歳だ。たった十三年しか生きていないのだ。そして私は、まだ生まれてからなにもしていないのだ、と、そんな強い『自分の命』に対する強烈な思いが、まるで飛び出すようにして、椅子から立ち上がってバスの中を走り出した、空の行動する『力の源』になっていた。


「すみません!! 私! やっぱり、このバスからおります!!」


 運転席の後ろにある敷居のところで、どんどん! とその敷居の壁を叩きながら、大声でそんなことを空は言った。

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