空の理

雨世界

1 ……私はきっと、からっぽなのだ。

 空の理


 プロローグ

 

 ……私はきっと、からっぽなのだ。


 本編


 空はやっぱり、からっぽだった。


 深田空


 私は夢を見ていた。

 とても大きな青色の大空を飛んでいる夢だ。

 それはとても不思議な夢だった。


 とても不思議な、とても気持ちのいい夢だったけど、私はその夢の中で、なんだか不思議な感情をその胸の中に抱いていた。


 ……私は誰かを探している? この広い空の中に。


 そんな不思議な感情が私の中にはあった。


 誰だろう? 私が探しているのは誰なんだろう?


 そう自問自答しても返事はない。広大な司会一面に広がる白い雲の浮かんでいる青色の中には誰もいない。空はいつものようにからっぽだった。(なにもないから空なのだ。私と一緒だ)


 空にはとても強い風が吹いていた。


 私の体はその風に吹き飛ばされそうになった。


 私がその強い風の中でなんとか体を踏ん張って、その壁に空の中で耐えていると、視界の先になった真っ白な雲の大地が裂けるようにして、割れて、そこにまた視界いっぱいの青色があらわれた。


 その新しい青色の空の中に……誰かがいた。


 それは小さな点だった。


 でも、その点はよく見ると確かに人の形をしていた。


 ……あれはいったい誰だろう?


 私は空の中を泳ぐようにして移動をする。(するとちゃんと前に進むことができた)


 そうやって私が青色の空の中を泳いでいくと、ようやくその人の形がしっかりと、すごく鮮明な印象を伴って正確に見えてくるようになった。


 その人は中学生だった。


 年頃も私と同じくらいに見えたし、それにその人は中学校の制服をきていたから、そのことが私にはわかった。(よく見ると私もいつもの紺色の中学校の制服姿だった。水色のリボンがとても素敵だった)


 男の人じゃない。

 私と同じ女の人だった。


 その人はまるで眠っているように目を閉じて、そのまま、空の中をゆっくりとした速度で落下し続けいていた。


 ……眠ってるのかな?


 この人は今、どんな夢を見ているのだろう? とそんなことを私は思った。


 私はその女子生徒のすぐ近くまでやってきた。


 すると、その女子生徒はやっぱり眠っているようだとわかった。長い黒髪をした、すごく清楚で綺麗な子だった。私とは大違いだ。(着ている上品な中学校の制服も、真っ白で清楚なデザインの制服で、どこかの私立のお嬢様学校の制服のようだった)


 私は、その眠っている少女を起こそうかどうか、とても迷った。


 起こしたほうがいいのかもしれないし、このまま起こさないままでいたほうがいいのかもしれないとも思った。(だって、とても気持ち良さそうな顔をして、その少女は眠っていたから。それから、……うーん、と難しい顔をして私は悩んだのだけど、結局、その答えは出ないままだった)


 やがて、青色の空の中に緑色の風景が見えるようになってきた。


 ……大地だ。


 空は大地を見る。


 そこには空がふだん暮らしている場所である、緑色の大地が広がっていた。そしてその緑色の中には、私の暮らしている街の風景もあった。


「ねえ、起きて。このままだとあなたは、大地の上に落っこちちゃうよ?」


 仕方なく、私は眠っている少女の体を揺すって起こすことにした。


 すると私が声をかけてから、少しして、少女に反応があった。


「……うん」と少女は言った。


 そして、少女はゆっくりと、私の見ている青色の夢の中で目を覚ました。


 次の瞬間、空の中にいたのは、『さっきまで眠っていた少女、一人だけだった』。


 少女は青色の空の中で目を覚ました。


 そして、少女はまだ眠たい目をこすりながら、自分がいる環境を確かめると、じっと、自分の上に広がる青色の空を見て、それから今度は自分の下に広がる広大な緑色の大地の上に目を向けた。


「……おはよう」と少女は言った。


 少女は加速して、空の中を落下する。


 そして少女は、そのままその大地の上にある街の中の片隅にある、一見の家の屋根の上に落下した。


 その家の二階にあるベットで眠っていた少女は、……それから少しして目を覚ました。


 少女はその目に涙を浮かべていた。

 少女は眠りながら泣いていたのだ。


 ……どうやら私は、今日、すごく悲しい夢を見ていたみたいだ。とそんなことを自分の頬にある涙の跡を指先でなぞりながら、現実の中で、目を覚ました孤独な十三歳の少女は思った。


 空には空の理(ルール)がある。

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