Military Academy(7)
それから依頼の文章を頭の中で再構築し読み返す。
敵は低級能力者十一人だったはずだ。普通の考えでは、到達できないが、かなり解釈を曲げれば、低級能力者が十一人という風にとることもできる。
今までの七人はすべてノーマルだ。
それを考えるとおぞましい状況であることは明らかだ。
まだ能力者は十一人、それに加えて無能力者(エクステリア)がそれ以上いるとするならば、外にいる味方を総動員しても厳しい状況だ。
まったく、ニルの奴、やばい任務を押し付けてくれてものだ。
了承した俺も俺だが……。
「師匠、どうやら敵は十一人の能力者と複数の無能力者(エクステリア)のようです」
「やっぱりか~、僕も相手が武器ばっかり使ってくるからおかしいと思ったんだよね~」
さて、俺がここで取る行動はこれだ。
たかがCランクのミッションでそんな武装をしているとは思っていなかった。
さすがにこのメンバーじゃ、相手の強さもわからない以上、それに立ち向かうには無謀すぎる。
そう思った俺は彼らから離れ、すぐさまあるところに電話をかける。
『LEGEND月宮高等学校生徒会課外活動支援部です』
「一年国際科の小宇坂だ。ミッションの確認をしたい」
『どのミッションですか?』
「作戦コード4B-0887EAの確認を頼む」
『少々お待ちください』
『お待たせいたしました。この依頼について何かありましたか?』
「作戦中、想定外なことが多数発生している」
『状況を詳しくお願いします』
「敵の数が報告の倍以上、それに重武装しているようだ。今回はCランクレベルだったはずだが?」
『依頼担当のものに代わりますので少々お待ちください』
それから約十秒経つ。
『担当の長谷川です。要件は先ほどの者から伺いました』
「それでどうなんだ?」
『すみません。こちらの調査不足でした。伺った通りの状況であるならば依頼ランクに不相応となり依頼として不成立になるので撤退してくださいと言いたいところですが…』
「簡潔に言ってくれ」
『小宇坂さんならご存知かと思いますが、その場所でもう一つ任務があるのでそれが開始されるまで時間稼ぎをお願いします』
「時間稼ぎは良いが、その分の報酬は貰うぞ」
『元はこちらの不手際によるものなので現在遂行している任務報酬の二倍でどうでしょう?』
「二倍か……まあいいだろう。今後はこのようなことが起きないようにしろよ」
『了解いたしました。それではご武運を』
本当は大量に金が入る良い仕事になりそうだったが、二倍なら良いだろう。
しかし、時間稼ぎといってもそんな簡単な話ではないだろう。
そう思うのにはいくつか理由がある。
まず、いま集まった人数だ。
あまりにも少ない上に、ざっと見ただけだが、あの中で十分な戦力になるのは師匠と俺を含めても四人、それと狙撃手だが、こっちの狙撃に気づけばアサルトライフルやライトマシンガンでやられる可能性が高い。
距離は極めて近いため仕方ないことだ。
次に、中の連中の戦闘経験は浅いものの、頭が大分イカれてるからだ。
RPGを室内で打ちまくろうとする奴を俺は見たことがなかった。
下手をしなくても壁と天井と床は吹き飛ぶことは避けられない。
それに狭いのだから自分も爆死する可能性がありながらも撃って来ようとしている。
普通ではありえないようなキチガイ集団に違いない。
自爆特攻みたいな奴を何人も相手してたら体が何個あっても足りない。
それに加えて、まだ遭遇していないが能力者もいるとすれば、これもまた厄介なことになる。
よって現戦力では時間稼ぎをすることでさえ容易な話ではない。
「ということですので、ここから俺たちは時間稼ぎに徹したいと思います」
「う~ん、中々難しい話になっちゃったね。まあでもやるしかないね」
味方を二人、下から増員して倒れている六人を拘束して屋上で待機していてもらうことにした。
俺はインカムで狙撃手につなげる。
「四階の情報を教えてくれ」
『階段前にバリケードを展開しています、数は見えているだけで四人です。武装は軽機関銃とRPG-7です』
「そっちで二人のRPG持ちを同時に狙撃できるか?」
『やってみます』
「狙撃直後にすぐに撤退してくれ、絶対だぞ、わかったか?」
『え、ええ』
「俺たちは狙撃直後に侵入する」
これで大丈夫だろう。向こうの面倒までは流石に見切れない。
師匠はさっきの会話を聞いていたようで静かに頷いて、階段を静かに降り、踊り場の手前で静かに待機している。
俺は階段の前でも音で狙撃がわかるが、目視するため窓際に近づく。
それから数分後に銃声と金属が擦れる音が聞こえ、狙撃銃BLASER R93の銃口からの煙を確認する。
BLASER R93はH&Kが開発した競技用の狙撃銃だが、それを戦闘向けに改造したものだ。グリップが持ちやすく、ボルトアクションがストレート方式になっているが特徴的な狙撃銃だ。
銃声から数秒、まだ狙撃手の二人は後退しない。
銃声を確認し師匠が今下に降りたようだ。
あれだけ念を押したのに呑気に命中を確認しているように見える。
すぐに窓に駆け寄り顔出し下を見る。
丁度四階の右端の窓からRPGの先端が出てきたところだ。
――――だからあれだけ言ったのに!!
全力で走って、右の窓から飛び降りる。これで本日二度目だ。
窓の上枠に掴まり、そいつの顔面を蹴り上げたと同時にRPGは発射された。
さっきの蹴りで方向が少し上を向いたため、狙撃手のすぐ上を飛んで行くのが見える。
「間一髪だ」
そのまま四階に降り立つが五階よりも圧迫感がある。階段より奥が壁で仕切られており、五階の半分しかスペースがないからだ。
狙撃手が俺に言っていた四人の内の二人を師匠が始末し、俺が右壁付近に隠れており狙撃手からは見えていなかった男を一人、狙撃手が二人、これで十一人だが、左壁際、つまり逆サイドに二人、RPGを担いでいる奴がいる。
俺はそれに構わず突っ込む。
師匠は階段に逃げ込む。
RPGを持った男は二人同時に俺と師匠へ向けて一発ずつ放つ。
射線を予め予測していたので、それを容易に躱し、走るスピードは緩めない。
後ろで爆発音と共に壁が崩れて、隣の建物の非常階段が見える。
階段は崩れ、昇り降りできない状態になってしまったが、師匠も射線を予測していたのだろう。上に昇っていたため、無事だ。
次弾を装填して構えるには十分な距離がある。
やっと距離は半分詰まり、ビルの窓の丁度中間くらいまで来たが、コンマ数秒だけアイアンサイトで狙い次弾が発射される。
二発目をスライディングで躱し、弾頭は後ろの窓を抜けて、斜め向かいのビルを破壊した。
そのまま右足を上に上げて蹴り倒し、そこから左足でもう片方の男の頭を真横から踵で回し蹴りし、気絶させた。
予定外に二人やってしまったが、まあ良いだろう。
周囲に気配はない。
壁で仕切られた向こう側が気になるところだが、向こう側に通じる扉も道もなく、破壊しようにもコンクリートである以上難しい。
ここは四階、俺の予測ではここが本体だと思っていたのだが、壁の向こうで音は聞こえない。
階段を壊されたためこの階から正規の手段で移動できない。
今俺ができることは四つだ。
一つ、さっきと同じ方法で三階に侵入すること。
一つ、さっき壁が壊れたことで見えている非常階段に飛び移ること。
一つ、まだ使えるRPGで床を破壊し、下層に侵入する。
一つ、上記と同じ方法で横の壁を破壊する。
四分の三が作戦続行ということになるが、これよりも下は一人になるため、厳しい戦闘になるのは明らかだ。
それに加えて五階から三階へは窓の近くしか狙撃ができない。
外部からのバックアップはない。
四階を二分する壁を壊すのが最良だ。
右壁側に置いてある弾薬入れから替えの炸裂弾を付ける。
一番窓側に寄ってトリガーを引いた。
轟音と共に炸裂音がする。
煙が晴れるまでに時間がかかったが命中地点の壁に接近する。
しかし、ある異変に気付く。
「穴が開いてないだと!?」
壁は無傷のまま何事もなかったかのようにそこにはあった。触れて見るが確実にある。そう、傷一つない、熱による変色もなにもないのだ。
「どうなっている?」
考えられる可能性は三つ、
一つ、壁に結界系の能力が作用している。
一つ、壁自体が変化系の能力による幻覚、錯覚である。
一つ、壁に過超粒子(プラス ハイパーティクル)が含有されおり、壁が再生している。
どちらにせよ、超能力が作用していることは明らかだ。
ここで出てきた過超粒子とは超能力を生み出す元となる粒子である。ここで勘の良い人ならば気づいたかもしれないが、過超粒子は二対の粒子であり、対となる亜超粒子が存在する。粒子特性についてはここで詳しくは触れない……というか、この辺の学問に精通していないので詳しくは説明ができないが、基礎的なことだけは説明しておく。
現在、こちら側の世界で一般的に知られていることで超能力についてもっともらしい説明を付けるならば、超能力はさきほどの二つの粒子によって発生する現象である。ただ、全ての能力は五つのパラメーターつまり固有値を持っており、それらの値の大きさによって能力が決まる。図的に説明するならば、五角形のグラフを想像してもらいたい。五角形の頂点がそれぞれパラメーターの値であるとすると、それらをベクトルの換算しそれら五つのベクトルの合成ベクトルの向きによって能力が決定する。さらにベクトルの長さがそのまま能力の強度として表される。
ただここから少し難しいのはその能力が二つの粒子のどちらの影響を強く受けているのかを表す指標が存在し、さっきの五角形の中心から上下方向のベクトルを追加した計七つの固有値から作られる三次元ベクトルのよって能力は厳密に分類されている。
残念ながら俺は超能力を発動できない。つまりどのパラメーターもゼロなのだろう。
しかしながら、俺はエクステリア、つまり能力の発展途上という段階までは進むことはできている。
戦闘中に『射線』という言葉が多用されていたのは見ての通りだが、俺には一般人以上、超能力者未満には、高速接近物体の通過射線を予測することができる。
超能力者と未満との差は、固有の能力を持っているか否かということなのだ。つまり、俺がしている射線予測能力は超能力者も持っている。
補足として固有の能力と言ったが、一人に一つ、つまりオンリーワンであることは間違いないのだが、その能力が主に百個に分類されているため、ほぼ類似している能力は多く存在している。
どの能力かを見抜くことは難しい。
力押しでも無理だろう。ここにある武器の中で最も威力の高い武器が通用しなかったのだから。
ならどうする?
俺は自然とベルトの双剣に手が伸びるが、すぐに止めてしまう。
炸裂弾で効かなかったものに、ソードが通用するはずがない。
しかし、向こうへ行く方法は存在するはずだ、開かずの部屋でない限りは。
次に出した結論は三階への強行突入だ。
ここからは本当にバックアップもないが、俺の好奇心がそれら全ての事情を上回ったのだ。
倒れている男からハンドガンマカロフPMと9mmマカロフ弾の替え弾倉を奪い、ベルトの後ろの空いているストックホルダーに差していく。
さらにさっきも開いた弾薬箱から最後の弾頭をRPG本体にセットし、階段の瓦礫に向けて発射した。
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