Military Academy(8)
反動と同時に瓦礫はさらに細かい瓦礫となってバラバラに吹き飛び、階段があった場所には大きな風穴が開いている。
階段の奥側の壁と側面だけは何かに守られるようにきっちりと直線的に四階を区切るように無傷の壁が出現する。
やはり結界系か?という考察は一瞬のうちに中断し、すぐさま、晴れた煙から出現する穴に目が行く。
射線はない。その穴からは敵は見えず、確認できるのは、さっきまでそこにあった瓦礫が落下したものとその下に見える階段だけだ。
だが、すぐに状況は変化する。
俺は直感的に下からの射線を捉えた。
場所は丁度今立っている真下だ。
ジャンプで躱した直後に大きな音を立てて床が崩れ落ちる。
それは連鎖的に四階の半フロアに亀裂を走らせ、やがて俺の居場所はなくなり、崩れる床と一緒に、三階へ着地する。
今度は仕切りがなく開けており、五階と作りは同じのようだ。
降り立った場所はビルの正面から見て右の角に近い場所でビルの左に髪を茶色に染めた不良らしき学生が二人、さらにビルの右奥に中年くらいの男が二人とガタイの良い男が三人、そのうちガタイの良い三人は柱を盾にマカロフPMを構えている。
よってこの中で四人は能力者、三人は無能力者(エクステリア)であると判断できる。
そして奥の壊れた階段を囲う壁の大穴からまるでそこに階段でもあるかのように二階から三階へ金髪の二十代の男が上がって来る。
能力者は四人から五人に増えたと考えて良いだろう。
その主犯格と思われる金髪は俺の方を向き言った。
「まんまと引っかかってくれて『ありがとう』とでも言うべきかね~」
見た目と中身が一致したようなちゃらちゃらとし口調でまるで俺が罠で引っかかったような言い方だ。
「それに、その表情は、もしかして物の方に気づいちゃった系ですか~?」
「……」
「おいおい、あまりに戦力差あり過ぎだからってダンマリは流石にうざいぜぇ~」
「確かに戦力差はあり過ぎる。俺の圧倒的優位だ」
「はぁ!? 何言っちゃてるんですか? こいつ頭イカれてるんじゃないの? よく見て見ろよ。こっちは八人、君は一人、どう、わかってくれちゃった系ですか~?」
「屑との話し合いなど無意味、さっさとゴミ掃除を済ませた方が良いな」
奴らはキレて言い返すよりも速く左手でマカロフPMを抜き肩に発砲する。
だが、それを普通に避けて、階段の瓦礫を浮かせ、飛ばしてきたのだ。
それを躱し、もう一発、さらに右手でSIG SAUER P220を上の制服の中のホルスターから抜き、避ける方向に二発撃ち込み、一人はノックアウトしたが、それと同時に二方向から 超念導(サイコキネシス)により瓦礫が、それに加えて銃弾も混じって飛来する。
三次元的な移動により異なる方向からの瓦礫をぶつけて相殺し、銃弾は避けた。
だが、金髪は何もせず見ている。
そいつに構っている暇は無く、右側に威嚇射撃程度にしかならないが、セミオートで発砲しつつ、もう一方に弾幕を避けながら能力者へ接近しマカロフPMで飛んで来る瓦礫を撃破していく。
時々、銃弾が鞘にあたり金属音がすることもあるが、最小距離で避けている以上仕方のないことだ。
警察の調べ通り低級であることは間違いないようで、距離を詰めると念導力を止めて、逃げようとする襟元を掴みマカロフPMのグリップで一撃を加えた。
それでとどまらず中年の男を盾にして柱まで突き進み、精密射撃で銃だけを破壊していく。
だが二人目のマカロフPMを破壊したところでこっちのマカロフPMのスライドがオープンし弾切れとなるが、向こうも弾切れを起こし、再装填(リロード)の隙を突き、グリップで殴って倒し、その男を掴んで、後ろからナイフで応戦しようとするガタイの良い男二人に向かって投げ飛ばし下敷きにした。
そこでようやくさっきまで俺の居たポジションまで来た茶髪二人が飛ばす瓦礫に背を向けたまま躱しマカロフを再装填(リロード)してベルトのホルダーにしまいSIG SAUER P220で残弾二発を撃ちつくすが、それらは躱される。
すぐに再装填(リロード)して構え直す。
「念導力(サイコキネシス)程度に用はない」
「無能力者(エクステリア)の分際で、調子に乗ってんじゃねぇよ!!」
階段の瓦礫の中から数十キロはあろう大きさのものを持ち上げてくる。形は壁の瓦礫なので薄いが幅が大きく、躱すのは難しい。
それを動く壁のように高速で接近して来る。
右にも左にも上にも下に躱すことはできない。
なら俺はSIG SAUER P220をホルスターにしまい、ベルトから鞘ごとワンタッチで外して前に突出し、そのまま壁に突進する。
コンクリートは堅いが脆い、それに薄い、ならば一点突破あるのみだ。
両者は予想よりも速く衝突し、手には少しの衝撃が伝わる。かなり強くソードを握っていたのだが予想よりも弱い力で粉砕できたため、勢いあまって、そのまま突っ込むこととなった。
視界が開けると、もう片方が煉瓦くらいの大きさの瓦礫を正面向かって左方向に移動して飛ばして来ているが、ソードで軽く打ち返し、野球のノックのようにそいつ返してやる。
さっきから見ていると念導力(サイコキネシス)は扱いが難しいようで、打ち返した瓦礫を再制御し発射することはなく、そのまま瓦礫の直撃を受けて倒れた。
「この化け物が!! 早くくたばれよ!!」
ランクの低い能力が役に立たないと判断したのだろう。
上着のホルスターからトカレフを構える。
「――――死ね!!!」
セミオートで脳天目がけて撃つが、あまりにも芸がない。それにいつも能力に頼っているせいだろう。射線にブレが大きい。
狙いが一点過ぎて、左右への軽いステップだけで楽に躱せる。
「お前らの敗因は戦闘経験の薄さだよ、消え失せろ雑魚が」
ソードでトカレフを弾き、さらに蹴り飛ばした。
残るはさっきまで手出しを一斉しない金髪のみだ。
武器を持っているのに攻撃を加えない。
「後はお前だけだ、金髪」
「本当は下にも味方はいるんだけど、階段がこれじゃね」
そのままソードを金髪に向ける。
「俺を倒そうってかい? おもしれぇーことだが、俺の仕事は時間稼ぎにあった。かなりのやり手のおめぇーにはわかるんじゃねぇか? ヒント、俺たちは密売組織で~す」
さっきよりもチャラチャラ度が減った口調で喋る。
こいつのヒントがなくても、時間稼ぎと言えば、商談相手が来るまでのということは明白だ。
「壁の奥に例の物はあるわけか」
「ピンポーン、正解、正解、大正解」
突如、バイブレーターで着信を知らせる。
相手は師匠だ。
『今、大丈夫?』
「何ですか。なるべく手短にお願いします」
『外の包囲班から警察が来たと報告を受けてるんだけど、何か知らないかな?』
「……」
このタイミングで警察、あれだけ警察隊を動員しての逮捕に乗り出さなかったのに今更何だ? 可能性として考えられることは三つ。
一つ、警察による援護、つまり味方、増援。
一つ、警察により手柄の横取り、実際に俺たちは逮捕権を持っていないため有りうる。
一つ、警察がこいつらの商談相手、時間稼ぎから考えればなくはない。
一つ目はありえない。俺は基本的に人任せにする警察は嫌いだ。態度からしてそれはありえない。
二つ目、これはあり得るが、能力者がいるとしても、明らかな犯罪で現在の法律でも裁けるのに依頼したことから、それは考えにくい。
よって結論はこうだ。
こいつらの密売相手は警察であるのだ。だが銃や薬物の密売ではない。こんな粗悪なものを利用するのはヤクザくらいのものだ。
密売と言っても売ってはいけないものを売ることだ。または内密にしなければいけないものだ。
だが、俺はその中身を知らない。
「警察を通してはいけません。作戦中だと説明してください」
『あっ、ごめん。もう通しちゃったみたい。何かまずかったの?』
「あくまでも予測ですが、警察がこいつらの密売相手の可能性が高い。師匠と先輩は下に降りて警察の足止めをお願いします」
『わかった、それと先輩に変わるね』
「ああ」
『警察が敵というのは本当かい? 君の情報はどこまで正しい?』
「直感と統計的判断です。確率は90パーセント程度かと」
『君はどうする?』
一瞬このまま金髪は放置して脱出しようかと考えた。ここは三階、余裕で飛び降りられる高さだ。そのまま下で合流するのも手だが……。
「俺はそちらが警察を通してしまった時のために物の方を押さえます」
『わかった、武運を祈るよ』
電話はそこで切れる。
「さて、その物とやら渡してもらえないか?」
「もし、来るのが遅ければそうしてたかもしれないが、来ちまったもんはしょうがないってわけで、渡すわけにはいかないね~。わかってると思うけど~、俺に攻撃は効かないっていうか~、無敵?」
一々鬱陶しい喋り方だが気にしない。
「あの結界はお前の能力だったというわけか、つまり、金髪、お前はその結界内だから安心して傍観できたわけだ。付け加えるなら結界内だから攻撃できなかったわけだ」
「これまた大正解、やるねぇ~、さてお前が結界を突破するのが先か、下のが上に来るのが先か、おもしろいことになったとおもわねぇ~か?」
「つまらないな、その二択では賭けにもならない」
「はぁ? 何粋がっちゃってるんですか~? 俺の結界超無敵だからそんな武器じゃ無理無理―――」
「ならば見せてやる」
こいつの話を聞いて時間稼ぎに貢献する必要などない。そしてどんな技でも出し渋る必要などない。
「――――悠久の翼を授かりし剱=Permanence Wing Edge抜刀!!!」
抜かれるは曇り一つない美しい銀色でまるで鏡のように光反射を様々な角度に反射しキラつかせ、まるでプラチナの装飾品のような輝きを放っている。
そしてさっきまで目の前にあった透明な壁を一撃の鋭い斬撃で引き裂いた。
意図も簡単にまるで紙を破くように引き裂かれ、シャボン玉を割るように結界が焼失して行くのが色の変化でわかる。
俺はウィングエッジを見せつけることはなく、すぐに鞘に戻す。
「何々だ、その剣は、ありえねぇ、マジでありえねぇ!!」
「それじゃあ、そこで眠ってな」
金髪は構えることなく、一発のパンチでその場に伸びた。
金髪が出てきた、逆サイドの天井には折りたたみの階段がついており、それを上り再び四階へと上がる。壁自体が能力だったのだ。それらが消滅し、五階同様に広い空間となっていた。
そこには密売品が大量に置かれており、弾薬から銃まで様々だ。小さなケースを開けるとビニール袋に入った白い粉が大量に出てきた。大麻などの薬物も密売していたようだ。
だがこの空間には一際目を引くものが置かれていた。
何と言うのだろう。遠目であるためはっきりとはわからないが、かなり次世代チックなデザイナーがデザインしたかのような、カプセルのような横約二メートル、高さ約一メートル、奥行きが約一メートルの箱なのだが、四角いわけではなく円柱に近い形にパーツを付け加えたようなもので表面はノングレアのシルバーで上部、円柱の四分の一程度はガラスのようなもので覆われているようだ。
例の物はこれのことだ。
とりあえず、暇そうな奴に手当たり次第に電話していく。
「ニル、今暇か?」
『突然、何かな? デートの誘い?』
おもしろい奴だな。
「違う、ニルから受けた依頼の続行中だが、輸送用の車両が必要になった。今から来れるか?」
『行けないことはないけど……』
「報酬はこっちで出す、なるべく急いでほしい」
『強引だな~、まあ、わかったよ。ハチロクちゃんで構わないよね?』
「少しばかり狭いが、背に腹は代えられない」
一発目で来てもらえてよかった。
奴らが来る前に物は回収しておかなければならない。だが重量は二百キログラムを優に超えるように見える。 人一人くらいは入れそうな大きさだ。
廃ビルは照明器具自体がないため、どっかから盗電しているようだが、入ってるのは外の光だけなので暗い。
カプセル形状であることから、中は何となく察しが付いてしまうが、それは見事的中した。
ガラスの反射が近づくにつれて収まっていき、遂に中が薄暗く見える。やはりこれは生命維持機能付きのカプセルだ。
医療用と言うよりは実験用みたいな雰囲気がある。色にしても医療機関で使うなら白を選ぶだろうが、シルバーで塗装されていない。それに形状もゴツゴツとしている。
俺はもっとはっきり中が見えるようにゆっくりと分厚いガラスに顔を近づけていく。
その中を予想していたとは言え驚きを隠すことはできなかった。
「これは、一体!?」
――――そこで俺の目に映ったのは小さな少女だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます