Military Academy(5)

「敵が何人いるとおもっているの!! それに武器も大量に所持している可能性も高い。それは非現実的よ」

 その作戦に真っ先に反論したのは、先程リーダーのもとに駆け寄った女子生徒だった。

「確かにそうかもしれません」

「だったら……」

 周りも、一人でできるわけがないと言っているような雰囲気が伝わってくる。

「まぁ、いいじゃないか」

 そう言ったのはリーダーの鳴海だった。

「鳴海君……」

「リーダー、こんな奴の言うこと……」

「もっと安全な作戦があるはずです」

 リーダーのその言葉に周りは納得がいかない。

「確かに、君はいろいろと問題児のようだ。けれど、さっきは一人で生徒二人を気絶させている。しかも彼は無傷だ」

「まあ、それはそうだけど……」

「それだけ強いということだろう」

「でも……」

 それ以上、その女子生徒は口に出さなかった。

 リーダーの鳴海は何かを決めたようにうなづいた。

「現状じゃ、他に良い作戦が見当たらないな」

「今回は君の作戦を呑もう」

「はい」

「君名前は?」

「俺ですか? 俺の名前は小宇坂です」

「小宇坂……、どこかで聞いた覚えが……」

「あっ、分かったわ!! あの銀幕の双剣(ヴァイス ツヴァイ)よ!!」

 リーダーの鳴海よりも先に、女子生徒が気付いたようだ。

「君があの……」

「別に大したことじゃないですけど……」

「けれど、一人では何かと危険だ。もう一人くらい誰か……」

「僕が行きます」

 それに最も早く答えたのは、俺よりも一つ年下の女子生徒だった。

「君は?」

「夏川です」

「あの夏川か。それなら大丈夫そうだ」

 夏川の苗字はこの学園ではそこそこ名が通る。俺の作戦を基に行動を開始することに決まった。

 俺と俺の師匠こと夏川小春が屋上から潜入。

 リーダーの鳴海とその他のメンバーは、鳴海の指示で陽動を行うことで話がまとまった。 

 狙撃科の生徒の調査によれば、通用口として使えそうなのは一階にある裏口、ビル側面にある非常階段、それと二階の窓が一ケ所だけ空いているところだそうだ。

 それ以外にも上の方の窓は木の板で覆われていることはなく、登れさえすれば入れるようだが、それは人間には無理だ。

 中の様子は人が居住していた形跡と監視カメラが設置してあったそうだ。

 そのビルの両隣にある雑貨ビルは人の気配がなく、その屋上から侵入できそうとのことだ。

 ただし、中にいる人の様子を確認できなかったことが、少し気にかかるが……。

「今わかっている状況はこのくらいか……」

 俺は今のこの状況を整理する。

 いくらCランクのミッションといえど、油断は禁物だからな。

「小宇坂君、準備は大丈夫か?」

「大丈夫だ。そちらの方はどうだ?」

「僕の方も今すぐ行動できる。君の力は知っているつもりだが、無茶はするなよ」

 作戦が本格的に始まる前に「あいつ」に連絡しないといけないな。報告・連絡・相談は仕事に限らず重要な事だ。

「コアラ、今、暇か?」

『せ、先生に対してその口の訊き方は、宗助くんでしょ!!』

 プンプンとか口で言いそうな怒り方だ。

「研究科の担任の小原と通信科の菊竹に、あんたのクラスの生徒に銃撃されたってことと、国際科は武器の整備費用が足りないと伝えておいてください。でもコアラは草食系で弱いので、挑発し過ぎて返り討ちに合わないように。後、今日は午後八時前まで帰れないってことをリアに伝えてくれ」

『は、はあ……、一応わかったわ』

 俺の様子を察してくれたのか、思いのほか素直に了承してくれた。

「それじゃよろしく」

 俺は一方的に要件だけ言って電話を切った。

 俺は、廃ビル横の雑貨ビルに入る。

 当たり前のことだが、廃ビル前の路地を通らないように大回りして裏に回り込んだ。

 下に降りた時に先輩方に通路の封鎖を任せた。

 雑貨ビルも同じ五階建てで、コンクリートの階段を上って行くと五階の廊下の天井に簡易梯子があり上に押す扉がある。

 鍵がかかっているので破壊するしかない。

 俺が今日初めて剣に触れようとした時だった。

「それはあれだね、短気過ぎだと僕は思うよ」

 足音もなし、突如後ろから声が聞こえる。

 女の子の声だが、一人称が「僕」なんていう女子は一人しか心当たりがない。

「師匠、どうしてここに?」

 そう彼女はさっき話した俺の剣術の師匠夏川小春だ。

「また一人で突っ走ろうとしてたでしょ!!」

「さすがは師匠ですね。よくお分かりで」

「行く時になったら、教えてっていったのに!」

「ええ、まあ」

 俺はよく一人でミッションを行っているのでそろそろパーティー、つまり仲間を作った方が良いと言っているのだ。

「ちゃんと反省してる?」

「……してます」

「してないでしょ!! もう、来た時からずっとそれだもん」

「善処します」

「都合の良い言葉だよね、それ……はぁ」

 溜め息を付いて「もう、しょうがない子」みたいな感じで、ピッキングツールを出した。

「こういうのはねぇ……こうするの」

 ジャンプして地面とかなり離れた梯子をよじ登り、片手で梯子を掴み、もう片方でピッキングツールを持った。

 カチャカチャくらいのたった数秒で扉は開いた。

 屋上は風の流れが穏やかで、飛び移るのに支障はないだろう。

「それじゃあ行こう!! 僕の弟子よ!!」

 師匠のその声とともにカメラへの狙撃が行われ、障害が消える。

「ほらついておいで、作戦開始だよ」

 俺は師匠に先導され、廃ビルに飛び移った。

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