Military Academy(4)

 目的の廃ビルは細い通りに位置していて、この辺で言えば五階建ての割には小さい方なのではないかと思う。

 ビルの一階と二階の窓には木が釘で打ち付けてあり、窓ガラスはないようだ。

 俺の目視では電線は切られているので、別の系統から電力を供給しているのが有力だ。

 さて、外から見える情報はこれぐらいか・・・。

 ミッションのランクがCということは、これだけ人数もいればなんとかなるだろう。

 今日もいつも通りミッションをこなすとするか。

 現在は狙撃科による敵の調査待ちの状態である。

 その間、俺たちは犯罪者に感づかれないようにするため、固まって動かず、周囲の警戒等、すぐ集まれる範囲で各自行動することになっている。

 向かいのビルの屋上で俺も中を覗くことにした。

 周囲を警戒する人はすでに何名かいるため、俺は監視班の役割を担っている狙撃科の二人がいる向かいのビルの屋上で俺も中を覗くことにした。

 非常階段を上りながら、戦闘シミュレーションをする。

 屋上に着くと、狙撃科の生徒の他に二人の生徒がいた。

「おい、お前もこっちの護衛に来たのか?」

 研究科と思われる男子生徒が上がってきた俺を見てそう言った。

「いいや」

 体格は標準程度で身長も高い方ではない、先輩という訳でもないだろう。

「だったら向こうの周囲警戒でもしたらどうだ? 強いんだろ?」

 呑気に座っているだけで仕事が終わりそうな奴がよくそんな上からものは言えたものだ。

 この護衛役は自ら勝手に引き受けたもので、別に頼まれたことではない。

 自らサボりとまでは行かなくても、中でドンパチやりたくないないからであることは明らかだ。

「その必要はない」

「まさかサボりなのか?」

「お前らには言われたくない、俺は仕事しに来ただけだ、金が欲しけりゃお前も作戦に参加することだな」

 喧嘩を売る気などないが、俺の口調は特定に人間を怒らせ易いらしい。

 これはリア調べで、俺と決闘紛いになった人との関連性を調べたらしい。

 暇なんだな。

「そういえばお前は今回のミッションには参加してなかったよな? 本当は部外者なんじゃねぇ?」

「俺は代行で来ただけだ。名簿でも配られてるのか?」

 メンバー全員を把握しているということは、情報を公開した奴がいるか、勝手に見たのだろう。あるいは生徒会執行部か。

 普通、詳細情報は明かされない。

「……そうか、お前が余計なことしたってわけだな」

「意味がわからない、ちゃんと喋ろ」

 俺はコイツと初対面だ。難癖つけられる筋合いはない。

「角谷さんと変わったのはお前だったって訳か、道理で来るわけがねぇ」

 ここでなぜか角谷の名前が出てきた。

「あそこまでしたのに作戦が台無しじゃねぇか!!」

 そいつは俺に向けて『グロッグ18』を突きつけた。

 それに対して、もう片方はなにもしない。

 ただ状況を見ているだけだ。

 俺はこの状況がわからない。

 一体なんなんだ。

 けれど、推論するならば4つの事が考えられる。

「推論一、お前がニルにこの仕事に参加させるよう、他の人間を使って誘導した」

「推論二、お前たちは元々戦闘に参加するつもりはなく、狙いはニルにあった」

「推論三、お前たちは戦闘のどさくさに紛れてニルに何かするつもりだった」

「推論四、お前たち二人はグルだ」

 そして俺は最終判定をする。

「結論、お前たちはどうしようもない屑ということだ」

 その言葉を合図に俺は加速を急激に上げ接近、それと同時に頭めがけての発砲だが、俺はスライディングで躱し、低い姿勢でゼロ距離となる。

 照準を下に向けようとするが、その間フルオートで無人の方向へ発砲し続ける『グロッグ18』を蹴り上げて弾き飛ばし、床に手を付いてそれを支点にもう片方で足払いをして、態勢を崩させる。

 ここで後ろの方にいたもう一人の方が反応して同じく『グロッグ18』を構える。

 さっきの光景からセミオートに切り替えたようだ。

 トリガーが引かれ飛んできた銃弾を床に転がるように右に避けて、その時の回転力(トルク)を利用して立ち上がり、その時に先程弾いたグロッグを右手に持ち、セミオートに切り替え一発打ち込んだ。

 相手の銃はその衝撃で表面のプラスチックが吹き飛び、グロッグはバラバラになった。

 俺はグロッグを捨てて、戻ろうとした時、下にいた上級生数人が銃声を聞きつけ上がってきたようだ。

 狙撃科の二人もこちらを見ている。

「一体何があったっていうんだい?」

「いえ、大したことではありませんよ。ただ、サボり組が突っかかってきたというだけの話ですから」

「……また君か」

 先程のこともあり、さらに印象が悪くなってしまったようだ。

「大体の事情はわかったが、こちらの作戦は台無しだよ」

 それはそうだろう。向かいのビルでこんな銃声が響けば敵に気付かれるのは当たり前のことだ。

「こうなると、さっき言った作戦は使えなくなったか……」

 溜息をつくこの作戦のリーダーの元に、上級生の一人が近寄る。

「どうする鳴海君? これで相手に私たちがいることがばれた訳だけど……」

「う~ん。こうなると敵も防御を固めてくるだろうな……」

「そうなると……」

 先輩たちが作戦に悩むのも仕方ないことだろう。

 銃を使う戦闘だ。

 入念に作戦を練らなければ死人が出る確率は常にある。

 リーダーであればそれを考えることは尚更のことだ。

 なら俺がこの責任を取るしかないのかもしれない。

 俺にこうなった原因があるわけだしな……。

 今日は少し頑張るか。

「先輩方、俺に少し提案があります」

「君は、さっきの……」

 リーダーと話していた三年生であろう女子生徒は俺に対して悪い印象のようだ。

 まあ、仕方ないことだろう。

 リーダーの鳴海は、そんな彼女を制し、俺の質問に答える。

「いいよ、話を聞こう」

「では、その提案なんですが……」

 銃声が響いたこのビルは警戒されている可能性が高いため、俺たちは倒れているあの二人を運び、少し離れた雑貨ビルに集まった。

 そこで皆に俺の提案を伝えた。

 まず、陽動部隊と奇襲部隊に分ける。

 次に他の生徒の半数が下から自分たちがいることを敵に伝える。

 この時、敵に全勢力がここにいると思わせる。

 その生徒らが敵を引きつけつている間に俺が屋上から奇襲するというものだ。

 リーダーに皆を集めてもらい、俺はその旨を伝えた。

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