Military Academy(3)

 国際科の授業は午前中で終了する。

 昼食を先程のメンバーで摂ったのちに、俺は早速ではあるが東京へと向かうことにした。

 この後、任意で他の学科の演習に参加し単位稼ぎをすることもできるが、去年散々やって来たので、今年からは通常通りで参加していない。

 逆に参加している方が珍しいくらいだったほど、国際科は戦闘面では非常に弱い。

 俺の装備は銀色の双剣だ。

 どう頑張っても、ベルトに着けていれば人目に着くのは致し方ないことではあるが、横浜市と神奈川県の一部以外では公共機関を利用する場合は、武装を解除または完全に隠していることが条件となっている。

 そのため電車も地下鉄もバスも利用することはできない。

 当然のことと言えばそれまでだが、これだと非常に不便だ。

 神奈川県の県境までは電車で行けるが、そこからは歩きになるので、あの距離は流石に無理がある。

 武装が見える場合はタクシーも乗れないので困ったものだ。

 車に乗るのも方法の一つだが、レンタカーを利用しても、東京に車だ。当然ながらスムーズに都心まで辿り着けるとは思えない。

 それに加えて、車の止める場所も少ないとなれば、かなり厳しい状況だ。

 俺は十六歳なので普通は車に乗れないはずなのだがLEGEND月宮高等学園にはライセンスという制度があり、銃・刀の所持、危険物取扱、車・バイク・小型機・ヘリコプターなどの免許、ほかにも様々だが、ある一定の範囲内における使用を認めるものであれる。そこで試験や実施などを受け認められれば、年齢に関係なく許可が下りるというものだ。

 もちろん、その試験は普通に取る場合と試験の内容などは同じでズルではないが、違いは年齢制限を設けていないという一点に尽きる。

 俺もバイクの免許を取得しているので、学園の車両を一台借りて出かけることにしよう。

 さっそくだが、生徒会に申請書類を出しに行く。

 この学園の統治は自主性を養うために、ほとんどの事務作業を生徒会や委員会で行っている。

 生徒会室は監督学生棟という別の建物で校舎とは繋がっていない。

 校舎は比較的陸側にあるが、部活棟や監督学生棟は海側に近い奥側にあるので、移動に時間がかかる。

 それから申請用紙にいつも通りの文面で借用申請は通り無事にバイクを手に入れることに成功した。

 鍵をもらい、バイクのある車両庫は同じく海側の左端にあり、また歩くことになる。

 車両庫は地下にあり、管理している生徒に借用書を見せて通してもらう。

 内部は立体駐車場になっている。

 地下何階まであるかは知らないが、地下二階にはボンネットにLEGENDという文字塗装がされたランドクルザー、スカイライン、クラウンなどがズラッと並べられていて、車庫は広く暗いので一番奥の壁が見えない。

 そんな脇の方にバイクも並んでいる。

 地下一階には日本軍の現役である九六式装輪装甲車や、BM-13自走多連装ロケット・システム(通称:カチューシャ)の現代版みたい車両、八一式短距離地対空誘導弾搭載したトラック、ティーガーⅠ、M4シャーマンなども置かれているのが一瞬だけ見える。

 一瞬であったため少ししかわからなかったが、他にもかなりあることが予想される。

 あそこは第二次大戦の墓場なのか?

 この学園は本当に何やってるんだ?と疑問に思うこともあるが、全容を知っている人がいないので、それが明かされることはないだろう。

 ここには理事長の趣味かまではわからないがカワサキのバイクがほとんどだ。

 その中からカワサキのZL1000を使う。

 バイクのことはよく知らないが年式はかなり古い、最近のものでないことだけは明らかだ。色はブラック、他の詳しい事は知らない。

 車両通用口から出て、学園の正門ではなく、西にある車両専用のゲートから出た。 

 それからは品川まで少し飛ばしながら向かった。

 三十分程度で品川駅に到着し、近くのLEGEND系列の会社に置かせてもらうことにした。

 一件目の依頼を確認しよう。

 場所はここ品川シーサイド駅前、内容は不法者の確保、この表現は微妙だと思っていたところだが、簡潔に言うなら、超能力による脱法的な犯罪者の確保と言ったところだ。

 今日はそいつらを捕まえる。

 ミッションのランクからも見てとれるように、重犯罪者と対峙するわけではない。

せいぜいスリとか、カツアゲなどの軽犯罪者だろう。

 それとこのミッションは集合とあるように、俺だけではないらしい。

 十三時十七分過ぎ、駅前には既に武装集団があらかた集結していた。

 警察から資料がデータとして配布されていたので、俺もスマートフォンにダウンロードし確認する。

 対象は全部で十一人、能力の詳細は不明。

 だが低級能力であることはほぼ間違いないらしいとか随分曖昧だな。

 容姿は記載されていないが、どうやら近くの廃ビルを拠点としているらしい。

 備考として、武器や薬物の密売をしている可能性も高いそうだ。

 その辺は警察の仕事だと思うが、その場合は成功報酬が上がるとまで書いてある。

 当たり前と言えば当たり前のことだ。

 それに対して、こちら側のミッションへの参加人数は二十人。

 その内LEGEND月宮高等学園から十五名、その振り分けは、国際科から俺が、強襲科から七名、狙撃科、研究科からそれぞれ二名、前衛科、通信科、救護科からもそれぞれ一名、LEGEND月神高等学園 東京支部から三人、それ以外、つまり外部機関からの同業者が二人ということだ。

 つまり現在集まったのは十八人、二人は来られなくなったらしい。

 その中でも、見知った顔に出会った。

 LEGEND月宮高等学園中等部の三年生の夏川小春だ。

 深い青色のツインテールにコバルトブルーの瞳、身長は低く、腰に刀を差している。

 性格は明るく元気で、その上友達も多い。

 俺の母方の実家で我流剣術を教えているのは前に言った通りだが、彼女はその道場で現在師範代をしている。

 母親の姉の子供で俺のいとこにあたるが面識はほとんど無かった。

 それに剣術に関して言えば、年は一つ下だが師匠なのだ。

 ここ最近寮ばかりで帰ってないので挨拶くらいはしようかと思ったが、強襲科の女子と話をしているようだったので、また次の機会にする。

 しばらくして、作戦会議が始まった。

「えーっと、本日のミッションのリーダーを務める鳴海康平です。よろしくお願いします」

 その一言に対応して、皆それぞれが「よろしく~」や「お願いします」等の挨拶を交わす。

 この鳴海という男子生徒は、おそらく三年であろう。これまでにもリーダーを務めてきたのだろうか。とても落ち着いている。

「それで、今日の任務は皆に伝わっている通り、軽犯罪者の逮捕です」

「そこで、僕が作戦を考えてきたので、これから説明します」

「まず、狙撃班と強襲班に分かれてもらいます。狙撃班には偵察をしてもらい現状把握。監視役がいると思われるのでそれを狙撃し、敵の「目」を潰してもらいます。次に強襲班には、監視役を狙撃するまで所定のポイントで待機。狙撃後、数名で廃ビル内に上から襲撃し、下に誘導、そこで集まった敵を一掃するという流れで行こうと思います。待機ポイントについてはこの後説明します。」 

「以上となりますが、何か質問や意見などがある方はいますか?」

 リーダーが話し終えるのを確認し、俺は手を上げた。

「質問なんだが。この作戦は奇襲だよな?だとすると、敵に気づかれていないのが前提となる。つまり、初手で確実に敵の目を潰さなくてはいけない。こんなやつらにできるのか?」

 俺の質問に師匠以外は顔をしかめた。師匠は「はぁ…」と呆れていた。 

「確かに君の言うとおりかもしれないけど…それを求めるのは酷じゃないかな。このミッションのランクはC+だよ。君の求めているものはこの作戦難度に不相応だよ」

「すまん、そうだったな。どうも完璧主義なところがあってな」

 もちろん、言い訳だ。ただ、俺が先程のような質問をしたのはニルに代わって受けたミッションなので彼女の顔に泥を塗りたくないというか単に貸しを作りたくないから少し焦ってしまった。

 作戦会議を終えると、俺たちは目的の場所に向かう。

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