Military Academy(2)

「み、みなさ~ん、せ、せきについてくださ~い」

 この超頼りなくて、挙動不審で、上がり症みたいなのが、うちの担任の小荒未季である。

 通称『コアラ』の愛称で親しまれ、クラスでの人気は高い。

 まさにマスコット的な存在として親しまれている。

 そんなコアラのぎこちないショートホームルームは早々に終了する。

 もう赴任半年以上経つのだから、そろそろ慣れても良い頃だ。

「あ、あの小宇坂君は、せ、せんせいとい、いっしょに来て下さい……」

「はあ」

 呼ばれて廊下に出る。

「ちょっとお願いがあるのだけいいかな?」

 一対一だと喋りが普通に戻る。

 補足説明をすると、この先生も見かけによらずのPCゲーム好きで、あの準司とこの分野においては肩を並べる存在だ。

 それと最近知ってしまったことだが、コスプレが趣味らしい。

 二十歳をとっくに過ぎた大人がそんなことやってるとか、人にものを教えるという身でそのようなものを趣味とするのはどうかと思うのだが……。

 この前、コアラ先生と準司にこのことをツッコんだのだが「それは偏見です(だ)!!」とものすごいプレッシャーで言われてしまったのでそこには関与しないことにしている。

 ここではあえて年齢について言及しないことにしている。

「秋葉とか言ったら俺も怒りますよ」

「すみません、実はそうなんです」

「まさかとは思いますけどイモ恋(略称)をゲーマーズで予約したから取りに行けなんて言わないですよね?」

 イラッとした表情で言う。

「小宇坂君、超能力者!? どうしてそれを……」

 超能力者ではないぞ、俺は。

「ヒント、準司」

「まさか同じことを頼まれたとか……」

「まあ、そういうことですので、報酬は?」

 俺はとても悪い顔をしていることだろう。

 さて何を貰おうか。

「すごく、怖いなあ、と先生思いますけど、ですが取りに行く暇がないので、背に腹はかえられませんね、いいでしょう、それではこれでどうでしょう?」

 先生がポケットから出したのは『イモウトから始まる恋 ~恋人がお兄ちゃんでも全然関係ないんだからね♪♪~』だったのだ。

 俺は唖然とする。

 どうやらこの類の人種は同じことを考えるらしい。

 それにポケットからそのパッケージ版そのまま出すとか、四次元ですか!?

「それは準司からさっきもらいました」

「先手を打たれたか」

 先手とかじゃなくて、俺は押し付けられただけで、欲しくも何ともないのだ。

 もっと真面目なものをよこせ。

「しかたないからこれ」

 次にポケットから出したのは青と銀メッキで交互に斜め塗装されその上から透明なアクリル製の円筒に入っている『.45ACP弾』だった。

「何ですかこれ?」

「『よんじゅうごこうけい、おーと、こると、ぴすとる』だってさ」

「見ればわかります」

「ダメ?」

「……」

 俺の銃は9mmパラべラム弾なので使えないが、何か他に持ってなさそうだし、

「先生金なさそうですし、仕方ないんで、それで手を打っておきましょう」

「そう、ありがとう!!」

 現金取るのは何か違うと思う。

たぶん、珍しい物だろうし鑑定に出せば高く売れるかもしれないと言う期待を込めて貰っておくことにした。

「それじゃ今日中に寮でお待ちしてますよ」

 やはり今日中でなければ意味がないらしい。

 準司もだが、徹夜でプレイすると言っているようなものだ。

「そうだ、『シス恋 ファンディスク』、やり終わったら貸してあげるから、そこは心配しないで!!」

 親指を立てる。

 いや、そんな心配はしていない。

 それとやることが前提になっているのがとても気になる所だ。

 俺は絶対にやらないぞ!!

「それとこれが予約の紙だから命の次に大事にしてね。なくしたら先生一週間くらい学校来れなくなるので」

 そこまで落ち込むことのようだ。全く理解できない。

 そんなんだから結婚できないのだろうさ。

「それでは健闘を祈ります!!」

 ルンルンと言いそうな勢いでさって行く。

 俺は弾丸をジッと三百六十度眺めた後、制服の内ポケットの奥にしまった。

 財布の中の札入れに準司の奴と一緒に入れておくことにした。

 場所が一緒なら大変というわけでもないし、良いだろう。

 一つ気になることと言えば、ゲーマーズって何時までだったかな?

 仕事が早く片付けば問題ないが、それ以外だとまずい場合もある。ということで「ゲーマーズ 秋葉」という単語をグーグルで検索することにした。

 秋葉店は午後九時までのようだ。

 それと千代田区は品川経由で行ける範囲だと思う。

 それでもリアとの約束の午後八時までに戻らなければならない。

 少し無理があるように思えるが、もう引き受けてしまったのだし。

 教室に戻ると、なぜか皆が窓側に集まって何かを見ている。

 俺も近寄ってみることにした。

「ソウスケ、あいつが噂の『守護部(ガーディアンズ)』のトップにステイしてる奴よ」

 いつの間にか全員(とは言ってもクラスの席が半分しか埋まらない)が集合していた。

「ほう、アイツがか」

「そうらしいぜ」

 黒髪の男と紫のロングの髪の女が二人で登校していた。

 女は見たことないアンテナみたいなのが付いたヘッドホンのような形状のものを両耳に装着している。

 特に目立った武器はないが、どうやらそうらしい。

 徒歩で登校は珍しいらしく、俺もそいつが見えなくなるまで見つめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る