EP02 Military Academy

Military Academy(1)

 季節はまだ冬、二月末に入るが、まだ温かくなる気配はない。

 俺はいつも通り、学園の中にある明鏡寮から登校する。見ての通り、寮生だ。

 この地に最初に訪れた時は寮があることを知らず、中等部の時は祖母の家にお世話になっていたが、高校一年生からは祖母に迷惑をかけたくなかったので、アルバイトをしながら寮暮らしをしている。

 ここでの最大の利点は何と言っても学園が近い事だ。忘れ物などをしてもすぐ取りに行けて、朝もゆっくりできる。

 男子寮はここ以外にも二つあり、女子寮も三つある。その中でもここ明鏡寮は校舎に一番近いので人気が高く、入寮できたのは奇跡的だったと言える。

 そのおかげで遅刻したことはまだない。

 今日もまた俺は一年国際科の教室に足を踏み入れる。

 俺が所属するこの学科は、語学の授業を基本としているため、普通の文系大学と大差は感じられない。

 また、生徒の半数近くがハーフや外国人のため、金髪が多いこともこのクラスの特徴でもある。

 この科に来た初日は金髪の生徒の多さに驚いたが、最近では珍しくもなんともなくなってしまった。

 俺はフランスで暮らしてきたこともあり、外国人にはかなり慣れているので今更という気はする。

 そういう面ではとても居やすい場所だ。

 また、この学園では学科によっては首位を競い合っている風潮がある。

 しかし、この学科自体戦闘をメインにやっているわけではないので、あまり競い合いには参加していない。

 メインでないと言っても、カリキュラム的には基礎的な戦闘訓練は行っている。

 それに加えて、後方支援メインなのでそれ程大変ではない。

 この学園の大きな特色の一つとして、依頼あるいはミッションと呼ばれる制度が存在する。

 この制度は学園自体が大きな窓口となり、外部から依頼を受けることで成り立っている。

 生徒は受けた依頼を達成することでお金や依頼によっては単位を稼ぐことができる。

 報酬は数千円~数十万単位まで様々だが、俺は基本的に数万クラスのものを受けて、放課後と休みを利用して依頼を遂行している。

 俺の所属する学科は基本後方支援しかできない生徒がほとんどなので、武器は弾数の多いものを持っておくのがセオリーであり、サブマシンガンやライトマシンガン、アサルトライフルを専用武器として持つことが多い。

 そんな俺も基本的には拳銃を使って戦っている。

 しかし俺は、この学科の生徒とは明らかに異なる点が存在する。

 それは、このクラスの中では近距離戦闘スキルが高く、強襲科や前衛科などに近いことだ。

 近いというのは装備している武器の系統のことで、近距離武器を扱うことができるからである。

 俺が所持している近距離武器の一つは短刀であり、護身用として持っている。

 しかし、それを使う機会はほぼない。

 ほぼ使うことがないのは見ての通り、俺がいつもベルトに吊るしてある二本の西洋刀がメインの装備だからだ。

 近距離戦闘の時はそれを主に使っている。

 まあ、そんな状況になることはそこまでないのだが。

 要するに戦術が基本的に接近戦という、この学科では非常に珍しい戦法を使う。

そのため学科的には後方支援をさせられるが、俺だけ強襲科や前衛科と共に近距離戦闘の訓練を行ったりしている。

そういうこともあり、何かと困ったことがあれば呼ばれてしまうので面倒くさいこともあるが、頭数の入っているということだしよしとしておこう。

特に、去年の体育祭は大変だった。

体育祭とは言っても勘違いしてはいけない点としては、普通のスポーツが行わる祭典ではないということだ。

超能力や身体能力を使う競技もあるため、学科によって戦力差が出る。

強襲科や前衛科は戦闘向きの生徒が多く、基本的に毎年首位を独占している。

それに比べうちの学科は、女子生徒が多くかつ男子も弱々しいので、結局俺が様々競技に出させられる。

あれは、本当に苦労したなぁ。

そういう訳で色々とあれなクラスではあるが、俺の日常に支障をきたすほどのことでもない。

教室に生徒はまだ少ない。

当然だ。まだ七時五十分過ぎ、早い登校だが、これがいつもの登校時間だ。

俺の席は五列中の三列目の一番後ろというポジションを獲得している。

教室内は一般的な学校と変わらない設備環境であると思う。

黒板が前と横に付いていて、後ろには鍵付のロッカー、その横に掃除用具箱がある。

時間が経つにつれて、徐々に通学生が登校して来る。

「Bonjour!! ソウスケ!!」

「おはよう、リア」

 この誰にでも笑顔のクラスメイトはオフェリア・L・バルザックという。

 フランス人とブルガリア人のハーフらしい。

 薄茶色っぽいアーモンド色の長い髪の右もみあげを三つ編みにしている。

 背は比較的高い方で、フランス語、英語、日本語、広東語を喋れることができる。

 四つだと何リンガルになるのか気になる所だが、俺よりもこの学科の科目では成績は上だ。

「相変わらず素気ないのね、私みたいにいつも笑顔でいないと♪」

「無理だ。俺、愛想笑いとかできないし」

「そうだよね~、ソウスケだからしょうがないよね」

「諦めが早くて何よりだ。お前の朝からそのテンション何かあるな」

 そう、このテンションで話す時はいつも面倒くさい案件を連れてきている時だと確信している。

「そうなの、ソウスケはフランス語できたよね?」

「ここに来る前はフランスに居たからできるが、話せるだけであまり書けないがな。それが今回の件に関係あるんだな?」

「そゆこと~、翻訳的なことを頼まれたんだけど、いけそう?」

 やはり、俺の予想は当たっていた。

「いつだ?」

「放課後ならいつでも」

 俺はスマートフォンで予定を確認する。

 今日は依頼受けてたんだがな。

 でもリアには何だかんだで世話になってるし、無下にはできないよな。

「じゃあ八時に図書館前ロビーでって言ったら大丈夫じゃないよな?」

「遅いね、何かあったの? 別に強制してる訳じゃないし、無理しなくてもいいんだよ?」

「無理何てしてねぇよ、お前は気にすんな」

「ふ~ん。わかったよ」

 これで今日の予定はMAXまで詰め込まれた訳だが・・・。

「おは~、『優等生』の小宇坂宗助君」

「おはよ、……で何のようだ?」

 このバカっぽい挨拶をしてきたのは角谷ニルという雰囲気通りのバカだ。

 マロンっぽい色のセミロングを左右で短いツインテールにしており、見た目的にスポーツできそうな感じなのだが、意外とそうでも無い。身長に特徴はなく平均的だ。

 そして『優等生』何て言う時には何かある可能性が高い。

「で何だ? 言ってみろ」

「いや~良くわかったね、流石『優等生』だ。実はさあ、こんな依頼受けたんだけど、ちょっと私には難くてね~、代わりに代行してもらえないかな?」

 そう言って、スマートフォンで写メった画像を見せて来る。

 監査委員会前の掲示板の一角にある張り紙の内容はこうだ。

――――――――――――――――――――――――――――――

作戦コード :4B-0887EA

時 :本日 十三時半集合 

場所 :東京都品川区品川シーサイド駅 

内容 :不法者の確保

ランク :Cー~C+程度

報酬 :一万円

――――――――――――――――――――――――――――――

 こんな下級な奴をクリアできないとは。

「しょうがないから代行してやる、放課後申請書類出しておけよ」

「ラジャーであります!!」

 呆れつつも請け負ってしまったが、通り道なのですぐ解決すれば良いだけの話だ。

 それからしばらくして、また厄介な奴が来た。

「おはよう、我が素晴らしき親友こと小宇坂宗助よ」

「またか!!」

 思わず突っ込みを入れる。

 こいつは自称俺の親友の大西準司だ。

 こいつもバカっぽい奴で家が近いという理由で受験した単純な男だ。

 趣味はエロゲーと呼ばれている十八禁のノベルゲームとアニメとフィギィア集めと、プラモデル制作、さらに軍事系にまで強い。

 あっちの世界では無敵の存在らしい。

「一応、要件を聞こうか?」

 こいつが――って言った時は……。

 もうこの件にかなり投げやりになってきた。

「エロゲー、しようぜ」

「ふざけんな!!」

 俺の右拳が鳩尾にヒットしてその場に蹲る。

「だ、大丈夫だ、たとえ妹がいてもできるこの『イモウトから始まる恋 ~恋人がお兄ちゃんでも全然関係ないんだからね♪♪~』を!!!!! 携帯で無料で遊べるから、もう最強!!!!」

「何が大丈夫なんだ? 頭おかしくなったのか? そもそも俺に妹はいないし、おまえの家の事情なんて知ったことか、それ以前にZ指定のPC版買ってただろ秋葉で」

「安心しろ、これもZ指定だから!!」

「そこじゃねぇし」

「とりあえず本題に入ろう」

「話逸らしたのはお前だ」

「今日発売の『イモウトで始める恋 ~恋人がお兄ちゃんなのは当たり前♪♪~』の発売日なんだよ~、でも俺はすでに予約済なのだが、ゲーマーズまでついでに行って来てくれ!!」

「俺は行くとは一言も―――」

「こいつは報酬だ、先に渡して置く」

「何恰好つけながらこんなもの渡してくんだよ!?」

 こいつが押し付けてきたのは『イモウトから始まる恋 ~恋人がお兄ちゃんでも全然関係ないんだからね♪♪~』じゃねぇか!!

 それとちゃんと予約の紙がパッケージに挟まっている。

「いや、もういいわ。とりあえず席戻れ、先生来るぞ」

「それじゃあ、今日中によろしく頼むわ~」

 それとほぼ同着で先生が教室に入って来た。

 何というタイミングだ。

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