第202話 エンタープライズ

 雇ってくれと集まった者、二百八十六人。そのすべてを望月もちづき家で雇いいれた。


 もう家で雇う人数ではないが、おれの力とハルナの力があれば雇うことはできる。だが、雇ったからには望月家のために働いてもらう。タダ飯は食わせない。


「まずは町を片付けろ! 銅羅どうら町を復旧する!」


 もちろん、家にも連れていく。周辺の開墾やオン爺の配下にしなくちゃならないからな。


 一輪車やスコップなどの道具を出して町の片付けをさせる。


 それで家臣の働きを見て、リーダーになりそうなヤツを見つけ出すことにした。


「ミルテ。女たちと子どもたちは任せる」


 女たちは食事の用意を任せ、子どもたちには働く男たちのために食事を渡す役目を与えたのだ。


「はい。お任せください」


「他もミルテを助けてくれ」


 ミルテの側近となった女たちにも頼んでおく。


「はい。奥様のお力になるよう頑張ります」


 側近を代表して、ハルサが答えた。


 ハルサは三十六歳で商家の娘だったらしいが、今回のことで夫を失い、生き残った家の者を支えるためにミルテの側近に名乗りを上げたのだ。


「ああ。いい働きにはいい給金で答える。しっかり働いてくれ」


 これはハルサだけではなく、周りにいる者に伝えるために言ったのだ。ハルサは言わなくてもわかってるタイプだからな。


「じゃあ、頼む」


 と、光月こうづきに乗り込み、山梔子くちなしへと向かった。


「……カイナーズの空母か……」


 この世界にあるはずのない空母エンタープライズ(プラモデルを作ったことあるから知ってる)が港に停泊している光景にため息が漏れてしまう。


「どんな能力を願えばあんなのが出せるんだよ?」


 カイナーズの名は十年も前から耳にしている。絶対、神に介入される能力なのに、ここまで名を轟かすのだからおかしいとしか言いようがないぜ。


「しかも、ゼルフィング商会とつるんでる」


 さらに厄介なのは何人かの転生者の影も見えることだ。


 敵対はしたくない。だが、カイナーズはハルナと敵対していた。妻を守るためには対等な力を持つしかない。


 ……考えれば考えるほど不利な状況だよな……。


 心が萎えて来るが、おれは夫であり父である。妻や子どもたちを守る義務がある。三十六歳になって手に入れたこの幸せを失ってたまるか!


 気持ちを新たに山梔子くちなし光月こうづきを降ろした。


 山梔子の乗員が現れ、敬礼して迎えてくれた。まあ、まだ十四歳の少女では迫力にかけるがな。


「ご苦労。アイリは?」


 居場所は知っているが、乗員を育てる意味もあるのであえて尋ねた。


「指揮所にいます!」


「案内頼む」


「はっ!」


 少女兵に案内してもらいアイリのところへと向かう。


「山梔子での暮らしはどうだ?」


 せっかくだから聞いてみた。


「はい! 毎日食べられてます!」


 ふふ。形はまともになったが、中身はまだまだか。精進だな。


 月島の訓練兵も投入しているようで、艦内は女の臭いで満ちている。うぶな男なら鼻血吹いて倒れてそうだ。


 まあ、おれはうぶでもなければ少女趣味もないし、花屋に慣れていれば気にもならない。と言うか、妻が三人もいて興奮してたら人として終わってるわ。


 山梔子を出て近接に建てられた二階建ての指令所へと入る。 


 一階は兵たちの休憩室となっており、交代で休んでいる少女兵や銅羅どうら町で雇った者が休んでいた。


「そのままで」


 立ち上がろうとする兵たちを止める。


「ご苦労。無理せず働いてくれ」


 気遣いは家長として主としての必須スキル。疎かにするヤツは下克上を受けるから注意しろよ。


「失礼します! タカオサ様を案内して来ました!」


 二階へと上がり、開け放たれた指令室前で少女兵が敬礼。大きい声で報告する。


「ご苦労。下がっていいぞ」


「はっ! では、失礼します!」


 アイリに一礼。続いておれに一礼して去っていった。


 その背中が階下に消えるまで見送り、たくさんのモニターの前にいるアイリに目を向けた。


「教育がいき届いてるな」


 団長としての才は乏しかったが、人を育てるのはリサさんから濃く受け継いでいるようだ。


「ハルカが優秀なだけさ」


 謙遜するアイリに肩を竦めて返した。


「カイナーズが来てるんだな」


「ああ。ついさっきな。今はカナハがあちらにいっているよ」


「よく一人でいかせなな」


「厳しい父親に習ったまでさ」


 カナハとの会話は聞かせてないが、ルビーと会わせたことで察したのだろう。理解ある嫁で頼もしいよ……。


「あちらから接触は?」


「こちらに敵意なし。入港を許されたし。って通信は来たわ。だから、こちらも敵意なし。入港を歓迎すると返しておいたよ」


「おれ、警戒されているか?」


 モニターの一つに映るエンタープライズを見ながらアイリに尋ねた。


「山梔子と紅桜べにさくらを持つ者を警戒しないわけがないだろう。わたしならするね」


 だな。おれもする。


「敵対はしたくないんだがな」


「あちらもそう思ってるだろうさ。うちの旦那様は底が知れんからな」


 妻であるアイリやミルテにはおれの能力は黙ってある。神の存在など口にできんし、万能変身能力と言っても理解できないだろうからな。


「──父さん」


 と、カナハから連絡が入る。


「どうした?」


「カイナーズの代表が会いたいって」


「わかった。こちらからいくと伝えてくれ」


 ちょっとエンタープライズに入りたいからよ。


「歓迎するって」


 話のわかるヤツがいるようだ。


「アイリ。二人つけていくぞ」


「了解」


 なんの躊躇いもなく返事するアイリに笑みが零れる。


「お前が横にいてくれて誇らしいよ」


「それはわたしのセリフだ。取らないでくれ」


「それはごめんよ」


 アイリの非難する顔に、おれは楽しそうに謝罪した。

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