第200話 四人の家臣

 人が集まれば性格が見えて来る。


 と、教えてくれたのはアイリの母、リサさんから教えてもらった言葉だ。


 まあ、前世の記憶が蘇ってみればそんなの当然だと思うが、傭兵団を纏めて来た者の言葉は重く受け止めるべきだろう。一家の主になった者としてはな。


 すぐに働きたいと名乗りを上げた者は三十二人。男が二十八人で女が四人だ。


 年齢は三十代が多いだろうか、十代は二人で、五十近いのもいる。


 五十歳に近い者は元兵士だろう。体つきはよく、厳つい顔をしているのがいい証拠だ。細いのは弾かれるからな。


 この中から直の配下を選ぶとしたら、三人……いや、四人か。となれば行動部隊が二つ。守りに一つ。予備に一つかな?


 考えが方がかなり軍隊よりだが、まず編成を組まなきゃ話にならない。落ちつくまではこれでやるしかないだろう。


「ゴウリ、ハルエ、ヨシハタ、カルハル、食事が終わったらおれのところに来てくれ。急がなくていいからな」


 と言ったのに、四人はすぐにやって来た。


「ご苦労」


 生きるか死ぬか、自分や家族を守るためにも雇い主に気に入られようとするもの。おれだって必要ならそのくらいはする。なので、彼らの行動になにも言わず、報いる言葉を発した。


「お前たちを頭に組を四つ作る。やるか?」


 聞くまでもないが、一応、な。嫌々やられても困るからよ。


「やります!」


 ヨシハタが間髪いれず承諾。残り三人もやりますと承諾した。


「なら、今このときから望月家組頭とする。給金は一日銀銭一枚。飯は支給。今後の働き次第では給金を上げていくのでしっかりと励め」


 銀銭一枚でも破格だが、今の望月家は人材不足。優秀な人材にはそれ相応の給金を払って逃さないようにするのだ。


「「「「はい!」」」」


 うむ。いい人材を手に入れた感じがして嬉しいね。


「ヨシハタは、兵士か?」


 三十代にしてはガタイがよく、目が鋭い。戦争時代なら特攻隊に選ばれてるだろうよ。


「はい。兵士でした。ですが、町長も兵団長も亡くなり、指揮する者がいなくなりました」


 町の兵士は町に雇われ兵士で国の兵士ではない。給金が払われなければ続ける義務はない。


「階級は?」


「小長です」


 小隊長か。年齢からもっと上でもいいんだがな?


「わかった。ヨシハタは、十人選んで町へ出て死体を処理してくれ。これを」


 パワースーツをヨシハタに纏わせる。


「こ、これは!?」


 一瞬で纏わったパワースーツに驚いている。


「それを着ていれば大人四人まで持ち上げられる。使い方は、どうだ?」


 難しい機能はつけてないので一瞬で情報を与えられた。


「は、はい。わかります……」


「では、十人選んで町に出てくれ。あ、家族がいるなら港に向かわせろ。望月家の船が来るから家族はそちらで保護する」


 拠点は山梔子くちなしに移したほうが便利だからな。


「はい。ありがとうございます」


 一礼してヨシハタが選別に入った。


「ハルエ。お前は傭兵か?」


 三十半ばに見えるハルエは、ヨシハタと同じ体格をしており、腰に山刀を差していた。


「元、傭兵です。銅鑼どうら町が壊滅するまでは牧場で用心棒してました」


 元傭兵とは言え、女の身では大変だっただろうよ。帰れる村があったおれですら大変だったんだからな。


「わかった。お前も十人選んで町に向かえ。瓦礫を撤去して道を作れ」


 同じくパワースーツを纏わせる。


「あの、ここにいない者でもいいだろうか?」


「お前が選ぶならそれは望月家の家臣だ。ただし、なにかあればお前の責任にもなるからな」


 もちろん、任せたオレも責任は取るさ。部下に押しつけるなど最低の主だからな。


「わかった。責任は取る」


 頭を下げて、避難民の元へ駆けていった。


「ゴウリはなにをしていた?」


 四十歳くらいだが、体格はよい。気配から兵士や傭兵ではないな。町のオヤジって感じだ。


「いえ、小さな飯屋を営んでました」


 ほぉう。飯屋とな。それはいい人材が来てくれたぜ。


「料理ができるヤツに伝はあるか?」


「飯屋通りの仲間がいます。誘えば来てくれるかと」


「人数は問わない。集められるだけ集めてくれ。家族の安全は望月家が持つ。港へ連れていけ」


 同じくパワースーツを与え、食料や食材を出せるようにする。


「港での炊き出しを頼む」


 出せるだけの機能なので情報力は大したことはない。なので、一瞬で使い方を理解できただろう。


「わかりました」


 軽くお辞儀してこちらを見る集団に駆けていった。


「カルハルは、裏もんか?」


 明らかに堅気ではない風貌と雰囲気を纏わせていた。


「へい。花町で働いてました」


 ああ。その類いか。


「花町で生き残った者はいるのか?」 


 銅羅町には何度か来たことはあるが、花町を利用したことはないので、どう言うところかは知らないのだ。


「五十人もいやせん」


 花町の男らしく口数は少なく、余計なことは言わない。そんな場所で生きて来た男と言うのは掟に生きる。まあ、そうしないと生きられないと言うのが正しいがな。


 そこで生きてそこで死んでいく。堅気の世界では生きられない。だが、逆を言えば囲いを用意してやれば生きていけると言うことだ。


 この男は、囲いの中で生きながら生きるために囲いの外に出て来た。それはつまり、柔軟な思考ができると言うこと。もしかすると堅気だったこともあるのかもしれんな。


「望月家に花組を創ろうと思う。蝶であろうが望月家の家臣だ。粗末に扱うことはない。集めてくれ」


 パワースーツは与えず、金を大量に渡した。花町の掟を知ってる者なら金を上手に使ってくれるだろう。


「へい」


 短く答え、すぐに行動に移った。


 銅羅町の者にしたら災難なことだろうが、オレにしたら災い転じて福となった感じだ。


 不幸を笑う気はないが、不幸を精一杯活かしていこう。

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