第199話 大量雇用

 疲弊した銅鑼どうら町の者たちも光月こうづきの姿にざわついていた。


「これ以上いくのは無理だな」


 まだ元気なヤツらが集まって来て道を塞いでしまった。


「しょうがない。ここにするか」


 もう少し進みたかったが、無理に進んでも銅鑼どうら町のヤツらの反感を買うだけだしな。


「まずおれが出るから中にいてくれ」


「お気をつけて……」


 心配するミルテを安心させるように笑い、外へと出る。


「頼む! 食い物をわけてくれ!」


「お願い! 食べ物をください!」


「食い物をくれ!」


 わらわらと詰めよって来る銅鑼町の町民たち。やはり町の機能は働いてないようだ。


「騒ぐな!」


 万能さんの力を借りて大音量で一喝する。


 この時代で優しくなんて場を混乱させるだけ。力で黙らせる必要があるのだ。


「食い物はある! 食べさせてもやる! だが、騒ぐようなら拳で排除する! 用意するからそこを退け!」


 自動兵を作り出し、鎮圧用に従事させる。


 テニスコート一面分の土地を確保し、ドーム型に変身。車庫に炊事場、給水タンク、排水機構などを作り出す。そして、ポールを作り望月もちづき家の旗を掲げた。


 ドームを解き、光月こうづきを自動で操作して車庫に入れ、ミルテたちに出るよう指示を出す。


「器具の扱い方はミルテたちのスーツに教えた。確認しながら雑炊を作ってくれ」


「はい、わかりました。皆さん、やりますよ」


 女主として認められるようで、女中たちは素直に従っている。まあ、タマエが仕込んだんだろうが、それでもミルテはよくやっている。


 なんて妻の成長を涙ぐんでいる場合ではない。おれも夫として頑張らねばな。


 集まる人々の前に威圧するように立ち、臆することなく睥睨する。


「おれは、望月もちづきタカオサ! 三賀町町長より銅鑼どうら町の様子を見て来るよう依頼を受けて来た! 助ける義理も義務もないが、見捨てるは人の道に外れる。人の道に則り人を助ける! 獣を助ける気はない! 我は人だと言うのなら秩序を持って証明しろ! 獣は容赦なく排除する!」


 これは恩を売るのではない。名を売るためのもの。その心に望月もちづきの名が刻まれるのならどう思われても結構だ。


「人の秩序を守りたいと言う者は手を挙げろ! 望月家が雇い入れる。ただし、望月もちづき家の家訓に従ってもらう! 破る者に容赦はせん! だが、守る者は厚く優遇する。その家族もだ!」


 崩壊した町なら勧誘しても文句は言われまい。仮に言われたとしても勧誘した者は嫌悪し、反抗するだけだ。こちらに損はない。するなら切ればいいのだからな。


「おれを雇ってくれ! あんたに従うから!」


「おれも! 従うから雇ってくれ!」


「あたしもお願いするよ!」


 あちらこちらで手を挙げる町民──いや、望月家の家臣たち。頼もしい限りである。


「忘れるな! 望月もちづき家に獣はいらない! 人モドキもいらない! 人だけを家臣とする! 秩序をよしとする! 乱す者は家臣にあらず! それを受け入れる者はこれを腕に嵌めろ!」


 万能さんによる識別で、手を挙げた者たちの腕にブレスレットを装着させる。


「腕にしたものは望月もちづき家家臣とする。そこに名前を告げろ。そして以後、家臣は受けつけない」 


 まずはここにいる家臣の掌握をしなくちゃならん。それが終わってから考えよう。


「家臣になった者は秩序よく線に沿って並べ! 獣は排除するぞ!」


 線を描き、人らしく秩序よく並ぶかを観察する。


 最初は戸惑いを見せたものの、理解力の早い者が並ぶとそれに釣られて並び出した。が、やはり獣は混ざっているようで、割り込みだ怒鳴るだと秩序を乱している。


 ブレスレットを強制的に縮める。


「ギャアァァァッ!」


 痛みに耐えられず地面に倒れる獣ども。いい見せしめだ。


「お前らに望月の下には置けん。去れ!」


 自動兵を向かわせ列から排除する。


 それでうちのやり方を理解したのだろう、家臣たちや町民たちが静かになった。


 先頭になった男の元へ向かい、食料が入った袋を作って渡した。


「まずは体と心を癒やせ。三日後に連絡する。もし、今からでも家臣として働きたいと言うのなら今日から賃金と食料を渡そう」


 そう告げると三十人くらい志願して来た。


 やる気があるならと、食料袋を渡すのを任せ、おれは作るのに専念する。


 家臣にしたのは総勢二百四人。家族を混ぜれば軽く三倍になるだろう。


 もう、町制圧って言っても過言ではないな。


「旦那様。雑炊ができました」


「わかった。ありがとな」


 抱き締めてキスでもしたいところだが、人前なので自重します。


「これから雑炊を配る。やるのはうちの嫁が仕切るからお前たちは食事をしてくれ」


 頼むなとミルテたちに任せ、家臣用に作らせていた雑炊を配ってやる。


「よく食えよ。まだ働いてもらうんだからな」


「はい!」


 働くことに希望を持ったのか、誰もがいい顔をしていた。


 ああ。いい顔で働いてくれ。望月家のために、な。

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