第195話 鬼が出るか蛇が出るか

 まずは、飯場を建てる場所の整地だな。


 整地する分を包むように立方体に変身。万能空間となったことで荒れた大地を整地し、強度を高める。


 立方体を解いたら飯場に変身。器だけ残して外に出る。


「大工職人の立つ瀬がないな」


 それでもやらねばならんのだから気にするな、だ。


「管理する者をどうするかだな?」


 なんて作ってみたものの、人手がいないのだから今は無用の長物。今はおれらの休憩所として使うとしよう。


 次は港を作るか。と、海に飛び込む。


 山梔子くちなしが入港するには五メートルは深くないとならない。が、いずれは潜水艦も作りたいので十五メートルは欲しいな。


 って、浅いな、ここ。三メートルもないぞ。


 どうも三賀さんが町周辺は遠浅なようで、一番深いところに港や町ができた感じだ。


 しょうがない。掘り進めるか。


 水中ブルドーザー! なんてもんはないが、万能さんにかかれば問題なし。


 万能スーツを巨大化。二十メートルくらいになり、スコップで掘っていく。


 掘った土や岩、海草などは万能ボックス水上船に入れて遠くに捨てにいってもらう。


 で、開始して一時間。これ、ちょっと非効率じゃね? と気づきました。そして、目立つなとも気がつきました。


 力を出し惜しみする気はないが、無駄に騒ぎを起こすのはイカンやろ。前世の記憶があるなら根回しは大事と知ってるだろうが。


「父さん。兵士が来たよ。なにしてんだって」


 見れば三十人ほどの兵士が来ていた。


「わかった。今いく」


 万能スーツを小さくし、通常服になって兵士の元へと向かった。


「どうも。この土地を所有している望月タカオサです」


「三賀町兵団第二守備隊のバンズだ。いったいあの巨人はなんなのだ!?」


 まあ、そう言いたくなる気持ちはよくわかります。おれだってウルトラな男が現れたらパニックにもなるわ。スゲーとは素直に喜べんよ。


「大陸の魔術ですよ」


 魔法の言葉。大陸の魔術。ではさすがに納得はしてくれないか。こりゃ町長に説明にいかんとならんな。


「町長からおれの名は聞いてますか?」


「あ、ああ。一応はな」


「では、望月もちづきタカオサが会いたいとお伝え願いますか? 事情を説明したいので」


 命令がいき届いているかはわからんが、町長を持ち出せば無下にはできんだろうし、文句も言えんだろう。


「わ、わかった。伝えよう」


 できる町長はなにかと助かる。


 あちも都合があるので、バンズさんに取り次ぎを頼んだ。


 兵士たちが下がり、港作りに……は移れんか。なら、飯場周りを整えるか。


 ビームソードで雑木を刈っていく。


 地道に雑木を刈り、刈った雑木は万能空間に移して肥料へと変換。ハルナの地下へと移す。


 二時間ほどやると昼になり、飯場で昼飯とする。


「カナハ、食べたいものあるか?」


「カレーがいい」


 ハルナが来てから我が家の食卓は前世と同じくらい豊かになり、なぜかカレーの頻度が高くなった。


「お前、カレー好きだな」


「甘いのが好き」


 カレーは甘いものじゃないんだが、うちの食卓はそれぞれの好みに合わせて出される。


 万能さんクッキング~! で、できあがり。カナハにはサラダとスープをつけ、おれはビールをつけていただきます。


 望月もちづき家のカレーは具だくさん。おれとしてはカツも含めて欲しいが、食に口を出さないのが家庭円満の秘訣、と前世で先輩から聞いたことがある。


 夫婦円満な先輩が言うのだから間違いない。先人に従え、である。


 食後のデザート(カナハはパフェ。おれば冷凍ミカン)を食べ、腹が落ち着いたら仕事再開である。


 さあ、午後も働きますか、と外に出たら兵士が二人、こちらに駆けて来るのがわかった。


 ……なにか、慌ててる感じだな……。


「また、厄介事か?」


 そんな勘が正しいことを証明するかのようにハハルから連絡が入る。


「父さん。また人買いが来たよ。今度は大人を連れて」


 人買いが売るのは子どもだ。大人が売られることはまずない。魔物の襲撃で壊滅しない限りは、な……。


「タカオサ殿。町長がすぐに会いたいとのことです。ご同行、お願いします」


 一難去ってまた一難。三賀町が呪われてるのか、それともおれが呪われてるのか、力を持つ者には厄介事がよって来るってのは本当だな。


 逃げたいところだが、力を望んだのはおれ。容赦なく使うと決めたのもおれ。世界を変えたいのなら迎え撃て、だ。


「わかりました。同行します」


 さあ、鬼が出るか蛇が出るか。なんでもかかって来いだ。

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