第191話 父親として
娘との狩りは夜まで続き、帰るのも面倒なのでキャンプすることにした。
魔境でキャンプなど自殺に等しいが、万能さんにかかれば難攻不落のテントだって作れちゃうし、八体の自動兵が守っているので快適に過ごせられるのだ。
「夜もいっぱいいるんだね」
ココアを飲むカナハが外から聞こえて来る戦闘音に、関心があるんだかないんだかわからない声で呟いた。
「そうだな。強くても知恵のない生き物は早死にするいい例だ」
なんて適当なことを返しておく。
「そう言えば、カナハと二人っきりは久しぶりだな」
前は米を届けに来てくれたり、様子を見に来てくれたりもしたっけ。二ヶ月前なのに遠くに感じるぜ。
「うん」
素っ気ないながらも同意してくれる。
まったく、おっさんに年頃の女の子を相手にするのは拷問と同じなんだからな……。
「気になるか、あの娘のこと?」
と言うよりはあの娘に対するおれの態度、だろうけどな。
「うん」
「そっか」
拗ねるように俯くカナハは、おれの膝へと倒れ込んで来た。
こんなおっさんの膝のなにがいいのかわからんが、カナハは甘えたいときはよく膝枕を求めて来るのだ。
これも娘孝行と、カナハの頭を撫でてやると、なんとも気持ちよさそうな顔をする。可愛いヤツめ。
「昼会った娘な、あれはおれの娘だ」
DNA検査したわけじゃないが、おれの直感は娘だと断言している。なら、おれは素直に受け入れるだけだ。
「……なんとなく、そうだと思った。父さんに似てたから……」
「おれに似てるならカナハにも似てることになるな」
実の親もおれに似ていると言っていたからな。まあ、たぶん、中身を言ってたんだろうけどよ。
「あたし、父さんに似てる?」
「まあ、男と女の違いはあるが、根本的なところは似てるな」
「どんなとこ?」
「諦めの悪いとことか特に似てると思う」
「……そうかな。あたし、諦めてたよ……」
おれと出会う前はそうだったのだろう。
「だが、おれを見て変わっただろう。なにかを感じたからおれのところに来たんだろう。そう言う勝機を嗅ぎ分けるところもそっくりだ」
それと、思い立ったが吉日なところも、な。
「あたしもあの人みたくなれるかな?」
直感力かそれとも血か。あの娘からなにかを感じ取ったようだ。
「そこは、なれるじゃなくて追い越せるかな、と言え。お前らしくないぞ」
ゼルフィング商会やカイナーズの支援の元、あらゆる優遇を受けて来たことはわかる。年齢的差もあるだろう。アドバンテージはあちらが上だ。だが、お前だって負けてはいないんだからな。
「……超えられる……?」
「できるさ。なんたってカナハはおれの娘なんだからな」
お前にはおれがついている。ゼルフィング商会やカイナーズに負けない力を持っている。なにより、家族がついているんだ、超えられないわけがないだろう。
「……うん……」
嬉しそうに笑うカナハ。可愛いヤツめ。
「父さん一人占め」
なんて、腹に抱きついて来た。
「ああ。今日はカナハに一人占めされちゃうよ」
父親の夢、かどうかはわからんし、よさもわからんが、親子のスキンシップができると言うことがなにより幸せだとはわかる。
「カナハ。一緒に風呂に入るか?」
思えば嫁たちと風呂には一緒に入ったが、子どもたちと一緒に入ったことはなかったな。
まあ、ハハルは嫌がるだろうが、今度家族全員と風呂に入ろう。家族風呂だ。
でも今日らカナハとだ──って、カナハも年頃だった! 子どもとしてか見てなかったからつい言っちゃったわ!
……き、キモいと思われちゃったか……?
じっとこちらを見るカナハに冷や汗が出る。
「うん! 入る!」
よ、よかったぁ~。キモいとか言われたらさすがに凹んだわ。
「せっかくだから眺めのいいところに風呂を作るか」
山の中腹にテントを張ったが、木々が邪魔で景色はよくない。町の光がないのだから星見風呂と洒落込もうじゃないか。
「うん!」
娘とのスキンシップを邪魔されたくないので自動兵を増やし、邪魔者を静かに排除してもらおう。
「んじゃ、山の頂上へといくか」
山のテッペンで風呂ってのも洒落てるぜ。
ゆっくりした服に着替えたので、お互いスーツを纏う。
「じゃあ、頂上まで競争だ」
「負けない!」
フフ。こう言う負けず嫌いなカナハが一番可愛いな。
用意ドンで頂上目がけて駆け出した。
もちろん、父親の威厳のために負けは許されない。悔しがるカナハを宥めながらいい感じの露天風呂を作り、お互い裸になって湯へと飛び込んだ。
「いい湯だな」
「うん」
肩を並べ、満天の星を眺めながら親子の愛情を深めあいました。もちろん、健全に、だよ。
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