第190話 娘には甘い

「……父さん……」


 カナハの声で我に返る。


 いかんいかん。あまりのことに我を失ってしまった。


「すまない。おれは望月もちづきタカオサ。こっちは娘のカナハだ」


「親子で狩りか、仲いいんだね」


 なんかトンチンカンな答えだが、仲良く狩りをしていたのは事実なので軽く流しておこう。


「ああ。そちらは、なにをしているんだ? こんな山奥で」


 山奥は空を飛ぶのも危険なところだ。大魔鳥に空クラゲ、浮き岩がたくさんあるからだ。噂によれば龍もいるとか。もう魔境と言ってもいいところなのだ。


「いやぁ~ちょっと迷っちゃって。サンガーって町って知ってます?」


 サンガー? 三賀町のことか? なんかイントネーションが……あ。あれ? 今さらながらにしてなんで言葉が通じているんだ?


 島語と大陸語は別なものだ。オン商会のリュウランさんやサイレイトさんは島語を話していた。


 だが、このルヴィレイトゥールは……うん? 何語をしゃべってんだ? 島語とも大陸語とも違うのに、なぜか島語として聞こえる。なんだ、この謎現象は?


「どうかしました?」


「あ、いや、言葉が変に聞こえたもんで……」


「あれ? 首飾り壊れた?」


 飾りと言いながらなんともシンプルな首にしてるネックレスを外し、いろんな角度から見ている。


「……魔道具、か……?」


 確か前に、言葉を訳すものがあると聞いたことがある。


「そそ。自動翻訳の首飾りなんだ。よく知ってるね」


「以前、聞いたことがあるんでな」


「おー。隔絶したところだって聞いてたけど、知ってる人は知ってるんだね」


 どうじない娘だ。母親似だな……。


「それで、三賀の町って知ってる?」


 ネタがわかれば万能さんの出番。自動翻訳の首飾りを解析して似たように自動翻訳してくれるのです。


「ああ。方角としてはあっちだ。距離は八十キロほどだな」


 三賀町さんがまちのほうを指を差す。


「あー。結構近かったんだ。わたしやるじゃん」


 方向音痴にしたら八十キロは誤差感覚なんだ。


「ゼルフィング、と言ったが、ゼルフィング商会のサイレイトさんに会いに来たのか?」


 ちょっと鎌をかけてみる。


「サイレイトさん知ってるの?」


「商売相手だ。よくしてもらってる」


「へー。それは奇遇~。って、わたし、サイレイトさんは名前しか知らないんだけどね。ゼルフィング商会、人いっぱいいるから」


 まあ、世界規模の商会。ゼルフィングの名を持っていても全員を知っているわけないか。


「でも、サイレイトさんは知ってるんだろう? ゼルフィングのお嬢さんなんだから」


「どうだろ? わたし、ゼルフィングとは名乗ってるけど商会の仕事してないし、ほとんど姉様といるからな~」


 姉様? 母親はどうした? 


「まあ、あんなものに乗ってればゼルフィングの者だとわかるだろうさ」


 わからなかったらサイレイトさんの頭を疑うわ。


「とは言え、あんなもので乗りつけたら大騒ぎなるし、降りるところもない。どうしようとしてたんだ?」


「人のいないところに降りて探そうと思ってた」


 雑なところも母親似か。ダメなところばかり似てるな。大丈夫か?


「つまり、行き当たりばったりってことか」


「臨機応変よ」


 ……血とは怖いな。同じことをやり取りした記憶があるぜ……。


「なら、案内するよ。サイレイトさんが可哀想だからな」


 こんな行き当たりばったりの娘を面倒みなくちゃならないサイレイトさんが哀れすぎる。父親──と名乗る資格もないが、責任は取らないといかんからな。


「娘さんに悪いよ。せっかく父親と楽しんでるのに」


 見れば不満そうな顔をしている。こちらの娘も困ったもんだ。


「大丈夫。案内するのはあれだ」


 密かに呼び寄せたスカイラプターを指差した。


「なにあれ? カッコイイ!」


 バルキリアアクティーに乗って、あんな化け物と戦うのだから普通の女の感覚はないとわかるが、ルヴィレイトゥールの性格や性質は戦闘系に傾いているようだ。


 ……お互いのダメなところが混ざったらこんな娘ができちゃいました、って感じだな……。


 まあ、本人にしたら親のいいとこ取りしたと思ってるかもな。この顔をするならな。


「あれはスカイラプター。自動飛行でサイレイトさんのところに案内するよ」


「自動飛行とかできるんだ。乗ってみたな~」


「乗りたいのなら乗っても構わないよ。サイレイトさんにスーツを作ってもらってスカイラプターに乗れば操縦法を学べるから」


「いいの!? 機密じゃないの?!」


「操縦したくらいでバレる作りじゃないから問題ない。もっとも、操縦法を知ったくらいで飛べるとは限らないがな」


 少し挑発するように言うと、なんとも嬉しそうに笑った。


「フフ。わたしに飛ばせない飛行機はないわ。自由自在に飛ばしてみせるんだから!」


 そう宣言すると、バルキリアアクティーに駆けていき、乗り込んで空へ飛び立っていった。


「……ほんと、似たもの親子だ……」


 あとはスカイラプターに任せ、大事な娘へと振り向く。


「さあ、カナハ。狩りを続けるぞ」


 暗くなるまでまだ時間はある。いっぱい狩るぞ。


「……うん!」


 なんにか一拍遅れて嬉しそうに返事をしたが、それを追求することはせず、神無月かんなづきを構え、四つの首を持つ大蛇に向けて吸魔弾を放った。

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