第189話 ルヴィレイトゥール

 ──バルキリアアクティー。


 その名を聞いたのは、確か兵士時代。大戦後だから十七歳か? いろいろ激動の時代だからよくは覚えてなかったりする。


 大戦が終わっても混乱は続いており、治安維持や残敵退治で各地を転々としていた。


 徴兵され、まだ十七歳だったが、レベルアップ能力のお陰か、並の兵士くらいには戦闘能力があり、すばしっこいから索敵隊に入れられていたのだ。


 細かいことはもう忘れたが、どこかの村に敵がいるとかで、おれたちの隊が探りに出ることとなった。


 前世のような洗練された技能も決まりもなく、各自にいって調べて来いと言う雑なもの。装備だって山刀一つにボロボロの服と底の薄い靴のみと、当時でもふざけてると思ったものだ。


 道なき道を進み、敵がいると思わしき村に到着すると、そこは火の海だった。


 なにがなんだかわからず、これはヤバイと即逃げ出した──その直後、悲鳴があちらこちらから上がった。


 仲間だ、とは理解したが、確かめる気にはなれず、一目散に部隊が駐屯している場所へと駆けた。


 危険な気配に追われ、なんとか駐屯地へ到着。安心して倒れてしまった。


 だが、危険な気配はすぐ追いついた。


 駐屯地がいきなり爆発し、おれは吹き飛ばされた。


 なんの幸運か、そこは草むらで怪我はなく、気絶することもなかった。


 すぐに起き上がって見たのは化け物だった。


 どんな姿だったかは記憶にない。なにか巨大なもので、炎を吐くと言う記憶だけだ。


 だが、前世の記憶が蘇り、似たような体験をし、バルキリアアクティーを見て思い出した。


 ……あのときも同じのが現れていたのか……。


 巨大なものが暴れていると、空から青い光が巨大なものに襲いかかった。


 爆発に次ぐ爆発に吹き飛ばされ、意識が飛びそうになる。


 なんとか堪えてなにが起きているか確かめると、巨大なものと巨大な人が戦っていた。


 わけがわからないに尽きた。


 戦いは熾烈だが、巨人のほうは格闘が不慣れなのか、思うように攻撃ができてない。徐々に押されていき、腕をもがれてしまった。


 そこから一方的に攻撃。脚を、腕を斬り裂かれ、頭を潰されてしまった。


 負けた! と思った瞬間、巨人の胸が吹き飛び、中から人が出て来た。


 ──女!?


 体格からして女だと思われた。


 その女は怪我をしていて動きが鈍い。と、判断したらなぜかおれは駆け出していた。


 巨大なものの脚を必死に躱しながら女の元へ駆け抜け、崩れ落ちた女を抱えて逃げ出した。


 山の中へと逃げ込むと、凄まじい爆発が起こり、意識ともども吹き飛ばされてしまった。


 意識を取り戻したら辺りは暗くなっており、焦げた臭いに満ちていた。


 なにが起こったかわからずしばらく茫然としていたが、女のうめき声で思い出した。


 女は頭すべてを覆うものを被っており、なんとか外すと、おれくらいの年齢で、青色の髪をしていた。


 そう。長いこと忘れいたが、彼女はレニス。ハンターだと名乗り、祖父に強制的に旅に出されたと言っていた。


 それからしばらくおれは彼女と過ごし、巨大なものを倒すべく一緒に共闘。なんとか倒したのだった。


 彼女、レニスは本当に自由な女だった。


 今ならわかる。あの頃のおれはレニスに惹かれ、レニスもおれに惹かれていたと。


 でも、レニスは旅立ってしまった。自由を求めて。


 悲しかったが、一緒になれるわけもないと、笑顔で見送った。


 それから兵士に戻り、生きるために必死で日々を過ごす間にレニスのことも忘れていき、今日の今日まで忘れていた。バルキリアアクティーを見るまでは……。


 あの頃の動きとはまるで別人だ。流れるように巨大なものをビームライフルで撃ち殺していく。


「……レニス……」


 動きは洗練だが、戦い方はレニスと似ていた。


 戦いは十分もかからずバルキリアアクティーが勝利した。


 しばし、勝利の余韻を感じたなのち、バルキリアアクティーがこちらを向いた。


 と、胸が開き、なにか未来的なパイロットスーツを着た女が現れた。


 パイロットスーツの女は地面に降りると、こちらに向かって来る。


「……父さん……」


「大丈夫だ」


 カナハを安心させてやるために背後へと回した。


 女はあと三メートルと言うところで止まり、ヘルメットを外した。


 緑の瞳に黒い髪。年齢は二十歳くらいだろうか。西洋と東洋のハーフと言った感じだ。


「どうも。わたし、ルヴィレイトゥール・ゼルフィングって言います」


 理屈じゃない。だが、確信できた。


 この子は、おれとレニスとの娘だと……。

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