第183話 夫たる資格

「カイナーズとは何度も戦ったわ」


 落ち着いたハルナがそう口にした。


 最初は戦艦の姿で。二度目は潜水艦で。それから勝ったり負けたりと。そして、最終決戦は宇宙へ。


 死闘の末、ハルナを使っていたものは宇宙戦艦とともに爆死。解放されたハルナは地上へと落ちて来たと言うわけだ。


 まあ、ハルナの語ったことは二時間にも及んだが、それはまた別のお話。いろいろあるのでここでは省かせてもらいます。


「……そうか。辛かったな……」


 涙を流すハルナを強く抱き締める。


 意識が覚醒するのは持ち手が願ったとき。だが、自由に動けない。ただ、持ち手がやることを見てるだけ。想像絶する思いだろう。よく気が狂わなかったと感心するぜ。


「……うん……」


 多少なりと自分の中で見切りをつけたのか、そう苦悩は見せていなかった。


 それでも抱き締めるのは止めず、一緒にいる心強さを体に教える。


「……ありがとね……」


「こちらこそありがとな。ハルナがいてくれるお陰でおれは自分を貫ける。これからもおれを助けてくれ」


 無限の魔力ではなく、ハルナの存在がおれに力を与えてくれるのだ。


「うん。旦那様」


 返事とともにハルナの腕に力が入り、おれを抱き締めてくれた。


 嫁と言うものはありがたい。と同時に申し訳ないとも思ってしまう。


 前世の記憶があるからか、それとも性格かはわからないが、嫁を三人持つことに罪悪感に身を焦がしてしまうのだ。


 まあ、今生の記憶もあるから挫けることもないし、三人も納得してくれてるが、嫁からの愛を感じてしまうとちょっとばかり凹むんだよ……。


 しばし、ハルナの温もりと愛情をたっぷり補給し、本題に入る。


「しかし、カイナーズは宇宙までいけて、ハルナを倒すだけの力があるのか。どんだけチートなのが集まってんだ?」


 少なくともゼルフィン商会の頭はチートだろう。でなきゃ、こんな辺境の地まで名が轟って来ることはねーよ。


「たぶん、四人以上は集まっていると思うよ。カイナーズ、ゼルフィング商会、アニメの中の潜水艦や宇宙戦艦を持つ者、それを支える者。あと、まだ何人かいそうな感じはするけど、脅威なのは四人ね」


 四人かよ。最低でもおれたちの倍はいるのか。前途多難だな。いや、まだ敵になるとは限らないけどよ。


「カイナーズは、ハルナの存在を知って来たと思うか?」


「わからない。けど、タカオサ殿を確認しに来たのは間違いないと思う。あれだけのものを作り出すなんて転生者くらいだから……」


 だな。他にいたらこの世はいろいろ間違ってるわ。


「そうなると、会わないわけにはいかないか」


 無視を決め込むのも悪手だろう。あちらの情報が手に入らなくなるし、無駄に用心されてしまう。


 力を得るまではよき隣人でいなければならない。ならば、付き合いは絶やさないことだ。


「あちらが接触して来るまでは家を纏めるか」


「そうだね。地下農場とか武器とか増やさないとならないしね」


「ああ。そうしてくれ。なるべく弱味は見せたくないからな」


 おれの能力とハルナの能力があるば大抵のことはできるが、あちらはチート能力者が四人以上いるのだ、地力の差がありすぎる。


 まずは、望月もちづき家の、屋敷の強化。侵入されないようしなくてはならんだろう。


「ハルナ。急ぐことはないが、万が一のときのために逃亡できる手段と拠点を作っておいてくれ。最悪は避けたいからな」


 何事も早め早めに動いたヤツが勝つもの(たぶん)。備えあれば憂いなし、だ。


「わかった。カイナーズより凄いのを作るよ。魔力は無限にあるんだからね」


「ああ。頼りにしてる」


 頼もしきは嫁の支え。おれは嫁運に恵まれてるんだな。フフ。


「せっかくだし、地下農場を見ていくか。ハルナ。頼む」 


 と言うのは建前で、今日はハルナの側にいるためだ。


 今は笑顔を見せているが、まだ不安が残っているはずだ。夫となったなら嫁の心も守らなくてはならない。できないでは夫たる資格なない。


「うん」


 と、愛らしく笑うハルナ。今日の夜はたくさん愛し合おう。

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