第181話 アルフリード艦隊

 偵察ドローンのカメラを通してカイナーズの艦隊を見る。


 ……カイナーズの転生者はメチャクチャだな……。


 ハルナの魔力でこの艦隊を作ろうとしたら二千億は軽くかかるだろう。どんな願いをすればこれだけのことが可能なんだ? 意味わからんわ。


 艦隊まで千メートル。サイズ的にレーダーに捉えられるかわからんので点滅開始。気がついてくれよ。


 ゆっくりと接近し、五百メートル内に入ると、艦内から人が、いや、魔族が出て来た。


 ……魔族と言ってもいろんなタイプがいるんだな……。


 鬼だったり肌が青かったり白かったり、半人半獣だったりと、魔族と一括りにはできないものだった。


 幾人(?)かが狙撃銃を構えるのが見えたが、撃つ気配はない。警戒しているだけだ。


 二百メートルに達すると、空母から照明弾らしきものが上がった。


 その意味はわからないが、まあ、こちらに来いと解釈して偵察ドローンを向かわせる。


 空母の甲板にはたくさんの魔族が出ており、作業着や軍服の中に、艦隊司令官っぽい制服を着た一団がいた。


 まあ、艦隊司令官かはともかくとして、制服を着ているなら高官だろうと、その一団の前に偵察ドローンを着艦させた。


 意識を山梔子くちなしの艦橋に戻す。


「サイラ。こちらの所属を告げてゼルフィング商会から通信具を届けたことを話してくれ」


 まだおれのことは隠しておきたい。用心のためにだ。


「こちらは望月もちづき家所属、戦艦山梔子。わたしは、艦長のサイラです。ゼルフィング商会から通信具を届けに参りました。艦隊代表に渡してください」


 結構アドリブが利くこと。将来が楽しみだ。


「こちらは、シーカイナーズ所属アルフリード艦隊。艦隊司令のアルフリードと申します。詳しい説明を求めたい」


 サイラに返答を教える。


「まずはゼルフィング商会、サイレイト殿と話をつけていただきたい。不要な争いを避けるために」


 通信を切り、アルフリード司令が偵察ドローンから通信具を取るのを確認してから帰還させる。


「サイラ。山梔子くちなしを月島つきしまに戻して、周辺の警戒に当たってくれ。指揮はアイリに任せる。なにかあれば指示に従え」


「了解です!」


 サイラの敬礼に頷き、意識を肉体に戻した。


「カナハはそのままカイナーズを監視しててくれ。もし、気がつかれたら逃げろ。不可能なら捕まって情報収集だ」


 ステルスにはしてあるが、相手はカイナーズ。油断はできないし、戦いにもしたくない。穏便に済ませたいのだ。


「わかった」


 いい子だ。頼むぞ。


「アイリ。あとは頼む。おれは館に戻るから」


 たぶん、サイレイトさんから連絡があるはず。通信具を通してより面と向かってのほうが話が進めやすいだろうよ。


「了解。任せろ」


 嫁とは本当に頼もしい存在である。


 シュンパネを使い館へ瞬間移動。まあ、正確には館門の前だが、結構融通は利かんよな、これ。館の中とか密封空間にまで運んでくれるのならもっと使い道はあるのによ。


 館門の前には、門番の女の子が二人立っていた。


 まあ、門番と言っても外敵から守るためのものではなく、今は連絡役みたいなもの。形だけだ。


「「お帰りなさいませ、お館様」」


 仕事としては形ばかりのものだが、礼儀は仕込まれているようで、しっかりと形になっていた。


「ただいま。ミルテに帰った来たことを伝えてくれ」


「はい。畏まりました。ヨシ。来てください」


 と、門番の子が通信インカムで伝令役の子を呼ぶと、壁沿いに建てた待機室から出て来た。


「ヨシ。ミルテ奥様にお館様が帰って来たことを伝えてください」


「はい、わかりました」


 一礼して館の中へと駆けていった。


 これ必要か? と問われたら必要ではないと答えるが、まだ十歳未満の子を教育するには手頃のプログラムだろう。今は、だけどよ。


 玄関まで移動し、ミルテが来るのを待つ。


 堅苦しいが、たくさんの家臣を抱えるには主としての威厳と自分たちの立場を教えなければいけない、とタマエ(元世話婆)が言うので始めたのだ。


 しばらくしてミルテとサアマ、二人の女中見習いの女の子が現れた。


「お帰りなさいませ、旦那様」


 ミルテが言葉を発し、残りは一礼した。


「ただいま。長々と家を留守にして悪かったな」


「いいえ。旦那様が忙しいのはわかっていますから」


 優しく笑顔を見せてくれるミルテ。おれ、もうすぐ死ぬのかな? と思ってしまうくらい幸福に満たされた。


「ありがとう」


 この幸福を表現したくてミルテの頬にキスをした。


「だ、旦那様?!」


 赤くなるミルテがなんとも愛らしい。このまま──はまずいので万能さんに興奮を抑えてもらった。


「悪い悪い。つい我慢できなくてな」


「皆が見てる前では困ります……」


「ああ。自重するよ。すまないが、いつでも宿が使えるように整えていてくれ。もしかすると客を招くかもしれんのでな」


「はい。わかりました」


「おれはハルナのところにいるんで、なにかあれば連絡してくれ」


 そう言ってハルナの元へ向かった。これからのことを話し合うために。

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