第180話 コーヒーカップ
輸送機製造工場にいるサイレイトさんに通信を繋ぐ。
呼び出し音が四回鳴り、サイレイトさんが出た。忙しかったか?
「タカオサさんで?」
あちらには番号しか出ないのによくわかったもんだ。いや、000だからおれしかいないか。
「はい。タカオサです。お忙しいところ申し訳ありません。少々問題が起こりまして、サイレイトさんの力をお借りしたいのですが」
「わたしの、ですか?」
「はい。単刀直入に言いまして、海上でカイナーズと思われる船団と遭遇しました。サイレイトさんは、カイナーズと繋がりはあったりしますか?」
この時期にカイナーズが来ること自体怪しい。あれは傭兵集団。戦がなければ米の収穫時期に来るくらいだ。
「もう来たのか。相変わらず行動が早い」
と言うことはカイナーズと連絡を取り合っているってことだ。まあ、シュンパネがあるんだから不思議ではないか。
「失礼。カイナーズからはなにか接触はありましたか?」
「あるにはありましたが、それがどう言う接触だったのかはわかりません。通信法が違いますので」
狼煙にしたってなんだって、取り決めしてなければ意味はない。下手にやっては相手を警戒させるだけだ。
「そうでしたね。なんでもありだから可能だと思ってました」
やってやれないことはないが、どこの誰ともわからない者からの通信なんて怖くてしょうがないわ。前世でもおれは登録されてない電話には出ない主義だ。
……市街局番なら出たけどな。保険絡みは携帯だったり固定だったりするからな……。
「カイナーズはわたしが呼びました。輸送機を運んでもらうのにね」
そのための空母か。随分と大袈裟なことだ。
「取り決めなどはしているのですか?」
さすがにあの数を町には入れられんぞ。町がパニックになるわ。
それに、港の広さと深さを考えたら空母なんで絶対無理。駆逐艦でも接岸するのは厳しいだろうよ。
「着いたら連絡員が上陸してオン商会の伝で会おうとしていました。わたしが持っている魔道具では町中で通じるしか能力がありませんから」
やはりあるのか。まあ、転生者なら作らずにはいられないか。ないと本当に不便だからよ。
「では、三賀町に来るのですか?」
「ええ。まあ、さすがに港には入りませんよ。港から見えない位置で停泊して、小型船で上陸します」
その辺は理解してるのか。結構常識的なんだな。
「町には報告はしているのですか?」
「いえ、着いたら報告しようかと思いまして。いつ来るかわかりませんでしたので」
まあ、いくら前世の戦艦とは言え、巨大な海竜がいる世界。なに事もなくとはいかんだろうし、嵐なんかもある。スケジュール通り、とはいかんだろうよ。
「それならこちらから連絡しておきます。それと、カイナーズにおれたちのことは伝えているのですか?」
もちろん、伝えてはいるだろうが、
「はい。見知らぬものと遭遇したら高確率でタカオサさんに関係あるので攻撃はするなと伝えてあります」
……それで理解されてるおれってどうなんだろう……?
「それは助かります。ですが、なるべく早く連絡を取りたいのでご協力願えませんか? こちらも海での訓練があるので不測の事態は避けたいので」
あらぬ誤解で戦争とか目も当てられんよ。
「わかりました。と言いたいところですが、こちらにカイナーズと連絡を取れる手段がないんですよ。すみません」
おや。ゼルフィング商会やカイナーズでも自由に連絡を取り合うことはできないんだ。意外。
「では、連絡できる手段はこちらで用意するので、なにかサイレイトさんとわかるものをいただきたい。なにかありますか?」
なければサイレイトさん本人にでばってもらいますが。
「でしたら、旗を。ゼルフィング商会の旗を掲げてもらえれば大丈夫ですよ」
旗? なんの?
「コーヒーカップの旗を掲げていれば攻撃されることはありませんよ」
「コーヒーカップ、ですか?」
なんだそれ?
「はい。ゼルフィング商会の証です。まあ、いろいろ秘密があるので詳しくは言えませんが、黄色いコーヒーカップを掲げていればカイナーズはわたしからの接触だと理解してくれます」
断言するのか。ゼルフィング商会とカイナーズは相当深く繋がり合っているんだな。
「わかりました。それで接触してみます。あと、接触したらその通信具でもカイナーズと通信を可能とさせますので、仲介をお願いします」
「わかりました。待機しています」
「ありがとうございます。しばしお待ちください」
通信を切り、意識をサイラに向ける。
「サイラ。偵察ドローン一機飛ばして空母に飛ばしてくれ」
黄色いコーヒーカップが描かれた偵察ドローンを作り出し、通信具を載せた。
その情報はサイラにも回す。
「了解。カナ。四番にある偵察ドローンを発進させ、空母に飛ばして」
「了解。偵察ドローン、発進させます」
流れるように命令が飛び、これまた流れるように偵察ドローンが発進した。
いい感じに育っててなによりだ。
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