第179話 仲介役

 意識を山梔子くちなしに移したときには哨戒機の姿はなかった。


「……なんか妙なレーザーを照射されたな……」


 山梔子くちなしが感知した記録があった。


 万能さんも知らないレーザーだが、相手はこちらを認識し、距離を取ったのは間違いない。


「なんとも手際がいいこった」


 ……軍人だったヤツが転生したのか……?


「にしても、面倒なことだな」


「なにがでしょうか?」


 意識だけでは戸惑うだろうと、ホログラフィー的なかんじで姿を艦橋に表しているため、サイラも自然に問えるのだろう。


「知らないヤツと連絡取ることを考えてなかった」


 こちらの世界の船なら問答無用で近づき、これまた問答無用で乗り込むところだが、相手は前世の兵器を操る集団だ、問答無用で近づいたら問答無用で攻撃されるわ。


 まあ、無線を作り出せば交信もできようが、この時代に不似合いな不明艦からの通信に答えてくれるかもわからんし、こちらの能力をさらすのもしたくない。


「使者を出しては?」


 もっともな手段ではあるが、その使者になりそうな人材がうちにはいない。いや、ハハルならできそうだが、ハハルは望月もちづき家の最重要戦力。こんな危険なことには出したくない。


 なら、おれかと言えば、それもまた危険だ。おれの命が、ではなく、相手を刺激させるかもしれん。カイナーズは血気盛んな魔族で構成されてるって言うしな。


 まあ、いきなり戦闘っことにはならないだろうが、あちらもこちらも相手を知らない。未知の存在にはいつものように警戒する。ちょっとした誤解でなにが起こるかわからんのだ、この異種族が入り乱れている世界では、な。


「周辺の様子はどうなってる?」


「半径五千メートル内に反応なし。海中にもなし。不明飛翔体はギリギリで感知しています」


 相手もギリギリで見える距離がそこか。結構見えるもんなんだな。


 ちなみに山梔子くちなしの性能をよくしているので、くっきりはっきり見ることはできます。


「小さいな? 哨戒機ってもっとデカいと思ったんだがな?」


 とても長距離を哨戒できるとは思えない。大陸からこちらまで五日の船旅になるって聞いた。横断は可能でも往復ができるとも思えない。ってことは、近くから飛び立っているってこと。


「……空母でもいるのか……?」


 いったいどんな能力を願ったんだよ? 空母出せる能力なんて十二分に神から介入されるだろうがよ。


「第六偵察ドローンがいくつかの船を感知しました」


 ファンタジーな世界とは言えこの星も丸い。三、四千メートルも離れればレーダーで捕捉することはできない。それを補うために八方──いや、上にも放ってるから九方か。その九方に放っているので、最大探知範囲は半径十万メートルになる。


 まあ、魔力をもっと注ぎ込めば探知範囲は広がるが、そこまでする意味がわからない。なので今の性能にしたわけです。


「映像、出ます」


 艦橋のメインスクリーンに偵察ドローンが見たものが映し出される。


「……艦隊かよ……」


 空母一隻。戦艦が二隻。駆逐艦っぽいのが四隻。世界観をぶち壊す光景である。


「黒旗からしてカイナーズなのは間違いないな。偵察ドローンを退かせろ」


「どうしてでしょうか?」


 その辺の機微はシミュレーションだけでは学べないか。万能でも全能ではない証明だな。


「敵対行動と思われたくない。カイナーズは厄介だからな」


 あちらも山梔子くちなしを見て下がったことからして、厄介と認識したのだろう。となれば、理性的な判断ができるってこと。そう言う相手とは戦ってはダメだ。


「わかりました。退かせます」


山梔子くちなしの進路を月島つきしまに向けろ。別の方法で接触してみる」


 意識を月島にいる肉体へと戻す。


「……敵対するには危険だな……」


 アイリたちが見習いどもを紅桜べにさくらに収容しようとして怒鳴っているのを見ると、つくづくそう思うぜ。


 強大な敵、ではないが、強大な存在ではある。対等に付き合うとなればこちらも対等な戦力を持たねばならない。が、まだまだおれたちは格下。強大な存在に接触するには強大な存在の力を頼ろう。


 サイレイトさんの通信具に通信。仲介役になってもらうとしますかね。

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