第178話 ままならない
スカイラプターが音速の壁を突破した。
万能スーツによりGは感じんが、視覚から音速の凄さは嫌でも感じられた。
「……この世界で音速出す理由ってなんだろうな……?」
まず理由が思いつかない。が、今後あるかもしれないから無駄ではないはずだ。と思っておこう。
「カナハ。大丈夫か?」
マギスーツも対G仕様にはなっているが、音速に耐えられる対精神仕様にはなっていない。失神しても恥ずかしいことではないだろう。
「うん! 大丈夫!」
と、なにやら歓喜したような返事。怖くないんかい?
「すっごく楽しい! あたしもやりたい!」
我が娘のなんと頼もしいことよ。と、喜んでいいものなんだろうか? なんか不安が勝ってるのはなんでだろうな……。
まあ、やりたいと言うのなら否はなし。一度、月島つきしまへと戻り、スカイラプターの操縦法をゆっくり時間をかけて教え込み、まずはシミュレーションで学ばせた──のだが、さすがに難しいようで発進すらままならなかった。
「……いくら知識を教え、シミュレーションさせてもアニメ的戦闘機を操るのは難しいか……」
万能さんのお陰でおれは難なく知識を受け入れられ、自分の手足のように操られるので、つい自分基準になってしまいそうになるが、教育や技術習得には時間がかかると心に刻んでおこう。
「見習いどもはどうだい?」
慌てず騒がず適度にやっていこうと決めたら、おれが率先して示さなければ下にはわからないと、アイリと一緒に見習いどもの監督することにした。
それと、アイリとのコミュニケーションと言うか、夫婦の語らいと言うか、信頼を築くためにも二人の時間を取ることにしたのだ。
と、ミルテからもアイリと一緒にいてやれと言われたのだが、どうにもこうにも戸惑うばかり。まったく、一夫多妻とは奇妙キテレツだぜ。
なんて片付けられたら楽なんだが、それで夫婦不和とかなったら目も当てられん。奇妙キテレツでも夫婦円満のためにはあちらも立ててこちらも立てなければならんだろう。
「良くもなく悪くもなくと言ったところだな。才能があるヤツなど滅多には出ないし、化けるにしても下地がついてからだからな」
「まったく、もどかしいもんだ。優秀な人材は欲しいが、飛び抜けた者はなにかと扱い難い。だからと言って無個性な兵士も状況に対応できない。上に立つと言うのは本当に難しいもんだよ」
天才や飛び抜けた才能を持つ者はなにかと生き苦しいものだし、穏やかな人生とは無縁でもある。それは率いる者にしても同じこと。そう言うヤツは大抵トラブルメーカーだからな。昔、おれがいた傭兵団がそれで苦労させられたものさ。
「フフ。タカオサが言うと妙に深刻に聞こえるから笑えるな」
昔、散々苦労させられ、今現在苦労している者からしたら笑えねーよ。ったくよ~。
夫婦の語らい(?)をしながら訓練を見守っていると、各所に設置した監視装置のスピーカーから緊急警報が鳴り響いた。
「警報は山梔子くちなしからだ。なにかを捕捉したようだ。アイリは見習いどもを紅桜べにさくらに集めろ」
「了解だ」
すぐに返事をすると、各所にいるヤツらに連絡を飛ばし始めた。
ほんと、こう言うときは頼りになる嫁だ。落ち着いたら嫁孝行しないとな。
「カナハ。お前は紅緒べにおで山梔子くちなしへと向かえ。マーメードモードで警戒しろ」
「わかった」
スカイラプターから出ていたカナハもすぐに返事し、紅緒べにおへと駆けていった。
「サイラ」
と、
「はっ!」
あちらはおれの声だけだが、おれにはサイラや艦橋の様子を脳に映し出す。
「なにがあった?」
「五分前に謎の飛翔体を捕捉。捕捉位置は北西。距離三十四キロ。上空約千メートルです」
シミュレーションのお陰か、報告に淀みがない。よい方向に化けたようだ。
「……哨戒機、か……?」
軍事や兵器に精通してるわけじゃないから機種はわからんが、これは確実に前世のもの。この世界のレベルでは造り出せないものだ。
「……カイナーズか……」
いずれ接触するとは思っていたが、まさかこんなに早くやって来るとは思わなかったぜ。
「まったく、この世はままならないぜ」
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