第172話 ついて来い
「増えてないか?」
「うん。増えてるね」
ハハルから四十八人と聞いたはずなんだが、なぜかその倍はいた。いったいなにが起こった!?
「どうするの? さすがに捌き切れないよ」
そう、だな。さすがにこれを捌いてくれと言ったらハハルに殺される。万能さんも生命は維持はできても精神を維持するのは大変だからな。
……精神を下手に弄ると崩壊したり変革したりするからよ……。
ったく、あの腐れ人買いどもめ。これだけの人数をいっきに連れて来んじゃねーよ。近所の手前もあるから整理する暇なく収容施設に放り込んでしまったじゃねーかよ。
「しかたがない。何回かに分けよう」
「どう分けるの? 名簿も作ってないのに」
「そこは年齢と男女で分ける。第一陣の中に使えそうなのはいたか?」
「四人いたよ」
「なら、その四人はハハルの配下にして手伝わせろ」
一番頑張っているハハルのところから優先して引き抜いていく。でないと、回るものも回らなくなるからだ。
「わかった。商業部でもらうね」
商業部か。わかりやすい名称をつけたものだ。なら、今日からハハルは商業部部長だ。って、会社っぽいか?
「旦那様。あたしたちにも手伝わせてください」
「うん。大したことできないけど、タカオサ殿やハハル殿ばかりに働かせてばかりでは妻の名折れだよ」
と、優しく頼もしい妻たちの援護。なんかもう涙が出そうである。おれ、こんなに恵まれすぎて大丈夫なのか!?
幸せすぎて不安になるとは聞いたことあったが、まさか本当だったとは夢にも思わなかった。だが、改めて思う。この幸せは絶対に放したくないと、な。
「ありがとう。なら、手伝ってもらうよ」
おれだけではなく、妻らと協力して望月家を盛り立てるのが正しい夫婦のあり方だ。
「父さん。おれたちもやるよ。なんでも言って」
「あたしもやるよ」
頼もしいのは妻たちだけではなく、子どもたちも頼もしいものだった。
……なんだよお前ら。おれを泣かそうとしてんのか……。
たぶん、一人だったら泣いてるところだが、ここは笑顔を求められた場面だ。根性見せろや、おれ!
「お前たち、ありがとうな。よし、ハハル。十歳以下は館に連れていく。見た目年齢で構わないから選んでくれ。ハルマ。お前たちで運んでもらう。何人輸送機を操縦できる?」
輸送機の操縦シミュレーションはやっているとは前に聞いたが、それから実際に操縦しているかは聞いてないのだ。まあ、調べたらわかることなのだが、そこは親と子のコミュニケーション。なんでもかんでも省略化したらいかんのだ。
「難しい操縦じゃなければ大丈夫。できるよ」
うん。そつがなくてよろしい。さすがおれの子だ。
「湖に浮かべてある輸送機はすべて動かせるようにした。好きなのを使え。最初の便にはミルテ、ハルナ、ハルミも乗れ。ミルテとハルミは館での采配。ハルナは地下に住む場所を作ってくれ。しばらくは行儀見習いに読み書き、畑の世話をやらしてくれ。細かいことややりたいことがあるならやってくれても構わないから」
そこはミルテとハルミの判断に任せるし、ハルナと相談しても構わない。十歳以下で売られるのは雑用をさせるためであり、下積み期間でもある。買うヤツらはそれを理解して買っているのだ。
……前世のように即戦力とかの夢想は見ないし、望みもしないからな、この時代は……。
「はい、わかりました」
「うん、任せて」
頼もしき妻たちを見送り、家族の輪の外にいたアイリへと目を向けた。
「アイリ」
と呼ぶと、一拍遅れてこちらへと歩き出した。
前世も今生も女心に敏いとはとは言えないが、だからと言って鈍いわけでもない。惚れた……と自分で言うかのは悶絶級だが、好いた男が他の女と仲のよくしてれば辛いってことぐらいはわかるわ。
「アイリ。卑怯な言い方になるし、この場で言うには浅はかだと思う。だが、言うべきときはここだろう。今を逃せばきっと後悔する。アイリ。おれとともに来い」
アイリがおれに恋心を抱いていたのは知っていた。
だが、おれたちはいつ死ねともわからない傭兵だった。
もちろん、所帯を持つ傭兵はいるし、幸せに暮らしている者もいる。傭兵だから、なんてことは単なる言いわけにすぎない。
しかし、アイリは陽炎団の後継者であり、継がなければ多くの団員が路頭に迷う。しかも、女だけの傭兵団。越える壁は限りなく高かった。
愛や恋を貫ける時代ではなく、所帯を持つには力を持ち、示さなければならない。根なし草のおれには
なんて思いも今は昔。前世の記憶が蘇り、万能薬変身能力にレベルアップする体がある。支えてくれる家族がいて幽世かくりよの域にだってこじ開けられるだけの意志もある。アイリの思いや自分の思いを殺す必要はまったく持ってねー!
だから今だ。今、アイリへと手を伸ばす。
「おれの手を取れ、アイリ。おれについて来い」
これがおれにできる精一杯のプロポーズ。待っていただろうアイリへのおれの答えだ。
「あ、ああ。どこまでもタカオサについていくさ」
しっかりとおれの手をつかんだ。ならば、おれは離さないよう強く握り締めるまでだ。
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