第169話 ダージン
とまあ、極大のエサを出してみたものの今は序列発表会。すぐに食らいつかせるわけにはいかなかった。
じゃあ、なんでかと言うと、左軍のことがあるからハルマたちに構ってられないってことだ。
父親どうこう言っててそれかよ! との罵りは甘んじて受けよう。だが、同時進行できないのだから重要なものから片付けるのは至極もっとものことだろう。
「じゃあ、明日から活動してくれ。それと、その日なにがいったかを記録、日報を書くようにしろ。もちろん、ここに、いるすべての者もだぞ。いずれお前たちの下ができて教育しなくてはならん。その日のための情報の蓄積だ」
と言ってもわからんか。まだ知識も経験もない村の子どもだし。
「と言うか、字を書けるヤツはいるのか?」
この時代の村の子どもに聞くなど愚問だが、ハルマやハルミは読めたし書けもした。これはおれが徴兵されてからミルテが努力して学び、子どもたちに教えたそうだ。おれが文字や計算は覚えろとの言葉を守ってな。
本当にミルテには頭が下がる。豊かではない田舎の村で、教えてくれる者も少ないだろうに、毎日毎日少しずつ学んでいくのだ、強い意志がなければ一月と持たないで挫折していることだろう。言ったおれですら何度も挫けそうになったんだからな。
「今、ハルマ──じゃなくて、ハルマ様に教わってます」
と答えたのは体より頭を使うことのほうが得意そうな少年だ。
「そうか。ならシミュレーションに読み書きも追加しておくか」
特にこの少年には多くを学ばせよう。きっとハルマの支えとなってくれるはずだ。
「ハルマ。お前の頭に空中戦艦の情報を送る。ただ量が量だけに小出しにしていく。いっきにやると脳が壊れるからな」
ハハルでやって変な進化(?)を起こしてしまった。跡継ぎには慎重にやらんとな。
「……あ、うん。ほどほどにお願いします……」
ハハルから聞いてるのか、苦笑いをする我が息子。ハハル、すまん!
「おう。今度は大丈夫だ。安心しろ」
今回は空中戦艦から輸送機を発進させてここに呼ぶってだけだから。
その情報をハルマにゆっくり流してください万能さん。
「……頭は痛いか……?」
「……痛くはないけど、凄い情報量で目の奥がチカチカしてる感じ……」
「直じきに慣れるからもう少し我慢しろ」
万能さんもハルマの脳の保護や容量を学びながらやっている。そこは我慢してもらうしかないのだ。元々はおれに合わせたものだからな。
約五分で情報のインプットが終わった。
「ちょっとクラクラする」
「これ以上は無理か。やはりしばらくは複数人で動かすしかないな」
……もっとも、戦闘ともなれば大したことはできんだろうがな……。
「とりあえず、店まではおれが操縦する。ハルマは休んでいろ」
「う、うん。お願い……」
そう言ってしゃがみ込むことはなかったが、結構辛そうだ。
……万能とは言っても全能ではない。ましてや無理矢理なわけだから文句を言うのはお門違いだよな……。
空中戦艦専用の朝日型輸送機──これも名前はハルマたちに任せるか。もうハルマたちのものなんだからな。
「タカオサ様! おれに操縦させてください!」
さて、乗り込むかと言うところで、背の高い少年がそんなことを叫んだ。
「輸送機をか?」
「はい! ハルマ様から
まあ、基本、操縦法は同じにしてある。機体のサイズに戸惑うかも知れんが、
「父さん。ダイオはおれより
ほぉう。それはまたおもしろい。もしかしてハルマは当たりを引いたのかも知れんな。
「いいだろう。ハルマより上手いと言うなら他より長く訓練しろ。もし輸送機が物足りないと感じたらお前、いや、ダイオ専用機を作ってやる。励めよ」
「……専用機。はい! 頑張ります!」
専用機、ってところが琴線に触れたのだろう。やる気で爆発しそうである。
「よし。ダイオ。操縦席に座れ。お前の体に合うよう調整してやる。それと、この輸送機に名前をつけてやれ。これからこの輸送機はお前の相棒であり、自由に羽ばたく翼となるんだからな」
いいなと、ハルマに目で問うと、もちろんとばかりに笑顔で頷いた。
「……ダージン。ダージンでいいですか?」
ダージン? 初耳だな。なにか由来があるのか?
「おれの村で羽矢目はやめをダージンって呼ぶんです!」
羽矢目はやめか。前世で言うなら隼はやぶさ、かな? まあ、おれの解釈では、だがよ。
「そうか。なら、今日この時からこの輸送機はダージンだ。そう登録する」
ダージンの両壁に茶色でダージンの絵を描いた。あと、一号機とも追加しておこう。おれからのサービスだ。
「よし、皆。ダージンに乗り込め!」
おれの号令に頼もしく返事をする右軍諸君。まったく、こいつらの未来がどうなるか楽しみでしょうがないぜ。
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