第164話 可能性

「ここじゃ収容し切れないよ」


 とのハハルのお言葉に、店の地下に収容できる場所を造った。


「……なんでもありね……」


 呆れるハハル。この程度で驚いていたら館の地下に腰を抜かすぞ。


「まずは、飯を食わして太らせろ。あと、身綺麗にしておけ。服と風呂、厨房はあるから」


 地下に造った収容施設の情報をハハルに流す。


「さすがにあたしだけじゃ対処できないからアイリさんたちを呼んでよ」


「わかった。予定変更する」


 右軍をまた放置してしまうが、まあ、これと言った敵と戦っているわけではないのだし、延びても支障はないだろう。大体の敵ならカナハで充分だし。


 通信をアイリに繋ぐ。


「アイリ。すまないが店に来てくれ。人買いから大量に買ってしまい、おれたちだけでは手に負えんのだ。カナハや山梔子くちなしの連中はそのまま訓練しててくれ」


「了解した。すぐにいく」


 アイリがいてくれて本当に助かる。その手に一番詳しいからよ。


「助かる」


 通信を切り、エレベーターで地下の収容施設へと向かう。


 まあ、エレベーターの概念などない世界なれど、万能さんにかかれば百年も前からあったことにでき、なんの違和感もなく店で働く者が使えるだろう。


 地下一階と二階は倉庫にするとして、地下三階に収容施設にしたわけだが、万が一に備えてシェルターとして利用できるようにしておくか。


 そうだな。落ち着いたら港まで通路を造り、さらに余裕があるなら飛行場まで伸ばすのもいいかもしれんな。さすがに館まではやりすぎなので、そこは自重しておこう。


 などと考えながら収容施設の食堂へとやって来た。


 そこには七十人近い男女──上は十四歳から下は六歳と、買ったはいいが、役に立つまでにはしばらくかかりそうなのがわかりすぎてため息しか出なかった。


 ……ハルマの代になってからかだな……。


 まあ、おれの代で困ることはないだろうし、子のために頑張るのが親の勤めってもんだ。ため息をつく前にやれるべきをやれ、だな。


 戸惑いながらも出された飯を頬張る子どもたちをなんとはなしに眺めていると、アイリたちがやって来た。


「……これはまた、大量買いしたもんだ……」


「一度に買う人数ではないですね」


 子どもたちの多さに呆れるアイリたち。まったくなので素直に受け入れておく。


「すまないな、予定を変えてしまって」


「予定は未定。上手くいかないのには慣れてるさ……」


 その物言いと苦笑に苦労が垣間見れるな。


「別の場所で話そうか。ハハル。お前も来てくれ」


 別の場所で子どもたちを苦い顔で見ているハハルに声をかけ、別室へと移動した。


 十人くらいでちょっとした会議をするには充分な部屋をいくつか造り、その一つを畳敷きにしてテーブルと座布団、あと、簡易的な給湯施設を追加した。


「自由に座ってくれ」


 久見茶が入ったポットと、アイリたちが嵌まってる紅茶が入ったポット、ハハルにはココアが入ったポットを出し、あとは適当にお菓子を出してやった。


「この菓子を食うと、タカオサ様について正解だと何度でも思うよ」


 テーブルに置かれたお菓子を食うアイリがなんとも嬉しそうな顔して、そんなことを口にした。


 アイリが甘いものが好きなのはわかっていたが、まさかここまで甘党だとは思わなかった。ハハルにも負けてないんじゃないか?


「あたしもそう思う。あのとき父さんにかけたあたしを褒めてやりたいわ」


 こちらはプリンを幸せそうに頬張りながらそんなことを口にしている。


「皆も遠慮してると二人に食われるぞ」


 まあ、食われたところで作り出せばいいだけのことなんだが、そこは人の、いや、女のかな? とにかく、食い物の恨みは深い。それで不和とかになられたらたまったもんじゃないわ。


 とりあえず、皆の腹が満たされるまでおれはどら焼をパクつきながら久見茶を飲んで待つことにする。


 ハハルはともかく、アイリたちは体を動かしているからよく食うこと。腹は大丈夫か? と心配になるほどだ。


 もっとも、生命維持機能により余分なエネルギーは排出されるんだけどな。


 どら焼を二つ食べ、久見茶からコーヒーへと切り替え、さらにタバコをゆっくり一吹き。それで女性陣の胃は満足されたようだ。


 キセルを仕舞い、残りのコーヒーを飲み、こちらに目を向けている女性陣に意識を向けた。


 ……身内とは言え、女ばかりを相手するのは一苦労だぜ……。


「さて。買ったガキどもの配置を決めようか」


「決めるほどあるの? 家も店も充分いるけど」


「右軍はまだ揃ってないが、全員は無理だぞ」


 切り出したらそう反論されてしまった。


「おれの大まかな考えだが、七歳以下は畑仕事の補助。八歳から十歳までは行儀見習い。十一歳以上は右軍での訓練、とかはどうだろう? もちろん、それぞれの適性を見て変えたりはするが、落ち着くまではそれでいこうと思う」


 どうだろうか? と皆を見回す。


「採算は合うの? 損する未来しか見えないんだど」


 つい最近まで村娘が採算とか言い始めるこの成長──いや、もう進化と言ってもいいだろう。こいつは本当に人かと疑いたくなるわ。


「人は育ててこそ価値が出る」


 たまに勝手に育つヤツもいるが、そんな天才は極一部。それを基準にしたら必ず失敗するわ。


「子どもは可能性だ。育て学ばせ経験させてこそ、可能性の扉は開かれる」


 前世での受け売りだが、教育が国力を上げているのは間違いないし、今生は前世ほど法は厳しくない。倫理だって低い。さあ、そんな状況で子どもを買うことは損と言えるのか? おれは声高らかに「ない!!」と答えよう。


「ハハルが言ったように損はする。だが、それは未来の得を獲るための投資だ。望月家が繁栄するためのな」


 数は力だが、質だって力だ。ならば、数と質を求めてようではないか。この腐れた世界を変えるためによ。


「これからも子どもは買う。育て学ばせ経験させ、望月家の力とする」


 これは当主としての決定だ。否とは言わせない。


「はぁ~。わかった。配置を考えよう」


「了解した。考えよ」


 皆の賛同受け、考えを出し合った。

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