第165話 序列

 これで決定──といかないまでも、暫定的には決めることができた。


「結構時間がかかったな。また明日としよう」


 時間にすれば二時間くらいなのだが、これ以上は配置してからでないとわからない。なんせ五十人近くいて、それを指揮する者がいないのだからしょうがない。


「あたし、今日はここに残るよ。うちの者がいないとダメだろうしね」


「そうだな。そうしてくれ。アイリたちも何人か残ってくれ。暴動、とまではいかなくてもこれだけの人数が騒げばハハルではどうしようもないからな」


 傭兵だけあって威圧はある。黙らすには最適だろう。


「了解した。それと、これは助言だが、序列はわからせていたほうがいいぞ」


 序列? どう言うことだ?


「簡単に言えば、お前たちの主はタカオサ様だ、ってことを知らしめておくのさ」


「それと、望月家の方々も知らしめておくべきです。でないと失礼を働く者が出て来ますから」


「……つまり、力関係を示せ、ってことか?」


「そうだ。お前らはタカオサ様に買われ、望月家のために働くことを求められている。反抗は許されない。嫌なら別のところに売るまでだ、とな」


 必要か? と己に問えば、前世のおれは悩むが、今生のおれは必要だと答えた。


 アイリの言うことは理解できる。ここでは人権などなく、命は軽い。皆平等などと言う概念はない。アイリが言った序列が優先されるのだ。


「タカオサ様の代で終わるならタカオサ様の好きなようにしたらいいと思うが、望月家もちづきけとしてやっていこうて言うのなら序列は必要だ。今後、奥様やハルナ様との間に子ができるかも知れん。当主決めは拗れると面倒だぞ」


「詳しいんだな、お前」


「母からの受け売りだ。わたしが陽炎かげろうをすんなり継げたのもそのお陰でもある。と言うか、大体の傭兵団はそれで解体されるんだ」


 言われてみれば確かにそうだ。二代三代と続く傭兵団は少ないし、続いているのは序列がしっかりしていたわ。


「あたしもアイリさんの言うことに賛成。さすがにこれだけの人数となると上下関係ははっきりさせておいたほうがいいよ。このままだとハルマが継いだとき大変だと思うから」


 そう、だな。ハルマに侮られないようにしろと言ったところで、知らない者にしたら「誰だこいつ?」になる。道筋をつけておくのも現当主であるおれの役目である。


「わかった。序列を示そう。ただ、今日と言うわけにもいかんから、明日、いや、明後日にするか。場所はここでいいだろう。ミルテたちにもここを見せておきたいしな」


 望月家の女主として知っておいてもらわないと困るし、侮られる原因ともなる。経営はハハルに任せるにしても情報だけは持っていてもらおう。


「そうだね。あの子たちも落ち着くだろうし、いいんじゃない」


「わたしもそれでよいと思う」


 二人の了承を得たのなら問題はないな。


「じゃあ、ハハル。おれは山梔子くちなしにいってから館に帰る。明日は館でいろいろと調整するから来ないと思うんでよろしく頼むな」


 オン爺や飛行隊(今、決めました)にも伝えんとならんし、館の女たちに説明せんとならん。ってか、一日で大丈夫か心配になって来たわ。


「わかった。任せておいて」


 自然とそう言える娘で頼もしい限りだよ。


「アイリたちもよろしく頼むぞ」


「了解した。山梔子くちなしの連中を頼む」


 こちらも了解と答えて光月こうづきへと向かい、月島つきしまへと向かった。

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